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OpenStack Summit Tokyoを振り返って

2015年12月28日(月)
鳥居 隆史
OpenStack Summit Tokyoを振り返って

早いもので、OpenStack Summit Tokyoが終わってから2か月近くが過ぎ、2015年も終わろうとしています。本連載では、NECとNTTのメンバーがOpenStack Summit Tokyoのレポートをお届けしてきました。連載の最後として、OpenStack Summit Tokyoを全体として振り返り、今後の展望を述べたいと思います。

東京開催の意義

OpenStack Summit Tokyoは5,000名以上が56か国から参加し、スポンサー86社という規模になりました。会期中は高輪一帯をOpenStackerが埋め尽くす勢いと熱気がありました。この状況に驚きを感じた方も多くおられたと思います。「OpenStackすごいですね!」といった声を多く聞きました。東京でOpenStack Summitをやることにより、日本でOpenStackがより認知されるようにしたい、というのはSummitを招致する狙いでもあり、実現できたことはうれしく感じます。その反面、東京でやらなければ、このような熱気・盛り上がりが伝わらないということも強く感じました。実際、2年前くらいから、OpenStack Summitは3,000人を超える規模となっており、すでにビッグイベントでした。しかし、なかなか日本国内には情報が伝わっていませんでした。海外メディアを介して情報を取ることはできますが、やはり日本語の情報はどうしても少なくなります。OpenStackというコミュニティでクラウドインフラの開発が、このような熱気を持ち、規模を拡大しながら進んでいる、という状況は、すでに何年も前から行われていました。今回東京で開催したことで、その熱気を実際に体験した人がたくさんいると思います。これをきっかけにOpenStack Summitに関心を持つ人が増えることを期待します。

OpenStackの領域拡大とBig Tent

この2年ほどを振り返ると、OpenStackはIaaSに留まらず、カバーする領域を拡大してきています。今回のSummitでも、Big Tentというコンセプトに基づき、数多くのプロジェクトがさまざまな領域に進出しているのがわかります。思い返すと2年ほど前、OpenStackはIaaSに留まるのがよいのか、PaaSやSaaSまで拡大していくのがよいのか、という議論がありました。IaaSとしてもまだやることがあり、ソフトウェアとして安定化したとはいえないので、IaaSに注力すべきだという意見と、ユーザが求めるもの、コミュニティとして開発者が集まるものはインキュベーションとして取り組んでいくべきだという意見がありました。プロジェクトガバナンスが当時はしっかり規定されており、StackforgeからIncubationに昇格し、さらにIntegratedを目指すというフローがありました。OpenStack Foundationは、時間をかけてBig Tentにたどりつき、プロジェクトガバナンスの方式はゆるくなりました。コアの安定化はそれぞれのプロジェクトや、クロスプロジェクト、Ops-meetupという仕組みにより、改善をされてきました。狙ってやってきたのかはわかりませんが、振り返ってみれば、うまくマネージメントをしてきたと見えます。業界的にも、IaaSだけではもはやビジネスにならないという流れになっています。OpenStackは、流れをうまくとりこみ、コミュニティ運営やガバナンスの面でもうまくやっていると言えるでしょう。

デベロッパー視点でのOpenStack

デベロッパーにとって、OpenStackは理想郷、ユートピアです。1つ目の理由は、OpenStackコミュニティでは誰もが平等であることです。例えば会社の中であれば、新入社員のペーペーがプロジェクトの全体仕様に口をはさむことはなかなかできないでしょう。ですがOpenStackコミュニティでは、たとえ会社では新入社員であろうと、仕様を書いて対等に議論をすることができます。コミュニティでは技術と貢献で評価されます。身分や年齢は関係ありません。実際、OpenStackプロジェクトのPTL(Project Team Lead)をやっている人たちには20代もいます。会社であれば、入社数年です。それがグローバルに広がるデベロッパーを束ねて、議論をリードし、グローバルに使われる重要なソフトウェアを作り上げているのです。

2つ目の理由は、技術オリエンテッドが徹底していることです。会社であれば、仕様を決めるときに、納期であったり、費用であったり、今までのやり方の踏襲であったり、ビジネス上の付き合いであったり、といった技術とは本来関係のない理由で仕様が決まることがあります。ですがOpenStackコミュニティはそのようなことは基本的にはありません。デベロッパーが技術的な議論を積み重ねて仕様が決まっていきます。技術的に正しいことは正しく、間違っていることは間違っている、という常識が通用する世界です。

3つ目はデベロッパーがリスペクトされることです。昨今プログラムを書くという仕事は、特に日本ではあまり処遇がよくないのではないかと思います。IT業界の下請け構造という問題もあり、人月で扱われ、実装は誰でもできる仕事、という風潮もあるような気がします。ですがOpenStackコミュニティでは違います。OpenStack Summitのキーノートでは必ず毎回、リリースに関わったデベロッパーに拍手で感謝を伝えます。Design Summitはカンファレンス会場よりも電源が用意され、コーヒーやお菓子も完備されます。さらに、通常では数万円かかるOpenStack Summitへの参加費が、コントリビュータは無料になります。これはOpenStackにとって、仕様を議論しコードを書くデベロッパーが大事であると認識しているからです。

Design Summit会場。フルーツや飲み物、お菓子が完備される。電源も充実。

さて、このようなデベロッパーにとっての理想郷に何が起こるでしょう?答えは、「優秀なデベロッパーが集まる」です。技術力で正しく評価され、実力次第でグローバルに評価され、リスペクトされるのですから当たり前です。これが今のOpenStackで起きていることなのです。そしてソフトウェアの生産性は同じ1人でも優秀なデベロッパーは100倍違うと言われています。つまりOpenStackは、世界中の優秀なデベロッパーによって、桁違いの生産性をもって開発が進んでいるということを意味しているのです。

ユーザにとってのOpenStack

前述のように、OpenStackはデベロッパーを重視しています。そのためユーザ視点が欠けているという指摘は常にあります。しかし、クラウドの時代になり、デベロッパーとユーザの関係も変わってきています。これまでデベロッパーやベンダとユーザには情報量の差、いわゆる情報の非対称性がありました。しかしその非対称性はオープンソースの普及で無くなってきています。それがDevOpsを可能にしたり、ベンダーロックインを避けることができることにつながっています。また、ユーザ同士のつながりという新たなモデルもあります。OpenStackではOps-meetupというのがあります。ここではOpenStackを運用しているユーザ・オペレータが集まり、情報共有をし、デベロッパーへの要望をフィードバックしています。このようなトレンドをどう捉えて対応していくかという観点で考える必要があります。インターネットとネットワークの広帯域化、無線ネットワークの充実、サーバのコモディティ化などにより、クラウドという形態が可能になりました。OpenStackはこれらテクノロジの進化をバックグラウンドとした、ソフトウェア開発の新しいモデルであると言えます。LinuxはLinusという絶対君主がいて成り立っています。OpenStackにはLinusに相当する人はいません。だからOpenStackはうまくいかない、という論調が以前はありました。ですがそれをくつがえし、コミュニティは成長してきています。これを可能にしたのが、OpenStackの開発プロセスであり、それを支えるツール群、CI環境であり、ユーザからのフィードバックを得る仕組みです。そのベースとしてインターネットとクラウドがあります。テクノロジの進化により、従来は常識だったことも変わっていき、不可能と思われていたことが可能になり、コストに見合わないと思われていたことがコスト的に実現可能になっていきます。このような変化をとらえて、どう活用していくかが重要になっていくと思います。

ユーザにとって、OpenStackを使うことが目的ではありません。ユーザとして、何か実現したいことがあり、そのためのソフトウェアやプラットフォームを選ぶのであって、OpenStackがありきではありません。今回のSummitでキリンの事例が発表されましたが1、そのスライドでも、OpenStackを使うことが第一の目的ではない、と明記されています。安定しており、効率的で、使いやすく、運用しやすいプラットフォームがほしい、それが結果としてOpenStackの利用にたどり着いたと説明しています。

“Imprementing OpenStack is NOT our primary purpose”

※1 出典:Kirin User Story: Migrating Mission Critical Applications to OpenStack Private Cloud.

つまり、OpenStackは選択肢の一つです。ただ今まではOpenStackを選択肢としてこなかった方々も多いと思います。これまではベンダーの製品もしくはパブリッククラウドしか選択肢はありませんでした。OpenStackが出てくることでユーザにとっては選択肢が増えることになります。ただし、OpenStackはベンダー製品の安い代替品ではありません。OpenStackをどう使うかは、幅が広くあります。オープンソースをダウンロードしてもよいですし、ディストリビューションやソリューションを採用する方法もあります。Managed Private Cloudのようなソリューションもあります。ユーザは考えなくてはならなくなります。ベンダーやインテグレータにお任せではなく、自分たちがどのようなITインフラを必要としているか、将来を見すえて考える必要が出てきます。逆に言えば、そこからスタートせずにOpenStackありきで使おうとすると、いろいろな選択肢があるだけに混乱し、何のためにOpenStackだったんだっけ?という話になります。それが「これじゃないOpenStack」で説明されていたことだと思います2

※2 https://www.openstack.org/summit/tokyo-2015/videos/presentation/korejanai-story-how-to-integrate-openstack-into-your-business-strategy

ユーザにいろいろと強いているようですが、必ずしもユーザだけで考えろと言っているわけではありません。パートナーやチーム作りが重要になります。ベンダーやディストリビュータ、インテグレータの力を借りて、チームを組んで取り組むということです。Summitのユーザ事例でも、”Team up - Don’t DIY”というフレーズが出ていました3

大切なのは信頼できるチームを編成することです。技術的に信頼できる人がいることも重要です。OpenStackでは開発している人がすべて見えています。OpenStack Summitに行けばデベロッパーに直接会うことができ、会話もできるチャンスがあります。それはオープンソースだからこそできる信頼関係の構築の仕方であり、そこをポジティブにとらえられれば、OpenStackは最も信頼できるプラットフォームだと言えます。OpenStack Summitには世界中からデベロッパーが集まってきます。彼ら彼女らは個人レベルでグローバルで活躍できる優秀な人材です。そのような人材が集まって、真剣に議論して作り上げているのがOpenStackです。そこを信頼するからこそ、ここまでエコシステムが広がってきたと言えるでしょう。そこにはセールストークではなく、技術を正しく評価して適切な意見をくれるデベロッパーや、OpenStackを実際に使ってその経験や失敗を話してくれるユーザがいます。その中に入りこむことで得るものは大きいと思います。

繰り返しになりますが、OpenStackを新たな選択肢です。ユーザの観点では、現状のスナップショットではなく、これまでの経緯や背景をとらえ、今後どうしていくかを考える段階に来ていると思います。

OpenStackはAWSにどう対峙していくのか?

AWSはパブリッククラウドで強力です。最新の決算でも、大きな利益を上げていることが明らかになりました。成長率も高いです。OpenStackをやっていると、このように勢いのあるAWSとどう戦っていくのか?とよく聞かれます。

クラウドインフラは5強に収れんしたと言われています。AWS、Google、MS Azure、VMware、そしてOpenStackです。パブリッククラウドの領域ではOpenStackは劣勢と思われています。HPがHelion Public Cloudをやめるというニュースは業界に大きなショックを与えました。OpenStack陣営の代表ともいえるRackSpaceもAWSとの連携を発表し、AWSの軍門に下ったかのような印象さえ与えます。OpenStackの生き残る道はプライベートクラウドだけというような論調はよく聞かれます。確かにマーケティング的にはそう分析できると思います。

しかし、OpenStackはもっと大きな可能性を秘めていると思います。その可能性はAWSとはベクトルが違っています。その理由は前述したデベロッパーの動向です。OpenStack Summitの本当の価値は、カンファレンスではなくDesign Summitにあります。もともと、OpenStack SummitはOpenStack Design Summit & Conferenceという名称でした。つまりデベロッパーが集まり、次のリリースについてFace-to-Faceで議論をするための会議だったのです。それが規模が大きくなるにつれて、カンファレンスとしての意味も大きくなり、今のOpenStack Summitという形式になりました。普段はグローバルに分散しており、チャットとメールでしかやりとりをしない開発者が同じ部屋で顔をつきあわせて議論をする、これを半年毎にやることでOpenStackはコミュニティを大きくして成長してきました。これは一つのミラクルとでもいえるような現象であり、現実に起こったということに大きな意味があると思います。AWSもGoogleも一つの会社です。会社組織としてのガバナンスを利かしてソフトウェア開発をし、サービスを立ち上げているという意味では、OpenStack以外はすべて同じモデルです。OpenStackだけが違います。OpenStackはオープンソースであるというだけでなく、前述した世界中の優秀なエンジニアが協力する仕組みを作り上げています。この力は強大であり、時間が経てばたつほど、その底力が現れてくると思います。もしかすると将来、AWSの中でOpenStackが使われてるようになるかもしれません。OpenStackの開発にAWSが参加してくるかもしれません。あくまで可能性というだけですが、AWSも自分たちですべてやるよりも、OpenStackを使えるところは使おうという判断は十分にありえると思います。

次回はAustin

次回のOpenStack Summitは、来年4月末にテキサス州のAustinで行われます。北米での開催なので、バンクーバーの6000名規模になるのは確実でしょう。さらに増える可能性もあります。東京で行われたことが、さらに規模を拡大して行われるということです。東京を見てしまったら、次にどうなるか興味がわくのではないでしょうか?気になってほってはおけないのではありませんか?遠いのは確かです。ですが、遠いからといって見ないでいると、グローバルな流れから取り残されてしまうかもしれません。国内市場は頭打ちです。クラウド化も間違いなく進むでしょう。AWSも強いですが、OpenStackの持つグローバルなデベロッパーたちの持つ可能性もますます大きくなっています。

OpenStackはエコシステムを拡大し、今やインフラにとどまらずコンテナやサービス、運用管理まで幅を広げていっています。ユーザもWebサービス企業からキャリア・エンタープライズへと事例は確実に増えていっています。ユーザはAWSも利用しつつ、OpenStackを適材適所で選択するようになっています。グローバルな方々と議論をし、ブースを回ることで、このようなOpenStackの動きを生で感じ取るのが大事なことだと思います。今回の東京開催をきっかけに、OpenStackの持つ可能性を感じ取り、継続して関わっていく方が増え、日本のクラウド業界、インフラ業界の底力につながることを期待しています。

番外編:ソーシャルミートアップ

OpenStack Summitは単なる技術ディスカッションのためだけの場ではありません。Face-to-Faceで言葉を交わし、開発を円滑にするために懇親会などを通じ親睦を深める場所でもあります。こうした機会を通じ、お互いの考えを理解しあうことはコミュニティ活動をするうえで非常に重要なことです。今回のSummit期間中にもさまざまなミートアップが行われました。日本開催ということで、日本の様々な文化を体験してもらおうという趣向もありました。

Swiftでは今回コントリビュータ向けのパーティとして屋形船でのパーティを行いました。SwiftStack、Rackspace、Intel、HP、Fujitsu、NTTなどSwiftにコントリビュートしている様々な企業から約40名が集まり、3時間の船旅を楽しみました。パーティ中の話題は様々で、直近の開発の話から、家庭とコミュニティ活動の両立の仕方、日本の文化や驚いたことなど海外の技術者ならではの発想などを聞くことができます。こうしたソーシャルミートアップの良い点は、比較的大きなオフィシャルパーティだと大音量の音楽や混雑でゆっくり話しづらいことをコアメンバーやPTLを交えて本音で語り合えるところにあります。ぜひこうしたソーシャルミートアップに足を運んで、サミット会場やオフィシャルパーティだけでは話しきれないことを、語り合ってみてはいかがでしょうか。

屋形船での懇親会
ラーメンショーを体験
居酒屋で語り合う
Neutronの懇親会
NEC OSS推進センター
NEC OSS推進センター所属。OpenStackが公開された当初から、ネットワークに関係する部分の開発や検証を行ってきている。日本OpenStackユーザー会のボードメンバーとしてイベントや発表多数。さらに沖縄オープンラボのメンバーとしてOpenStackとSDNの融合分野における先端技術の開発・検証を主導。

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