「OpenStack Summit May 2015 Vancouver」レポート #3(2日目)

2015年5月22日(金)
吉山 晃元木 顕弘

5月18日からカナダのバンクーバーで開催されているOpenStackのクラウドソフトウェア開発者、ユーザ、管理者のための国際イベント「OpenStack Summit May 2015 Vancouver」は、2日目を迎えました。

キーノートセッション

2日目のキーノートセッションでは、OpenStack Foundation COOのMark Collier氏が登壇。Collier氏からは、最初のトピックとして2016年のOpenStack Summit開催地が発表されました。春はアメリカ・オースティン(記念すべき第1回のOpenStack Summitが開催された場所です!)、秋はスペイン・バルセロナです。発表の瞬間は、会場が拍手と歓声で大いに盛り上がりました。なお、既報したように今年10月のOpenStack Summitは東京で開催されます。

2016年秋のOpenStack Summit開催地はスペイン・バルセロナ。その瞬間、会場は大きな拍手と歓声に包まれた

続いて、Technology Adoption(技術の採択)とMaturity(成熟度)という2つの軸を用いて、技術が時間とともにどのように変化していくかを示しました。OpenStackによるIaaS環境の中核技術「Nova」は「2010年にExperimental(実験的)からスタートし、現在は他の仮想化技術と同様にMature(成熟化)してきている」と述べ、次のExperimentalとして、コンテナ技術を活用した3つのプロジェクト「Magnum」(コンテナサービス)、「Murano」(アプリケーションカタログサービス)、「Kolla」(コンテナ利用のOpenStackインストーラ)を挙げました。

MagnumはDockerやKubernetesといったコンテナ技術をOpenStack APIを通じてサービスとして提供するためのプロジェクトです。MagnumのPTL(Project Team Lead=開発リーダー)も登壇し、Magnumを用いたコンテナVMの作成デモを行いました。また、Magnumを使うメリットについて、「Heatと組み合わせたコンテナ+アプリケーションのデプロイである」と指摘しました。

Magnumプロジェクトの紹介。右がMark Collier氏、左はMagnumのPTLであるAdrian Otto氏

Muranoはアプリケーションカタログサービス、即ち一種のPaaS/SaaS基盤であり、OpenStack Dashboard(Horizon)に統合されたGUIが特徴的です。Muranoのコア開発者も登壇し、ネット上からダウンロードしたレシピ(HeatのStack)登録、実行前のレシピ設定、アプリケーション環境構築のデモを行いました。コンテナ技術とPaaSは聴衆の注目度も高く、今後の OpenStack開発の中でも注力されることが予想されます。

また、eBay+PayPal、Pantheon、NASAが登壇し、それぞれ自社の事例を紹介するとともにOpenStackユーザとして開発コミュニティに謝意を示しました。PantheonはDrupalやWordpressといったPHP アプリケーションホスティングを行っている会社で、「すでにRackSpaceのベアメタルクラウド上でコンテナを利用している」と紹介していました。

キーノートの最後には、OpenStack Superuser Awardの発表が行われました。最終候補(Comcast、eBay、中国国立スーパーコンピュータセンター(天川2号)、Walmart eCommerce)の中からComcastが受賞しました。

Breakout Session紹介:Deploying OpenStack with Ansible

キーノートセッションの後に行われたBreakout Sessionの中から、興味深いものをピックアップして紹介します。今回は、運用に関するセッションです。

RackspaceとAURO(カナダ唯一のパブリッククラウド)の担当者が、新しいOpenStackのインストーラ「OpenStack Ansible Deployment(OSAD)」を紹介しました。OSADはRackspaceが開発したOpenStack基盤構築用のAnsible Playbookをコミュニティ開発化したもので、OpenStack Kiloリリースから正式対応しています。

興味深い点として、OSADはLXCの利用が前提となっており、OpenStackの各種サービスやデータベース、メッセージキューのクラスタが別々のコンテナ上にインストールされます。開発・評価環境では1台の物理マシン上でテストし、本番環境ではサービス群を複数(多数)の物理マシンに分散配置できるなど、システム構成が柔軟になります。

また、ここで使用されるOpenStackはRed HatやUbuntuが提供するOpenStackパッケージではなく、コミュティ版のOpenStackを独自にパッケージ化したものです。これにより最新のOpenStackリリースにいち早く対応し、更にその後のバグフィックスや独自パッチ適用も容易となります。

OSADの実行。設定ファイルの調整が済んでいれば、コマンド1つでOpenStack環境が構築できる

Design Summitの開催

2日目からは「Design Summit」が開催されました。今回からは、次のリリースの開発内容を議論する「Design Summit」と、Operators(運用者)の観点からOpenStackの改善点を話し合う「Ops Meetup」を同時に行い、開発者と運用者が交流しやすくするという試みです。

Design Summit開催初日は、複数のプロジェクトにまたがる課題を議論する「Cross Project」セッションと、「運用者(Ops)Meetup」セッションが行われました。

セッションの開催風景。多くの意見が飛び交い、白熱した議論が展開された

Design Summitの様子は、改めてレポートしたいと思います。3日目のレポートもお楽しみに!

NEC OSS推進センター
NEC OSS推進センター所属。OpenStackには初期から関わり、技術検証などに従事。日本OpenStackユーザー会で勉強会を企画するなど、コミュニティ活動にも積極的に関与。その功績から2013年にOpenStack Foundationが認定するOpenStack Ambassadorとしてグローバルに活動中。
NEC OSS推進センター

NEC OSS推進センター所属。OpenStack「Neutron」「Horizon」のコアデベロッパーとしてOpenStack開発に携わるとともに、クラウド案件の支援を行っている。ルーター、広域イーサーネット装置から迷惑メールアプライアンスに至るまで、さまざまな研究開発経験を持つ、FPGAからクラウドまで分かるエンジニア。プライベートではサイクリングを楽しみつつ、OpenStack/Linuxなどの翻訳を行っている。おいしいビールはコーディングのよき相棒。

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