現在のBIアーキテクチャ

2010年3月9日(火)
平井 明夫

企業内BIツール標準化への流れ

(2)ダッシュボード機能

この時代にQ&Rツールに追加されたもう1つの機能が、ダッシュボード機能でした。ダッシュボード機能とは、パワー・ユーザーが作成した複数のレポートを、同一のWebブラウザに表示し、経営層ユーザーが要約的なレポートを閲覧できるようにする機能です。

同時に、経営層ユーザーの視覚的な理解を助けるために、レポート上に使用できるデータの表示形式も、一般的なグラフに加えて、シグナルやゲージといったものが追加されました(図3-1)。

このように、C/S型のBIアーキテクチャの時代には、パワー・ユーザーだけであったユーザー層に、一般ユーザー、レポート開発者、経営層ユーザーが追加され、BIツールの機能は、極めて複雑なものとなりました。

この複雑性は、導入する側の企業にとっては、導入・管理コストを増大させる結果となり、当時のIT部門の最大の懸案であったTCOとITガバナンスの観点からも容認できないものでした。

その結果、企業が目指したのは、部門別導入をやめ、企業全体で計画されたBIシステムの導入への転換でした。つまり、部門やユーザー層ごとのニーズを優先した現場主導での導入をやめ、BIシステムのインフラを企業全体で使用できるアーキテクチャに基づいて整備するとともに、BIアプリケーションの構築を企業全体での基本計画に基づいて推進するという方向への転換が行われたのです。

このような方向転換を後押ししたのは、当時提唱され始めた「企業内BI標準化」(BI Standardization)という概念でした。この概念の内容については、筆者が2006年にThink ITに寄稿した「統合化が進むBIツール」の中で解説していますので、詳しくは、そちらをご覧ください。

BIスイートの登場

「企業内BI標準化」という新たなトレンドに直面したBIベンダーは、それまでの単純な製品コンポーネントの拡張や、自社に足りないコンポーネント製品の買収だけでは、ユーザー・ニーズに対応できなくなりました。

そのため、各BIベンダーは自社製品のコンポーネント間の本格的な統合に着手します。この時代に、各BIベンダーが行った機能強化は、主に次のような点です。

  • ユーザー層別に提供していた個別製品の統合
  • ユーザー・インタフェースの統一
  • ユーザー管理・アクセス制御の一元化
  • メタデータ(データ構造の情報)の統合
  • レポート開発環境の統合
  • 共通インフラ上での統合的なシステム運用環境の提供
  • 変更履歴の一元管理と監査ツールの追加

これら強化点はすべて、TCOの低減とITガバナンスの確保を目的としていました。これらの強化に伴い、BIベンダーは、これらの機能を総称して、BIスイートとして販売することで、「企業内BI標準化」の波を乗り切ろうとしたのでした。

このBIスイートのアーキテクチャが、現在のBIツール製品の主流を占めており、1989年のBIという概念の登場以来、変化を続けてきたBIアーキテクチャも、一応の完成を見たことになります。本記事の執筆時点で、販売されている主なBIスイート製品は図3-2のとおりです。

しかし、このような製品コンポーネントの統合は、BI本来の機能から見れば副次的な部分に相当し、製品ベンダーには多大な開発のコスト負担を強いることになりました。

このことが、それまで大手BIベンダーと呼ばれていたCognos、BusinessObjects、HyperionといったBI専業ベンダーが、相次いでIBM、SAP、Oracleといったより大手の総合ベンダーに買収された原因の1つとなったことは、歴史の皮肉というほかありません。

前回と今回の2回にわたり、初期から現在にいたるBIアーキテクチャの変容について説明しました。次回からは、BIのためのデータベース関連技術の最新動向について解説します。

株式会社アイ・ティ・アール リサーチ・フェロー

外資系ソフトウェアベンダーやITコンサルティング企業において、20年以上にわたり、BIツール製品のマーケティング、BIシステムの導入支援に携わる。2013年よりITRのリサーチ・フェローとして活動。現在は、事業企画コンサルタントとしてIT企業の新規事業立上げ、事業再編を支援するかたわら、ITRアカデミーにおいて、データ分析スキルコースの講師を務めるなど、データ分析を中心としたテーマでの講演・執筆活動を行っている。

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