要件定義で陥りやすいワナ

2010年3月3日(水)
長谷川 武

分析テンプレートは口当たりは甘いが猛毒

企業を訪ねた際、よく言われるのが「分析テンプレートはありませんか」という問いです。

手っ取り早く、他社が考えた分析手法やKPI(重要業績評価指標)を活用しようという算段です。確かに、テンプレートを見ると、目からうろこが落ちたように欲しくなります。そのテンプレートに自社のデータをつぎ込めば、たちどころに優良顧客が導き出されたり、すばらしいKPIが表示される気がします。

DWH用DBMSを手がける米Teradataは、百貨店業界を席巻することができました。この理由は、製品の性能が高く高レスポンスで利用できることももちろんですが、これと同時に、顧客分析/商品分析のためのテンプレートを持っていたからです。導入後の立ち上がりは早く、自社の販売分析を“見える化”できます。

百貨店にも2種類ありました。最初に苦労してデータ・ウエアハウスを構築した百貨店は、その後もいろいろな分析手法を編み出します。この一方で、他社のテンプレートを利用する二番せんじ以降の百貨店は、ずっと同じ土俵の中で改修を繰り返すことになったのです。

ある大手百貨店のIT部門とディスカッションした時のことです。分析担当者は「現場でもっと活用できるテンプレート(顧客を分析できる仕組み)を持ってきてください」と言うばかりでした。

私は、顧客分析や商品分析だけでなく、「これまで顧客でなかった人を顧客にするための方法は、Webを活用することによって見えてくる」と説明しましたが、「Web担当は別部署だから無理だ」とのことでした。実店舗の顧客とネットの顧客を別々に分析し、単に優良顧客にだけ買わせていたら、既存顧客の年齢層も上がり、いつかは疲弊してしまうのは当たり前です。

この例は、テンプレートに頼って、その土俵から抜け出すことができなかった例です。この百貨店も、当然のように吸収合併されました。テンプレートが100%悪いと言いたいのではありません。活用する部門がそれに頼りすぎなのです。テンプレートを活用するのであれば、常に新しい目線を持つことが重要なのです。

最後に

データ・ウエアハウスにとって重要なポイントが「その企業のコア・コンピタンスをいかにつぎ込めるか」であることは先述しました。この一方で、収益をあげる方法は千差万別で、1社ごとにすべて違います。

購買情報に限らず、人材資源/学術情報/品質管理/在庫管理など、企業を横ぐし/縦ぐしで貫いてみると、活用すべき情報はたくさんあります。こうした情報をいかに活用するかを常に考え続ける必要があります。他社のまねでは絶対に勝ち組にはなれません。

収益拡大を目指すデータ・ウエアハウスがある一方で、企業を守るためのデータ・ウエアハウスもあります。例えば、J-SOXなどのコンプライアンス(法令順守)やグリーンIT(省電力)のために活用できます。

企業のデータは今後、攻めのデータと守りのデータを合わせ、ますます膨大になっていきます。世界のデータ・ウエアハウス市場でも、米eBayの5ペタ・バイトを筆頭に、米Wal-Martの400Tバイト、米Amazon.comなどと続いています。

最近では、米Netezza製品のような、データ・ウエアハウスに特化したデータベース・アプライアンス製品も登場し、大きな流れを作っています。調査会社ITRの報告でも、年率20%でアプライアンス製品が伸びています。

理由は、従来のシステムでは構築とチューニングに時間がかかり、結果的にDWH/BIシステムの立ち上がりが遅くなってしまうからです。レスポンスを気にしながら分析するのはナンセンスです。レスポンスを気にせず、縦横無尽に分析を可能にする仕組みが求められているのです。

米Netezza製品の場合、導入してから稼働までが非常に速く、基幹システムからのデータ・ローディングも高速です。そのうえ、専用のアーキテクチャにより、高レスポンスを確保しています。

次回は、これらアプライアンス製品を中心に、データ・ウエアハウスの最新技術について解説します。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 ITコーディネータ
大手ソフトハウスでのPM経験を経て、1997年より伊藤忠テクノソリューションズ株式会社に所属。以来ずっとDWH・BIを専門にプリセールス、要件定義から定着化まで業種・業態を問わず、10年以上全国延べ600社・700部門の企業の経営者、管理者、担当者の方とお会いし、幅広くコンサルティングを行っている。

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