DWHの定着化とBICC、活用促進
定着化の難しさ
これまで4回にわたり、データ・ウエアハウス(DWH)の構築を成功に導くノウハウを解説してきました。最終回の今回は、最後に問題になる「定着化」について解説します。
筆者はよく、ユーザー企業のDWHの責任者から「DWHをエンドユーザーに使ってもらうためには、どうしたらよいのか」という質問を受けます。また、DWHの構築に成功したユーザーから「実はあまり使われていません」という意見を聞くこともしばしばです。
筆者は、こうした意見を耳にするたびに、ショックを受けるとともに、もったいないと感じていました。
なぜDWHが定着しないのか、定着しない原因は何なのか。今回は、これについて解説します。
まず、DWHが定着しない原因は、大きく以下の2つに分かれます。
それぞれについて解説します。
(1)DWHの基本機能を欠いた場合
DWHは、「信頼性」、「拡張性」、「機能性」、「可用性」、「簡便性」のどれか1つが欠けても、うまく機能しません。
基本機能を欠いた場合、エンドユーザーから上がってくる声は、以下のようなものになります。
- 「データが信用できない」
- 「必要な情報が入っていない」
- 「情報が更新されていない」
- 「使いにくい」
- 「使いたい時間に使えない」
- 「操作がわからない」
読んで分かる通り、DWHの基本機能を欠くというのは、定着化以前の問題です。第1回から第4回まで全編を通して、失敗事例をもとに説明してきたことです。
基本機能を欠いてはならないといっても、必要以上に肩に力を入れてシステム構築に対峙(たいじ)する必要はありません。DWHは成長するシステムです。取り掛かり時の“お作法”というか、最初の方向性さえ間違っていなければ、エンドユーザーに育てられていくからです。
仮に、ここでは、DWHの構築/リリースまでは順調に進んだとします。次に問題となるのは、利用者のITレベルに合わせた導入がされていないケースです。
(2)利用者のITレベルに合わせた導入がされていない場合
DWHをエンドユーザーに育ててもらうためには、ユーザーがついていける習得目標を設定したり、越えられる程度のハードルだったりする必要があります。
利用者のITレベルに合わせた導入がされていない場合のユーザーの声は、以下のようなものになります。
- 「操作マニュアルを読むのが面倒」
- 「専用端末しか対応していないので、自分のパソコンから使えない」
- 「そもそも何ができるのか分からない」
- 「パソコンで分析ばかりやっていると、遊んでいると思われてしまう」
こうした悲惨な状況に陥らないためには、「何のためのDWHなのか」、「どんなことができるのか」、「どうやったら使えるのか」を社内にPRする必要があります。このうえで、トレーニングや社内勉強会に積極的に参加してもらい、分析のITレベルを向上してもらう必要があります。
定着化とは何か
定着化とは何でしょうか。それは、システムを使うことによって情報収集が簡単で早くなり、業務効率が格段に上がることです。
営業部を例に考えてみましょう。
DWHを使うと、新人でも、先輩のノウハウ(=ベスト・プラクティス)をまねすることが可能になり、早い時期から営業効率を高めることができます。
一方、先輩の方でも、DWHによって効率よく商品・顧客・サービスのデータを一体化させることが可能になり、誰にいつどんなサービスを提供すべきかを探ったり、既存顧客の単価を上げたり、新規顧客を開拓したりできるようになります。
一般に、営業部全体では、「2割は優秀」、「6割は普通」、「2割は新人またはお荷物」と言われています。
ここで、優秀な人は、DWHがあろうが無かろうが、自分の人脈でデータを集めて情報に組み上げて活用しています。
DWHのキー・ポイントは、ここにあります。
DWHには、自社の営業ノウハウの基本が入っています。このことをみんなが知っていることが重要なのです。
だから、市販のテンプレートや他社のKPI(重要業績評価指標)では駄目なのです。独自のKPIには、自社の商品やサービスが顧客に認められている理由、言い換えればベネフィット(便利さ、享受する利益)が表れているからです。
ベネフィットのとらえ方を、「6割の普通の人」や「2割の新人またはお荷物」がまねをして営業活動に生かすことにより、営業部全体の底上げが可能になるのです。
次ページからは、DWHの定着を支援する組織の重要性と、その運営方法について解説します。