アプリケーション・ライフサイクル管理とHP製品

2010年4月6日(火)
岡崎 義明

BTOソフトを用いてALMを実現するプロセス

BTO製品のメリットとして述べた(1ページ目)ように、個々のBTO製品群は単体で効果を提供するだけでなく、連携することでアプリケーション・ライフサイクル管理全体を構成し、さらに高い効果をもたらします。以下では、その連携例を紹介します(図3)。

  1. 運用中のクリティカルなアプリケーションに障害が発生!
  2. アプリケーションの修正を依頼
  3. 修正依頼を開発チームに送付

製品連携でライフサイクル全体をカバーする

1. 運用中のクリティカルなアプリケーションに障害が発生!

あるユーザー企業の事例です。この企業では、稼働させているERP(統合業務)システムの性能が、月末に向けてだんだん遅くなってきていました。時間帯によっては、システムにアクセスできないこともありました。このままではシステム停止になりかねないといった状況でした。

ERPの利用部門から報告を受けたITサービスデスク(ヘルプデスク)は、「HP Service Management Center」(SM)を使ってサービス・チケットを発行し、データセンターを管理する運用部門に調査を依頼しました。

運用部門では、ネットワークやITインフラだけでなく、「HP Business Availability Center」(BAC)を使って重要なビジネス・プロセスのユーザー体感と可用性を監視していました。このため、報告を受けた事象についても気付いていました。

問題を重要視した運用部門は、開発部門の協力を得て問題原因の調査に乗り出しました。この企業では、アプリケーション、サーバー、ネットワークの構築をそれぞれ別のSIベンダーに発注していたため、本来であれば問題原因の特定が難しくなるところですが、問題に関連するデータはすべてBACに格納されていたため、ERPシステムにバグがあることが短期間で判明しました。

2. アプリケーションの修正を依頼

システムのバグによる問題であることが分かったヘルプデスク担当者は、ERPの管理部門に修正を依頼しました。幸いなことに、このバグについては、すでにERPベンダーからパッチ(修正プログラム)が出されていることが分かりました。

しかし、このユーザー企業では当時、ERPシステムの海外展開を計画中で、海外展開に合わせて新しいモジュールも導入しようとしていました。不用意にパッチをあてると、構築中のシステムに影響が出てしまうかも知れません。

また、ほとんどの開発メンバーが、海外展開を見据えたシステム構築にかかわっていたので、パッチをインストールしたあとのテストに十分な時間とリソースを割り当てられるかどうか分かりません。慎重な判断が求められるケースです。

そこでヘルプデスク担当者は、システムの修正依頼をSMから「HP Project & Portfolio Management Center」(PPM)に自動送信しました(図3の3)。PPMでは、ITに対するさまざまな要求を一元的に管理して、その実行を決定し、必要な予算とリソースを割り当て、プロジェクトを管理します(図3の4)。

PPMに登録された修正依頼は、あらかじめ定義された作業フローにしたがって処理されます。今回のケースは、関係者の承認とCAB(変更諮問委員会)の決定を経て「重要である」と判断され、エンジニアがアサインされました。

3. 修正依頼を開発チームに送付

承認された修正要求は、PPMから「HP Quality Center」(QC)に送られ、修正に関する要件として要件管理モジュールに格納されます。QCにはあらかじめこのシステムのテスト・ケースや自動テスト・シナリオが登録されていたので、開発エンジニアは時間をかけることなく機能テストを行い、パッチを適用した後でもアプリケーションが正しく機能することを確認しました。

性能テストについても、前回「HP Performance Center」(PC)でテストしたときのテスト・シナリオが残っていました。しかし、その時からはビジネス・プロセスも変わっていましたし、ユーザーもずいぶん増えて利用時間帯のピークも変わっていました。以前のテストシナリオをそのまま使って正確な性能テストができるかどうかは分かりません。

そこで、BACが使っている、稼働中のシステムを監視するためのシナリオをPCに流用することにしました。BACとPCにはテスト・シナリオの互換性があり、そのまま利用できます。運用部門では、利用形態が変化するのに合わせてBACの監視シナリオを随時修正してきたので、これを使うことにより、より本番環境に近い負荷テストが可能になりました。これにより、システム上のリスクがないことを確認できました(図3の5)。

このように、運用段階で発見された障害の予兆を、部門間のサイロを超えて共有することにより、この企業では月末のピークを前にして、問題の解決を図ることができました。

まとめ

いかがでしょうか。少し出来過ぎと思われるかも知れませんが、これがHPの目指すアプリケーション・ライフサイクル管理の理想像です。

開発段階で品質の高いアプリケーションを構築するだけでなく、企画段階でビジネス成果にとっての重要性をきちんと理解する、また運用段階でシステムのパフォーマンスと可用性を管理して問題をプロアクティブ(事前予測的)に把握して素早く対応を講じることで、ITリスクを最小限に抑える。

HPは、こうした理想の実現を、ソフトウエアの面から支援します。

今回は、HPの製品全体について俯瞰しました。次回は、「要件管理とQuality Center」と題して解説します。ソフトウエア開発における不具合の多くは、要件定義段階で発生すると言われています。要件に関する不具合に、どのように対応するのかを解説します。

プログラマ、SEとして社会人スタートし、いくつかの外資系ソフトウェア会社を経て、2002年からソフトウェアのテストツールを販売するマーキュリー・インタラクティブ社に製品マーケティングとして入社。2007年、ヒューレット・パッカード社による買収にともない、日本HPへ。現在は、HPソフトウェア・ソリューションズ統括本部で、テスト製品のマーケティングを担当。

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