連載 :
  インタビュー

ChefのCTO、DevOpsを拡げるためにはツールと方法論の両方が必要と語る

2017年5月19日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
DevOpsDays Tokyo 2017に来日したChefのCTOであるAdam Jacob氏は、「DevOpsを拡げるためには小さく始めること」、そして「ツールと方法論の2つが必要」と語った。

開発と運用を一体にしてスピーディなアプリケーション開発と実装を実現するDevOpsに特化したカンファレンス「DevOpsDays Tokyo 2017」は、2017年の4月に開催された。これに合わせて来日したChefの共同創業者であり、CTOとして技術面を統括するAdam Jacob氏にインタビューを行う機会を得た。Chefは、DevOpsの実現に必須な機能であるインフラストラクチャーの構成管理の自動化を実現するオープンソースソフトウェアで、Chefがメインとなって開発を行っている。今回は数年ぶりの来日となったJacob氏だったが、DevOpsを実行するために必要なこと、チャレンジなどについて話を聞いた。

まず自己紹介をお願いします。

Chefの共同創業者でCTOのAdam Jacobです。Chefを創業する前は、長いことシステムアドミニストレーターをやっていました。その後、コンサルティング会社を立ち上げて、スタートアップ企業に対してインフラストラクチャーの構築や管理などを請け負っていました。そこでは、年間に15社ほどの企業に対してさまざまなインフラストラクチャーの自動化の仕事をやっていたのですが、どの企業もそれぞれ違っていて自動化を個々に行っていたのです。それは、とても非効率でコストがかかるものでした。ですので、それをもっと効率的にやることを考えて、Chefというソフトウェアを作ったのです。

ChefのCTO、Adam Jacob氏

ChefのCTO、Adam Jacob氏

Chefはいまどのくらいの規模なのですか?

今は、250名くらいになりました。ロンドン、オーストラリアなどのさまざまな拠点に拡がっています。北米でも、社員はさまざまなところで働いています。我々はとても分散された開発体制を取っています。エンジニアは一箇所に固まっておらず、とてもアジャイルでリーンなソフトウェア開発スタイルと言えますね。いつもSlackでコミュニケーションをとりながら、開発を行っています。

そのスタイルは過去の経験から生まれたものなのですか?

そうですね。過去に担当したシステムの運用管理の経験の中で、いくつもの企業が他の企業を買収しました。そこで私はシステムアドミニストレーターとして、買収された会社のインフラを統合する仕事を何度も経験したのです。そのような場合、往々にして買われた会社のエンジニアはそれほどハッピーなわけではなく、「いつここを辞めようか」と考えるものなのです(笑)。そういう状況でもシステムアドミニストレーターである私の立場としては、システムを統合して運用しなければいけません。つまりある期間を過ぎると、運用管理のためのスクリプトなどを書いた人がいなくなるようなシステムの面倒を見なければいけないのです。その経験が、インフラストラクチャーを自動化するというChefの開発に役立ったと言えますね。Chefを作ってから私達が付き合っている企業は、つまりChefのユーザーであるという意味ですが、どれも非常に成功を収めています。FacebookやCITIBANK、Yahoo!それにGEなどがその例ですね。その部分では、ハッピーになってもらえていると思います(笑)。

Facebookなどの先進的な企業は別にして、歴史がある企業にDevOpsやインフラストラクチャーの自動化を勧めることに難しさはありませんでしたか?

特にそれは感じませんね。これからもそうでないことを願っていますけども(笑)。それに関しては、我々コンシューマーが使っているテクノロジーがまさにアジャイルな方法で開発されているということを実感しているからではないでしょうか。私達はスマートフォンを使って、常に最新の機能やテクノロジーをすぐに使えるという状況にありますよね。例えば、家にいる時にiPhoneに最新のアプリケーションをダウンロードしてすぐに使うことができる。でも会社では、アプリケーションに機能を追加するのに何ヶ月もかかる。「これは何かが間違っている!」と感じてもおかしくはないですよね? これは論理的な考え方ではないかもしれませんが、スマートフォンでできることが生産管理や販売管理のアプリケーションでできないと考えるほうがおかしいという状況になっているのだと思います。一般のコンシューマーの感覚がそうなってきたということは、エンタープライズのIT担当者も同じ感覚になるのは当然の流れだと思います。なので文化や歴史の違いなどはあるにせよ、アジャイルなソフトウェア開発やDevOpsの考え方は、徐々に浸透していくと思います。

往々にしてソフトウェアを開発しているベンダーは新しいツールや機能を全面に出してアピールしますが、今朝のキーノートでは主に発想や方法論が強調されていました。それはなぜですか?

例えば新しい考え方や方法論があって、それに対してあなたが賛同したとします。でも実際に使っているツールが前のままなら、実は何も変わらないかもしれません。ですから「ツールは関係ない」と言うつもりは全くなく、とても重要です。ツールと考え方もしくは方法論というのは、お互いがお互いを強化しあう関係にあるのです。新しい方法論や方式が企業に導入されても実はなにも変わらなかった、経営者が新しそうなことをやっているだけで、しばらく経ったらまた元に戻るというようなことがありますが、DevOpsについてはそうはならないと感じています。ツールが変わり、方法論が変わり、実際に効果が出ていますから。しかし方法論やそれの基となっている文化をいきなり変えるのは、非常に困難なのです。だからこそ、「小さく始めて拡げていく」というやり方が大事だと考えています。

キーノートでプレゼンテーションを行うJacob氏

キーノートでプレゼンテーションを行うJacob氏

「DevOpsチームの人数は何人が最適か?」という質問に「6~8人程度が最適」と答えていたのはそういう意味だったのですね。では、ChefのCTOとして日本市場におけるチャレンジはなんですか?

私にとってのチャレンジは「日本人ではないこと」かな(笑)。この日本という市場を理解するためには、まだまだ知らなければいけないことがいっぱいありますし、実際にそこに行って人と話をして感じることが重要だと思っています。そのためには、日本語も文化も理解する必要がありますよね。日本は長い期間に渡ってイノベーションを起こしてきた歴史がありますし、今もイノベーションを起こしていると思います。Chefのユーザーである楽天市場などはその典型だと思いますが、彼らに会ってもっと深く彼らのことを理解し、そこで得たものを他の企業の皆さんにも伝えたいと思います。楽天市場やヤフー!などの先進的な企業がChefを使ってくれていますが、それは単に彼らがユニークで特殊な企業だから使えているのだということではありません。どんな企業でも新しい方法論を実行することはできるし、そのお手伝いができるということを嬉しく思っています。その意味では、本当のチャレンジは文化を変えることですね。どの組織も部門ごとのサイロに守られていますし、DevOpsを実行するためにはそれを変えなければいけないわけですから。

今回来日したChefの社員たち。どうみてもハッカーです

今回来日したChefの社員たち。どうみてもハッカーです

いかにもハッカーという外見と超高速なトークでインタビューに答えてくれたChefのCTO、Adam Jacob氏だったが、実は大のロック好きということで、東京のメタルバーを楽しみにしていると最後に語ってくれた。ちなみにガンズ・アンド・ローゼズの大ファンで、好きな日本料理はしゃぶしゃぶだそうだ。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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