DevOpsに特化したイベント、DevOpsDays Tokyo 2017が開催

2017年5月18日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
DevOpsに特化したカンファレンス、「DevOpsDays Tokyo 2017」が開催。Chef、Pivotal、Microsoft、GitHub、Atlassianなども参加し、活発なコミュニケーションが行われた。

開発と運用を一体にしてスピーディなアプリケーション開発と実装を実現するDevOpsに特化したカンファレンス「DevOpsDays Tokyo 2017」が4月25日に開催された。ITインフラの自動化ツールであるChefのCTO、JIRAやConfluenceで有名なAtlassianのエバンジェリスト、マイクロソフトのエバンジェリスト、Cloud Foundryの開発をリードするPivotalのProduct Ownerといった豪華なメンバーが登壇した。さらにユーザー企業からも、アジャイル開発センターを設立してアジャイルなソフトウェア開発を推進するKDDI、外注化された運用チームからDevOpsへと切り替え行ったASICSのエンジニアなどが登壇し、DevOpsを推進するツールやチームの作り方などについて講演が行われた。

キーノートに登壇したChefの共同創業者でありCTOのAdam Jacob氏はカンフーを例に取り、DevOpsの進め方を解説した。

Chefの共同創業者兼CTO、Adam Jacob氏

Chefの共同創業者兼CTO、Adam Jacob氏

ここではDevOpsを支える要素として「Principles(Universal)」、「Form(Shared)」そして「Application(Unique)」と書かれたスライドで解説を行った。DevOpsを実践するためにはまず共通の原則(Principles)を持つこと、そしてそれをチームの中の形式(Form)として身につけること、そしてその後でそれぞれが独自の解決策(Application)を取るべきだと語った(ここでの「アプリケーション」はソフトウェアを指すのではなく、組織ごとに採用すべき解決策と解釈した)。

DevOpsの3つの要素を解説

DevOpsの3つの要素を解説

意外だったのは、「原則と形式の後は自分たちで解を見つけるべき」という示唆だ。ツールを売るベンダーであれば、「この方法論とツールがあれば解決できる」と語るべきであろうが、全ての組織には違いがあり、どの組織にも通用する解決策があるわけではないことを、過去の経験で知っていることが活かされているように感じた。

後半のプレゼンテーションでは、概念的な話からさらに踏み込んだ解説が行われた。ここでは約8週間に及ぶDevOpsプロジェクトの進め方が紹介された。開発チームと運用チームだけではなく、組織内のさまざまなステークホルダーを巻き込んで、小さなチームで素早く開発を回し、本番運用まで実行する具体的な方法論が展開された。

8週間のプロトタイプを提案

8週間のプロトタイプを提案

「チームとしてどのくらいの人数を想定して、この8週間を実行すれば良いのか?」という質問をJacob氏に質問してみたが、「できれば少人数、それも6~8名程度」という答えが返ってきた。これはその後のセッションで「DevOps導入に有効だと思われるプラクティス群」と言うタイトルの講演を行ったKDDIのアジャイル開発センターの川上誠司氏も同じ結論だったようで、偶然にも同じ結論にたどり着いたことに川上氏が驚いていたのが印象的だった。

ちなみにKDDIでは、アジャイル開発が開発と運用部門以外にも拡大しているようで、苦労しながらもベストプラクティスとして整理されているようだ。ユーザーストーリーボードやインセプションデッキなどを活用して問題と解決、そしてリスクなどを整理し、アジャイル開発に理解がない管理部門にとっても承認しやすくするための工夫、定期的に報告会を開いて「アジャイル開発が何をやっているのかわからない」などという状況を打破するための知恵などが披露された。アジャイル開発を望んでも上司を説得できていない開発チームにとっては、非常に参考になるセッションだったように思える。

KDDI内でのアジャイル開発浸透の状況を語る川上氏

KDDI内でのアジャイル開発浸透の状況を語る川上氏

企業のユースケース紹介として登壇したアスリート用シューズブランドであるASICSのPatrick Bolduan氏によれば、ASICSはこれまでシステムの運用を完全に外注化していたという。それを、より俊敏に開発から実装そして運用までを行うために社内のIT改革を実施し、PaaSを採用してDevOpsを実行しようとしたところでASICSがRunKeeperを買収したそうだ。その際にRunKeeperのITチームがTerraformとPackerを使ったCI/CDを実践していたことから、PaaSに替えてHashiCorpが展開するTerraformとPackerを利用してアプリケーションをAWSに実装するまでの経緯が解説された。短い時間ながら、事業会社のIT部門が従来の外注による運用からDevOpsに挑戦した事例として興味深いものだった。

ASICSのPatrick Bolduan氏

ASICSのPatrick Bolduan氏

またPivotalのZach Brown氏は、デモとして.Net Core用に書かれたアプリをCloud Foundryで稼働させるフレームワークであるSteeltoeを使ってアプリケーションを実装するようすを公開した。ここでは、インフラを意識せずにアプリケーションを動かすことを可能にするPaaSのパワーを見せつけた形となった。

PivotalのZach Brown氏

PivotalのZach Brown氏

ChefのエバンジェリストであるMichael Ducy氏は、モノリシックなアプリケーションをマイクロサービス化する方法の一例として、Chefがオープンソースとして開発を進めるHabitatを紹介した。

Habitatを紹介するChefのMichael Ducy氏

Habitatを紹介するChefのMichael Ducy氏

こちらは、肥大化するコンテナによるマイクロサービス化の流れに一石を投じた形のプレゼンテーションとなった。Ducy氏によれば、コンテナをベースとしたアプリケーションのアイソレーションの発想では、OSとミドルウェア、ライブラリーなどを下から積み上げる形であり、結果的にアプリケーションのビルドを行う際と実行時の抽象化が足らないという。それに比較してHabitatはトップダウン、つまりアプリケーションから最小のフットプリントのOSを追加してパッケージングを行い、それを実行環境であるHabitatがセキュリティの確保、実行されるクラスター内のロードバランサーによる負荷分散といったことを司ることで、PaaSの使い勝手を提供できるという。

Habitatとコンテナベースの実装の比較

Habitatとコンテナベースの実装の比較

インフラストラクチャーの自動化を目指したChefが、コンテナに縛られずにどのLinux環境でもスケールするアプリケーション実行環境としてのアプリケーションの自動化という謳い文句でHabitatをオープンソースソフトウェアとして公開した。HabitatがPaaSに頼らずとも開発したアプリケーションがどこでも実行でき、セキュリティやスケーラビリティも担保できるプラットフォームとして推進されることは、単なるInfrastructure as Codeの領域からDevOpsの開発に近い領域に接近していることを意味しているように思える。Habitatがツールとして今後どう進化していくのか、ユーザーは増えるのか、コミュニティは拡大できるのか、これからが楽しみである。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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