なぜインフラ部門には女性エンジニアが少ないの? IBMの女性エンジニアに訊いてみた
日本からのイベント参加者に女性が少ない!
OpenStack SummitやKubeConなど、国際的なイベントを取材すると、さまざまな国の多くのエンジニアが性別、年齢を問わず活発に活動をしていることを感じる。それはセッションのスピーカーだけでなく、参加者も同様に多様であることから見てとれる。
しかし今年の春にデンバーで行われたOpen Infrastructure Summitの際に、日本からの参加者が集って夕食を取った時にふと周りを見回すと、日本人男性だけの集団であったことに軽い衝撃を覚えた。つまり日本からデンバーのカンファレンスに参加し、有志として夕食に参加していた方は全員男性だったのだ。これは昨今、多くの参加者を集めて急成長中のKubeConでもほぼ同様で、日本から参加した女性エンジニアの数は両手にも満たなかったのではないか。
他方、国内で開催されるデータサイエンティストやWebのフロントエンド界隈のカンファレンスやMeetupなどには多くの女性エンジニアが参加している。日本国内において、インフラストラクチャー関連のエンジニアに女性が非常に少ないのでは? という感触は普段は意識することはないとは言え、妥当な問いと言えるだろう。
そこで日本のITベンダー、ユーザーにおいてインフラストラクチャーの領域で活躍する女性エンジニアにインタビューを行う企画を立ち上げた。個人的な経験やインフラストラクチャーにおけるエンジニアとして楽しさ、苦労などを共有してもらい、もっとインフラ系エンジニアになりたい女性にリーチし、長期的にインフラ系を目指す女性エンジニアを増やしたいというのが筆者の思いだ。
今回は日本アイ・ビー・エム株式会社に協力をお願いし、2名のインフラ系女性エンジニアにインタビューする機会を得た。
チャレンジする価値があるインフラエンジニアという仕事
最初は日本アイ・ビー・エム株式会社、GTS事業部、デリバリー&トランスフォーメーション、コグニティブ&オートメーション シニア・アーキテクトの青山真巳氏だ。
コンピュータに興味を持ったのはいつ頃ですか?
青山:最初は大学の就職活動の際に行う適正検査で、「システムエンジニアに向いている」という結果が出た辺り、ですかね。当時は経済学部に所属しており、パソコンは普通に使っていました。あとは兄がプログラムを趣味でやっていて、自宅にBasicとかが使える環境があったというのもあるかもしれません。個人の性格として、論理的に何かを突き詰めていくという考え方が好きなんですよ。なのでその辺からなんとなくですけど、コンピュータの仕事が向いているのかなと思っていました。
就職活動を経て日本アイ・ビー・エムに入ったということですね。
青山:私の頃の就職活動は超氷河期で大変でしたが、それでもコンピュータ業界でいくつか内定をもらって、その中から日本アイ・ビー・エムを選びました。選んだ理由は明確で、一つは英語を使ってグローバルに仕事ができるという部分、そしてもう一つは、やはり女性に優しい会社だというのが分かったからですね。
国産のメーカーにも面接を受けましたか?
青山:はい。しかし当時はまだ女性がエンジニアとして働くという前例がなかったようで、女性のための福利厚生プログラムが社内にあっても「まだ誰も使ったことがない」と言われちゃったりしましたね(笑)。
そして社内の新人研修を終えて配属されるわけですが、その頃は何を?
青山:最初はAS/400のグループでエンジニアをやっていました。それからしばらくしてAIXの仕事に移ってからは、ずっとインフラストラクチャーの仕事ですね。AS/400は中小企業向けのパッケージシステムがメインなので、アプリケーション寄りの仕事に関わっていましたが、AIXで本格的にインフラストラクチャー、つまりOSとかストレージとかネットワークに関わり始めました。またインターネットサービスを提供している顧客の対応で、データセンターでも仕事をしていましたから、ラックの周りでケーブルを結線したりまとめたりみたいなこともやってましたね。
すごくインフラな仕事ですよね、ケーブル周りって(笑)
青山:そうです。だから他の場所のサーバーラックの後ろで、ケーブルがゴチャゴチャしてるのを見ると、すごく気になります。「もっと綺麗にまとめたい!」と思ってしまって(笑)。ああいう仕事って意外と女性に向いているんじゃないかなって思うんですよ。もちろん、男性でもそういうのが得意な方もいますし、女性だけが得意っていうわけじゃないですけど。
最近のAWSの障害などを見て、インフラストラクチャーのエンジニアとしてどんな印象ですか?
青山:「あー、あそこが壊れちゃったのか~」とか「あそこを冗長化しておけば障害が広がらなかったのかな?」とかいろいろ想像しますよね。そういう意味ではやれることがたくさんあるので、インフラストラクチャーって可能性がとても大きいと思います。クラウドって凄いスピードで拡大しているので、そういう意味でも楽しいです。
インフラの仕事をするようになって女性ならではの苦労とかはありましたか?
青山:インフラストラクチャーだからというわけではありませんが、以前お客さんのところに説明に行った時にこっちは営業と私、先方の会議室には男性ばかりがズラッと並んでるみたいな時に、私がちゃんと製品の説明をしても、営業のアシスタントの女性が来たみたいな感覚で対応されたことはありますね。日本アイ・ビー・エムには男女差みたいなものはありませんが、「女性はアシスタント」のような感覚がお客さんのほうにあると感じたことはあります。
せっかくちゃんと説明しても質問は男性の営業マンにする、みたいな感じですね。
青山:そうですね。でも、今はそういうことはなくなりました。お客さんにも「日本アイ・ビー・エムでは女性エンジニアが責任を持って仕事している」ということを理解していただけていると思います。
これからインフラエンジニアを目指す女性に対してアドバイスはありますか?
青山:特にインフラストラクチャーのエンジニアに向けてというわけではないですけど、新しいことにチャレンジする気持ちを持ち続けて欲しいなと思います。私のモットーで前向きに仕事するというのとは違うんですけど、常に斜め上に進んでいく、前に行くだけじゃなくて一つ上を目指す、つまり前というより斜め上に向かうという感じで仕事をしていきたい。これをお勧めしたいですね。そういう仕事のほうが楽しいと思っています。IT、インフラストラクチャーはこれからもっとおもしろくなっていくし、チャレンジのしがいのある場所だと思うので、女性にもっとチャンレジしてもらえたら嬉しいです。
新製品にいち早く触れられるのがインフラエンジニアの楽しいところ
次は同じ日本アイ・ビー・エムでストレージシステムなどを担当する竹田千恵氏だ。肩書はシステム事業本部ソリューション事業部SDIテクニカルセールス、シニアITスペシャリストだ。
コンピュータはいつ頃から使い始められましたか?
竹田:私はもともと理系で数学とか化学の実験とか、そういうのが大好きでした。もうそれは中学校の頃からそんな感じでしたね。ですから、コンピュータには随分前からなじんでいたような気がします。
日本アイ・ビー・エムに就職したきっかけは?
竹田:大学の先輩で日本アイ・ビー・エムに勤めていた方がいたのですが、その方は奥さんも日本アイ・ビー・エムの方で夫婦で働いておられました。その方に話を聞いて日本アイ・ビー・エムという会社を知っていたというのもありますし、就職活動の時に日本アイ・ビー・エムの方から「この会社では新しいことにチャレンジできるよ」と言われたというのも大きいですね。
女性エンジニアとしての苦労はありますか?
竹田:入社して4~5年目くらいの時にお客さんのところに説明に行っても、営業補佐みたいな感じに思われてたなんてことはありましたね。でも今はそういうことはなくなりました。ちゃんとIBMのスペシャリストとして見てもらえるようになったと思います。
日本アイ・ビー・エムでは昇進などのプロセスに男女差はないのですか?
竹田:男女差はないと思います。とても透明なシステムになっているので、キャリアパスも自分で組み立てられると思いますね。真っ直ぐに管理職に行く人もいれば、他のポジションを経験してジグザグに進む人もいますし、その辺は同じです。女性だと結婚して産休を取ってから戻ってこられる方も大勢いますし、その意味でも女性には働きやすい会社だと思います。
インフラストラクチャーのエンジニアとしての楽しさはなんですか?
竹田:新しい製品を真っ先に使えることですね。新しい製品の場合、当然、バグが発生することもありますが、それをちゃんと調査して報告するなんていうのも楽しいですよ。私は論理的に物事を突き詰めていくっていうのが大好きなのですが、新製品を自分で使ってなんで上手く行かないんだろう? とかを論理的に考えて試行錯誤するみたいなところは、インフラストラクチャーのエンジニアとしての楽しさなんじゃないかなと思います。
日本では女性エンジニアはデザインやWebのフロントエンドなどには大勢いるという感覚なんですが、どうしてインフラストラクチャーの領域には少ないのでしょう?
竹田:そうですねぇ。日本アイ・ビー・エムに限って言えば、毎年の新入社員も男女比がだいたい同じくらいになってきたので、女性の比率は上がってきている感覚はありますが、インフラストラクチャー周りはまだ少ないですね。
モノを作ることや、組み合わせて構築することの楽しさがあまり伝わっていない気がするんですよ。箱庭を作る楽しさは否定しないですが、例えて言えば、大きな橋とかオリンピックが開催されるスタジアムを設計して作るくらいの楽しさがあるんだと思うんですよね、インフラストラクチャー周りって。
竹田:そうですね。その例えは的を射てますね。今だとクラウドは社会のインフラストラクチャーとして必要になってきているので、そういう大きなモノを作る楽しさを知ってほしいですよね。データセンターも地味な仕事に見えてますけど、実際に行ってみるとキラキラしてますよ。青とか緑色のランプがいっぱい点滅していて。
あぁ、ストレージとかネットワークのラックにはいっぱいそういうのが点灯してますもんね。赤いランプもタマに見ますけど。
竹田:赤いランプはたいてい悪い兆候なので、あまり見たくはないですけど(笑)。でも当然ですけど、良いところばかりじゃなくて辛いところもありますよ、データセンター。まずはとにかく冷房がキツくて寒いこと、またラックの周りが結構ホコリだらけっていうのもありますね。あとこれは私だけかもしれませんが、ノートPCのキートップがポロって取れて空調の吹出口に落ちちゃったことがありまして。そうすると絶対に出てこない。もうホントにこれはツライです(笑)。
日本アイ・ビー・エムでインフラストラクチャーを担当する2名の女性エンジニアに話を聞いた。女性エンジニアが働きやすいと評判の日本アイ・ビー・エムにおいて、青山氏も竹田氏も女性エンジニアのためのコミュニティ「COSMOS」のコアメンバーとして活動をしているという。女子高生や女子大生に向けてインフラストラクチャーの仕事の楽しさを伝えたいと語っていた両氏だったが、やはり「イメージが沸かないというか、目に見えない仕事を伝える難しさ」を感じるという。
このインタビューシリーズを通じて、エンジニアとしてインフラストラクチャーを支えることの楽しさを伝える一助になることを切に願う。
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