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  インタビュー

企業向け健康管理SaaSのCTOにインタビュー。Google、Amazonに負けないテックカンパニーとは

2022年5月17日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
企業向け健康管理SaaSを提供する株式会社iCARE。CTOである荻野氏へインタビューを実施した。

企業向け健康管理サービスをSaaSで提供する株式会社iCAREのCTOに「Google、Amazonに負けないテックカンパニーを作る」という目標に関する質疑応答を行った。

iCAREは、企業に所属する従業員に対して健康管理を行うサービスCarelyをSaaSで提供している。インタビューに応じてくれたのは荻野淳也氏、これまではフリーランスのプログラマーとしてさまざまな開発プロジェクトに従事していたが、2021年3月にiCAREに入社し、その後2021年5月からCTOとしてiCAREのソフトウェア開発全体を統括する人物だ。

インタビューに応える荻野氏

インタビューに応える荻野氏

簡単に自己紹介を。

iCARE入社が2021年の3月ですのでもうすぐ1年ということになります。会社自体はすでに10年以上前からSaaSベースのアプリケーションを開発しており、そこに声を掛けてもらって入ったという感じです。それまでは今のCOOがサービスの中身から開発の管理まで全部やっていたんですが、その中から開発部分の統括の仕事を引き継いだ感じです。現在は、全部で130名くらいの社員がいるうちの30名が開発に携わっており、他に15名くらいの外部のエンジニアに入ってもらって開発をしているというのが開発部門の概要ですね。

元々はフリーランスのプログラマー、エンジニアとして仕事をしていたと聞いてますが、それがどうしてiCAREのCTOに?

元々はフリーランスのエンジニアとして仕事を続けていて、新型コロナのパンデミックが始まる前には一人で珈琲屋を始めたりもしていました。それが上手くいかなくなった時にiCAREのCOOの人に連絡をいただいたというのが経緯ですね。会社自体はもう10年以上前にできていて、SaaSのアプリケーションも開発が続いていたという感じのところに途中から参加した感じです。iCAREとしても徐々にお客さんが増えてきて、これから第2のフェーズに入ろうかという感じだったと思います。

それまではCOOが実際に「ユーザーとしてこういう機能が欲しい」というのを作ってきた感じだったのですが、お客さんが増えてくると徐々に規模の大きな使われ方も増えてくると。それまでは自社とユーザー企業さんがほぼ同じ規模で、ユーザーとして欲しいものを作れば同じようにお客さんにも喜んでもらえました。そこからエンタープライズ規模のユーザー企業は、必要とする機能も違うというのが徐々にわかってきました。そこでビジネスオーナーと開発みたいな分け方をして進めていこうというのが現時点の状況ですね。

それまでのフリーランスのエンジニアから正社員というのは大きな転換ですね。

自分でも意外なんですけど、入社するまでは正社員として働くなんて無理だと思っていました。でもやってみるとおもしろいなと。毎日やるべきことがたくさんあるので、退屈はしないですね。今はCTOとして仕事をしていますが、COOやCEOと相談することも多いし、必要な組織変更などのリクエストもかなり速いスピードで実現しているのが、このサイズの企業の良いところだと思います。

「GoogleやAmazonに負けないテックカンパニー」というのは大きく振りかぶってますけど、具体的には?

基本的には「社会を変えるとかまったく新しいものを生み出そうとするのであればテクノロジー、ソフトウェアに賭けるしかない」というのが私の思いなんです。そしてそれを実際にやっているGoogleとかに負けないように進んでいこうということを言ってるつもりなんですけど。実際にはまだまだやらなきゃいけないことが多過ぎて(笑)。

CTOとして開発部門を統括していると思いますが、具体的に今後、こういうことをやろうという計画は?

今の開発はフロントエンドやVue.jsでバックエンドはRuby on Rails、インフラストラクチャーはAWSという普通のWeb開発なんですが、これからはセキュリティとプライバシーについてはもっと強化していかないといけないと思っています。

サービス自体はモノリシック、それともマイクロサービス的なシステムですか?

サービス自体はまだ分割するほどの大きさではないので、モノリシックなアプリケーションです。ただユーザーによっては他のシステムと分けて欲しいというニーズも出てくるでしょうし、データを分離するようなことも必要になってくると思います。

セキュリティやプライバシーの部分を強化しようとすると、アプリケーションのロジックとは違うレイヤーで注意しなければいけない部分が出てくると思います。そういう部分の開発もアプリケーションの開発エンジニアがやるんですか?

セキュリティについては別のグループを作ってやろうとしています。アプリのロジックとは気にしなければいけない領域が違い過ぎるので。安全なコードを書こうとするとどうしてもそれに特化した知識が必要になると思うんですが、それをすべてのプログラマーに覚えろというのは無理がありますからね。今考えているのはプログラマーが何でもできるというのではなく、ある決まりの中でコーディングをしたら必然的にセキュアなコードになるという仕組みを作ろうということです。

つまり抽象化して必要なことだけをやれるようにする、危険なコードを書かなくても済むようにするみたいな方向性ですね。

そうです。そういう風に仕組みを作っておくというのが必要かなと。

他にも改善したい部分がありますか?

アジャイルな開発を進めるためにも、DevOpsの仕組みはもう少し改善したいですね。運用のチームも2月から作り始めてますけど、まだコードのコミットから本番環境への適用が遅いんです。今はCircleCIでCI/CDを回しているんですけど、最短で40分かかるというのを何とかしたいなと。うちにはCarelyの中身をもっと進化させたいと思っていて業務知識も知ってるエンジニアもいますが、半分くらいはDevOpsやりたいとかもっと良いコードが書きたいとか、そういう業務の領域には関係ない興味を持ってるエンジニアもいるんですね。なので、「セキュリティを極めたい」とか「DevOpsやりたい」とかさまざまな領域でエンジニアが活躍できる場所があるというのは言っておきたいですね(笑)。

JavaScriptやRuby on Railsを知らなくても良い?

使えるプログラミング言語は別に何でも良いと思います。そういうのは業務の中で覚えてもらえるので。なので興味がある、人とコミュニケーションができる、コードを書くことを楽しいみたいな人であれば大歓迎です。今、最も困ってるのが採用なので、さまざまなエンジニアに知ってもらって会社やうちの開発現場に興味を持って貰えればと思いますね。

開発チームのミーティング風景

開発チームのミーティング風景

GoogleやAmazonに負けないというのは大きなチャレンジだと思いますが、同じようなことを考えている人たちに何かアドバイスがあれば。

さっきも言いましたけど、特別に何かを変えようとかしないのであればソフトウェアに賭ける必要はないのかなとは思いますね。社会の仕組みを変える、画期的なモノを作るという目標があるのであれば、ソフトウェアやテクノロジーを信じてそれに賭けるという信念は必要ですが、単に売上を上げたいのであれば、他の方法もあるでしょうし。

単に売上を上げるなら競合を買収して人員削減してコストカットすれば達成できますもんね(笑)しかしそういうチャレンジには失敗が付き物だと思いますが、iCAREはそういう失敗を恐れない体質なんですか?

私自身がこれまでいろいろと失敗をしてきた経験を持っているので、そういう部分もエンジニアには共有していければと思ってます。CEOやCOOもそういうチャレンジャーな意識は高いと思いますね。これまではトップからの「こういうアプリケーションが欲しい」というのを実現してきた組織でしたが、これからはボトムアップで新しいことを提案して実現していける組織にしていきたいと思っています。まだやりたいことが5つぐらいあるうちの2つ目くらいなので、やるべきことはたくさんありますし、エンジニアにとっては退屈しないチームだと思います。

まだチームを率いて1年未満というCTOとしてはこれからが本番という段階で、将来計画の部分も相当含まれている内容となった。今から1年後に再度インタビューを行ってCTOとしてやりたいことの進捗を確認したいと思う。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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