AI最前線の現場から【エクサインテリジェンス】心臓MRI検査の診断支援、「医療×AI」への取り組み
AIと医療を結ぶ
今や「AI(人工知能)」という言葉を各種メディアで耳にしない日はないと言っても過言ではないでしょう。先行する海外のAI関連企業に加え、昨今では日系のAI関連企業も増加し、各社がターゲットとする業界や技術的な強みを差別化戦略としています。
株式会社エクサインテリジェンスは、元DeNAの会長である春田 真が京都大学、大阪大学の研究者とともに約1年前に創業した関西初のAIベンチャーです。「人の生活に役立つ技術を提供し、豊かな未来の創造に貢献していきたい」という強い思いから、日本の産業の中心である製造業の課題解決を支援するAIの開発と、人間の根幹生命を支える医療業界を支援するAIの開発をテーマにAIのプラットフォーム化を推進しています。
また、春田氏は2015年6月にDeNAの会長を退任後、ベンチャー投資・育成に注力するベータカタリストという会社を設立し、数社のベンチャー企業を支援しています。AIベンチャーエクサインテリジェンスもそのうちの1社であり、さらにもう1つが遠隔医療相談のプラットフォーム「first call」というサービスを手がける株式会社メディプラット(メドピア株式会社 ※東証マザーズ上場100%子会社)です。
メドピアとのつながりから医療業界との接点も増え、医療関係従事者から医療現場における課題を直接聞く中で、日本で最も心臓のMRI検査を行う医療法人社団 CVIC(東京都新宿区、理事長 寺島正浩)などの協力も受け、心臓MRIの診断支援を皮切りに、医療現場が抱える問題を EXAINTELLIGENCE AI Platformを利用し解決していくプロジェクトがスタートしました。プロジェクトの詳細については第2回で紹介します。
AIマーケットの現状とエクサインテリジェンスの立ち位置
某研究所の試算によると、2015年には約3兆円規模と目されていた国内AI関連のマーケットが、2030年までには30倍の約90兆円まで成長拡大すると言われています。内訳を見ると運輸が約30兆円、卸・小売が約15兆円、製造業が約12兆円、医療分野が約2兆円といった規模で、医療分野は運輸、卸・小売、製造業と比べると成長速度が遅く、課題が潜んでいることが推察できます。
一方で、海外に注目するとAI産業ではグーグル、フェイスブック、アマゾン、IBM、Microsoftなど米大手IT関連企業のプラットフォーマーが次々と成果を上げ始めており、「米国に対して日本のAI研究は出遅れているのではないか」ということも盛んに議論されています。確かに研究レベルでAIを代表する技術であるディープラーニング(深層学習)の研究が出遅れたことは否めませんが、単純に勝ち負けではなく多数のAI特許を出願している米国・中国はAIの技術で実用化を目指す一方で、日本では多くの企業が保有するビッグデータを、今後のAI技術の進化によりビジネスへ利活用できるAI化の可能性が広がると期待できます。
実際に事業を行うサービス業やプロダクトを保有するメーカー企業などはAI分野を牽引しているGoogleのようなプラットフォームを活用しようとしていますが、機械学習やディープラーニングなどの基本的な技術の理解が十分に浸透しているとは言えません。
このような状況の中で「私たちはエクサインテリジェンスとして何を行っていくべきか」を考え、「テクノロジーだけでなくサービスレベルでお客様に納得していただけるサービスを一緒に作っていこう」と強く決心しました。お客様と一緒にサービスや事業を突き詰めていくことが、最終的には米国の巨大企業に対する防波堤にもなるのではと考えています。
さらに電気やインターネット、パソコン、スマートフォンが普及したように、私たちは「すべての人にテクノロジー(AI)をお届けする」ことをミッションとし、日本ならではのAI産業を作ることを目標にしています。
AI研究の歴史と今後の発展
AIは1950年代より研究されていますが、特に医療分野における技術的なものの大半が1980年代には完成したと言われています。現在のような大量のデータから特定のものを抽出する作業はコンピュータのほうが人間に勝っていることは確かでしょう。
AIが一部のアカデミア(研究機関、学術メンバー)以外から一般の人たちに広がっていくためには、アカデミアだけの閉じられた議論だけでなく、産業界と融合しAIを活用したい企業と我々のようなAIベンチャーが共創してサービスを実用化することで、より人々の生活の中にAIが浸透し真のオープンイノベーションが実現されるのではないでしょうか。
AIの前に人間の脳を考えてみると、その構造は前頭葉、側頭葉、小脳などの部位ごとに機能が分かれています。AIも機能がまとめてパッケージ化されていると言うよりAIごと機能ごとに分かれており、画像認識、音声認識、言語認識といった機能を1つ1つ賢くしていこうと日々研究が進められています。IBM社のワトソンも約30数個のAPIがあり、「AI(人工知能)」という言い方はせずに「コグニティブ(認知技術)」と表現して、それぞれのAPIを活用する形でサービスを開始しています。
AIを進化させる立役者とも言われるディープラーニングでは、2015年にグーグルのDeepmindにより開発されたAIがプロ棋士に勝利したニュースは皆さんもまだ記憶に新しいでしょう。このディープラーニングをいかに事業に活用していこうかと考えた時に、現実問題として企業内にAIの専門家、特にディープラーニングを使いこなせる人材はほぼいないと言わざるを得ない状況でしょう。AIの歴史自体は古いですが、急速に成果が見られるようになったのはここ2〜3年といえます。一部の製造業やメーカーの研究所など優秀なエンジニアの中には最新の論文を調査研究して活用しているケースもあるかもしれませんが、日本のアカデミアの業界ではディープラーニングの冬の時代が谷となっていた背景から、産業界ではAI関連のエンジニアが不足しています。最近では一部のITエンジニアが情報収集と技術習得を始めているとはいえ、まだまだ企業内の事業化につながってはいないのが実情ではないかと思います。
ビジネスシーンで期待されるAIデータを保有する国内企業は、今後もデータ分析の活用が進んでいくでしょう。また、コールセンターでのオペレーション業務やホワイトカラーの事務的な作業の大半がAIに代替され、労働市場は急速に変化していくでしょう。これは「人間の仕事が奪われる」という単純なことではなく、ビジネス構造が根本から変化し既存ビジネスの効率化や新規ビジネスの牽引力といったチャンスに繋がるということです。
労働力確保が課題とされている工場の製造、生産現場では、人材が確保できなければ製造を中断し事業を停止せざるを得ないという切迫する課題に対し、「現場の労働をロボットに代替できないか」という改善案が積極的に進められています。私たちは、こうした要望にAIやディープラーニングを「いかに人の生活に役立たせるか」「いかに使ってもらえるか」という観点でエクサインテリジェンスも考えながら活用を推進しています。
医療分野におけるAI
海外において、AI×医療の分野では続々と様々なサービスが登場しています。もともと自由診療、医療保険などの社会保障がない国で病院の診察を受けるには高額な費用がかかるため、前段で触れた「first call」のようなB2Cサービスのニーズが高いのは当然です。一方、日本では社会保障が整備されており、個人の負担は少なく安心安全な医療を安価に受診できます。
しかしながら、高齢化が進む日本では医師の過重労働、病院での業務改革、効率化が急務です。少しでも医師の負担を軽減し、より安心安全な医療を提供し続けるためには、医師の診断をサポートするAIが求められているのは言うまでもありません。人口対比で見ても、日本ほど診断機器、MRI、CT、X線の撮影画像データが保有されている国も他にありません。
日本では、2016年にIBMのワトソンが癌に関する論文を学習し、医師が対応できなかった特殊な白血病患者の病名を発見しました。あくまで一例とはいえ、今後もこうした形で医療分野での活用が進んでいくことを期待していますが、病院の現状を見ると医療データを他企業に提供することは患者の個人情報の問題があり難しいのが現状です。また「診断」という行為は医師免許を必要とするため、万一AIが診断ミスをした場合などの問題もあります。医療保険の社会保障制度の整備と並行して法整備も推進し、医療現場へのAIの積極的な活用は急務でしょう。
このように、医療×AIのあるべき姿は「医師の診断をサポートするツール」として、また「医師の診断精度を向上するツール」として人の命を救うAIとして活用されていくことなのです。
エクサインテリジェンスが目指すこと
テクノロジーが進化していく過程において、AIもコンピュータの中にある1つのものに過ぎません。AIで空を飛ぶこともできませんし、楽しいとか嬉しいと感じるものでもありません。私たちのようなAIベンチャーもテクノロジーを提供するだけでは存在し得ません。実際のビジネスシーンでの活用や人間が実現したいことがなければ単体では何の意味も持ちません。やはり「データを持っていること」が重要で、「そのデータをどう活かしていくのか」を医療業だけでなく製造業などの皆様とも考えながら、今後の生活に役立つ技術を提供し、豊かな未来の創造に貢献できるサービスを提供していきたいと考えています。
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