【号外:生成AIが切り拓く未来】製造業DX推進における組織変革の実践と挑戦 ー2月5日開催「TechGALA」レポート

はじめに
本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動している8名で運営しています。この記事を通して、ぜひ皆さまも各々の半歩先の未来を想像しながら、色々な価値観を楽しんでいただけると嬉しいです。
これまで、私たちは最新技術の紹介を中心に発信してきました。しかし、新しい技術の情報をキャッチアップするだけでは、組織への導入は進みません。むしろ、組織の中でどのように取り入れ、活用するかで課題を感じている方が多いのではないでしょうか。そこで今回は、2025年2月5日に開催された「TechGALA Japan」にてGen AI Timesのメンバーが「生成AI活用と組織変革ー製造業でのDX推進」をテーマに登壇し、この課題について議論した内容を紹介します。
本記事では、そのセミナーの内容をお届けします。各企業で方針や方法は異なると思いますが、この記事が何かの参考になったら嬉しいです。ぜひ、ご覧ください。
TechGALAとは
TechGALAは、2025年2月4日から6日まで名古屋市の栄・鶴舞で開催された国際的なテクノロジーイベントです。3日間で約5,000名の参加者を集める大イベントでした。全世界中の専門家や起業家が集い、最新の技術革新やスタートアップの取り組みが紹介されました。
なお、イベント全体の内容は、NewsPicksで連載させていただいているIKIGAI lab.で近日公開しますので、そちらをご確認ください!
「生成AIで組織を生まれ変わらせろ!
~集団知が未来を切り拓く~」
- 田中 悠介氏(モデレーター)
Givin’ Back株式会社 取締役
金券ショップ犬山 代表
生成AI EXPO 発起人 - 細山田 隼人氏
日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
生成AI推進プロジェクトマネージャー
EFEコミュニティプロジェクトマネージャー
IKIGAI lab.メンバー - 髙橋 和馬氏
富士フイルムシステムサービス株式会社
IKIGAI lab.オーナー - 池田 大喜(筆者)
製造業 DX推進のプロジェクトマネージャー
インプレス Think IT「Gen AI Times」編集
IKIGAI Lab.メンバー
イントロダクション
生成AIの効果は非常に大きく、様々な分野での活用が期待されています。マッキンゼーの調査によると、生成AIはソフトウェアエンジニアリングだけでなく、顧客対応など幅広い業務において生産性を大幅に向上させる可能性を秘めています。
そのような背景を受けて生成AIの活用は急速に広がっており、既に多くの企業が導入を進めていますが、その一方で導入が進んでいない企業も存在することに言及しました。
その原因として、下記の3つ点が原因になっていると説明。それら課題に対する各企業の取り組みについて紹介し、ディスカッションを行いました。
- 現場と経営層の意識のずれ
- 人材育成
- セキュリティ
事例紹介:「生成AI×集団知」で変革を実践中の企業
髙橋氏:生成AIの一般知識から、組織の業務へ特化した勉強会の実施
髙橋氏は、社内で9,000名規模の横断型コミュニティの中で、小規模なグループを起点に発信力を高める取り組みの有効性を語りました。営業向けの勉強会などを定期的に開催し、約100名規模の参加者を募っている事例を紹介しました。
また、社内だけでなく社外向けに生成AIコミュニティを運営し、記事執筆やイベント開催を通じた普及活動に取り組むなど、社内外の枠を超えた情報共有の仕組みを確立してDX推進を進めていることを示しました。
細山田氏:行動変容人材が組織変革を起こす
ボトムアップで活動を開始して経営層を巻き込みながら推進し、現在はトップダウンとの共創、そしてホームページにDX戦略を掲載するまでに至った経緯を説明しました。
自身の考えるDXの3段階として、1.0:内部チェーンの効率化、2.0:バリューチェーンの効率化、3:0新しい価値創造を提示。同社ではまだ1.0、2.0の段階であるとしつつ、非コア業務を減らし、コア業務に集中するための生成AI活用を推進していることを語りました。
また、同社のDX推進コンセプトは、行動変容人材がデジタルを活用して“あり方”に変革を起こしていくことが重要である旨、そして行動変容人材を増やすためトランスフォーメーションが先である旨を紹介しました。
池田:組織全体でのAIリテラシー向上とコミュニティ形成
DXを始めた当初は現場のニーズに応える形で活動していたものの、人数が増えるにつれて対応が困難になったことから、自身と同じような考えを持つメンバーを各組織に増やし、それぞれの組織で改善活動を行う形に移行したことを説明しました。
ユースケース作成においては、まず仲間集めを行い、基礎学習、プロンプト学習などを経て、DX人材を育成。その後、業務の棚卸しを行い、セキュリティと効果の両面から業務を選定し、ユースケースを創出するという流れで活動を進めていることを明かしました。
集団で学ぶことの重要性:TechGALA登壇者たちの視点
髙橋氏:認知の連鎖による知識の拡張
髙橋氏は、集団で学ぶことの最大のメリットは「仲間の知識が自身の認知につながることだ」と述べました。
人は1人で学べる範囲には限界があり、情報も偏りがちです。しかし、集団で学ぶことで様々な情報に触れる機会が増え、自身の認知を広げることができます。
この認知の連鎖を生み出すためには「情報共有の仕組みが重要だ」と指摘しました。例えば、社内SNSやコミュニティなどを活用し、メンバーが気軽に情報を発信できる環境を作ることで情報共有が活性化し、認知の連鎖が生まれます。
また「教えられる人を育てることも重要だ」と述べました。情報を共有するだけでなく、その情報を理解し、他の人に教えることができる人材を育成することで、より深い学びが得られ、組織全体の知識レベルが向上します。
細山田氏:1人では学べないことと越境学習の重要性
細山田氏は、ここ10年の日本のエンゲージメント状態や日本人の社外学習状況に触れ「人は1人では学べない」という点を強調しました。
忙しい環境に身を置く現代人は、学ぶ時間を物理的に確保できない、あるいは日々の疲労から心理的余白がない状況であり、ゆえに意思の強い方を除いては自分1人では学ぶ行為に動機づけができないと考えます。そのため、集団で学ぶことで他者から火を灯してもらう「もらい火」により、やれる気の醸成(何かできるかも)がされやすくなると説明しました。
さらに、細山田氏は「越境学習の重要性」についても述べました。社内のサイロ(組織や部門の壁)を超えること、そして社外のコミュニティに参加し、他者と交流することで、新たな学びと気づきに出会い、自身の価値観が拡張することに期待できると考えます。
このような越境学習を繰り返すことで、私たちはいくつになっても成長することができます。
池田:モチベーション向上と学習スピードアップ
集団で学ぶことのメリットとして「モチベーション向上」と「学習スピードアップを挙げました。
1人で学習していると、モチベーションが維持しづらく、挫折してしまうこともあります。しかし、集団で学ぶことで、互いに励まし合い、モチベーションを維持することができます。また困りごとを共有し、マッチングすることで、学習スピードも向上します。
同じような課題を抱える人と協力したり、解決策を持っている人に教えてもらうことで、効率的に学習を進めることができます。
まとめ:心理的安全性の重要性
3人の意見に共通するのは「心理的安全性」の重要性です。安心して発言できる場、困りごとを共有できる場、教えたり教えられたりする関係性の中で、人はより学びを深めることができます。
集団で学ぶことは、知識やスキルを向上させるだけでなく心理的な安全性を確保し、多様な価値観に触れる機会を提供します。これは個人だけでなく、組織全体の成長にもつながる重要な要素であると言えるでしょう。
未来を切り開くために明日からできる実践ポイント
最後に、未来を切り開くために明日からできる実践ポイントとして、各登壇者が以下の点を挙げました。
- 池田:とにかくワクワクを共有すること
- 細山田氏:半径5メートルを巻き込み、問いを立て、それをAI・デジタルで解決すること
- 髙橋氏:最も熱い場所へ行くこと
田中氏は、3人の意見に共通点として「組織に定着するためには人間の心が重要」であることを指摘。パッションや人間性を大切にすることの重要性を改めて示しました。
質疑応答:セキュリティ対策と実務上の工夫
参加者からは、セキュリティの厳しい環境下でのAI活用についても言及がありました。髙橋氏は、社内ではAzure上のChatGPTのみに限定して利用するなど、セキュリティと効果の両面を考慮した運用が行われていると説明。加えて、具体的な業務における利用事例を提示することで、社内の理解と協力を得る取り組みが進められていると指摘します。
また、セキュリティ上の制約がある場合、個人での学習と業務利用のバランスをとるためのトレーニングや勉強会を実施し、段階的な導入が推進されている点も大きな特徴として挙げました。
髙橋氏の回答として付け加えられた「企業の中の環境でできることのみを伝えるのではなく、現在の状況も伝えて感度を上げてもらうことも意図している」ことは、参加者の中でも気付かされる方々は多いのではないでしょうか。
また、参加者の1人であるstudio vecoの伊藤雅康氏からは「登壇者が何年先の未来を考えて行動しているか」という質問がありました。池田は「部署の関係上、20〜30年先の未来を考えている」、細山田氏は「5〜10年先の未来を考えている」、髙橋氏は「2〜3年先の未来」と回答し、それぞれが異なるスパンで未来の見通しを考えていることが浮き彫りになりました。
コミュニティそれぞれの当事者や参加者の主観的立場になって動くことの重要性も理解できた意見だと感じました。
まとめ
各社の事例を踏まえて、社内のさまざまな組織を横断して学び合うには、小さな成功事例を作ることが重要であり、コミュニティリーダーが互いの困りごとをマッチングして成功体験を生み出す必要があると考えます。こうした取り組みで一体感が高まった後、マンネリ化を防ぐためには他組織などへ越境して新たな価値観を学び、それを自社に還元する仕組みが必要となるでしょう。
おわりに
生成AIの導入は、単なるツールの活用に留まらず、企業文化や組織の在り方、そして学び合いの環境づくりと深く結びついています。今回の記事を通じて各社が抱える課題とその解決策、さらには集団学習とコミュニティ形成による相乗効果が明確になったのではないでしょうか。
今後も、技術革新と共に人間性や情熱を重視した取り組みが生成AIの導入をはじめとするDX活動の鍵となることは間違いありません。各企業が未来に向けた具体的な一歩を踏み出す中、今回のクロスセッションに関する記事が読んでいただいた皆さまの助けになれば嬉しいです!
2025年2月24日(月・祝)、 TiB(Tokyo Innovation Base)にてIKIGAI Lab.主催の生成AIイベントを開催します!
2年近くのAIの最新情報をキャッチアップして活用法を広げているメンバーたちが、生成AIの成功導入事例や生成AI活用の現状と未来について幅広いテーマで語ります。
ぜひ、お気軽にお越しいただけますと幸いです!
お申し込みは下記URLからお願いします!
IKIGAI lab 全国生成AI研究発表会 in TIB(Peatix)
※ 参加費は無料です。登壇者もIKIGAI lab.メンバー中心となります。