デベロッパー広報?のためのカンファレンス、DevRelCon開催
トップ写真提供:加我 貴志氏
国内初のDevRelCon
「ソフトウェアが世界を変える」と言われて久しいが、見方を少し変えればソフトウェアを開発するデベロッパーが、ビジネスの変革を起こす起動力となっているとも言える。しかしツールベンダーやプラットフォームベンダーによるデベロッパー向けのカンファレンスは大小様々なバリエーションでもてはやされているのに、デベロッパーのやっていることを広報として広めることは、インターネット系企業で人材獲得の一環として実施されていることを除けばそれほど浸透していない。理由はシンプルで、デベロッパーが開発するサービスやプロダクトを広報宣伝するほうがビジネスに直結するからだ。
しかし優秀なデベロッパーを自社に囲い込むことは、ソフトウェアがビジネスの差別化となる時代には重要だろう。デベロッパーを「囲い込む」という言葉には嫌悪感を抱く人も多いだろうが、実際にはオープンソースソフトウェアのコミュニティのように開かれた場とそこに参加する個人を尊重しながら、自社のサービスやプロダクトの開発を加速するために積極的に情報を開示して、賛同や時には鋭い批評を受け入れることが今の時代のスタイルであろう。デベロッパーにとって魅力的な職場であることをアピールすることは、長い目で見て優秀なデベロッパーを集めるために必要だ。
前置きが非常に長くなったが、今回は2017年7月29日に東京で開かれた「DevRelCon Tokyo 2017」というカンファレンスを紹介したい。これは「デベロッパーリレーションカンファレンス」の略で、要はデベロッパーのやっていることを対外的に知らしめることで、デベロッパーのモチベーションをあげ、露出を行うことでサービスやプロダクトの認知を高め、結果としてビジネスを促進しようというデベロッパー向けマーケティングのカンファレンスである。これまでサンフランシスコやロンドンなどで開催されてきたカンファレンスを、日本で初めて開催したものだ。
日本でこのイベントのホストを行っているのはMOONGIFTというベンチャーで、主に開発者向けのマーケティングをサービスとして提供している。MOONGIFTにとっては、このカンファレンス自体がデベロッパーリレーションの存在を認知させるためのツールであり、販促イベントということだろう。とはいえ、カンファレンスの中身にはほとんど宣伝的な要素はなく、主に海外のIT企業で働くデベロッパーリレーションもしくはデベロッパーエバンジェリストが登壇して、事例やアップルやマイクロソフトなどの開発者向けの施策に関するプレゼンテーションを実施していた。
その中から、GitHubのデベロッパー向けマーケティング施策のセッション、日本マイクロソフトの執行役員、伊藤かつら氏のセッションを紹介しよう。
デベロッパー向けマーケティングの基本を解説
GitHubのJohn Britton氏の講演は「Marketing to Developers」と題されたもので、デベロッパー向けのマーケティングについて解説するものだ。その中で「よく出来たプロダクト、明確に定義された対象、利益を出すための仕組み」がまず必要だという。その3つが揃わないのであれば、まずその3つを準備するところから始めるべきだと強調した。特に利益を出す仕組みについてはフリーミアム、都度課金、従量課金、定額課金などの種類を簡単に説明し、どの方法で課金を行うかを考えるべきと説明した。
そしてデベロッパー向けのマーケティングを行う際にSCOOP(Support、Content、Outreach、Operations、Programsの頭文字)という5つの段階に分けて実施することを解説した。Supportは文字通りのサポートで、デベロッパー向けのマーケティングがそのサービスやプロダクトを使うユーザーを助けることから始め、次にサポートを支えるコンテンツを作り、そのあとでようやくアウトリーチ、つまり実際のデベロッパーに接触するべきという流れを解説した。
まず少数のユーザーを満足させ、そのためのコンテンツ作りを優先し、その後からやっとデベロッパーリレーションやエバンジェリストが活動を始めるということだ。これは、従来の消費者向けプロダクトにはない発想といえる。そしてその中でサポート~コンテンツの作成~デベロッパー向けの活動をうまく回すためのオペレーションを整えること、それをデベロッパー向けマーケティングプログラムとしてブランディングを行うという。つまり最初のサポートとコンテンツ作りは社内での作業、それから外部向けのミートアップやセミナー、その後で社内外から認知されるプログラムに昇格させブランディングを行え、ということだ。
そしてデベロッパー向けプログラムの人的役割についても言及し、デベロッパーアドボケイト、コミュニティオペレーション、そしてプログラムマネージャーが必要であると解説した。このうちデベロッパーアドボケイトは地域に密着し、テクノロジーの解説やテクニカルサポートが行えるエンジニア、コミュニティオペレーションはコミュニティを運営する裏方、そしてプログラムマネージャーはプログラムのオーナーとしてデベロッパー向けプログラムを実施する責任者という位置付けだ。コミュニティオペレーションは裏方として複数のプログラムを担当し、プログラムマネージャーは一つのプログラムの責任を持つという点が興味深いところだ。実際にそこまでの組織的なデベロッパー向けマーケティングを行っているところは、外資系の日本法人を別にすればまだ少数で、現実的にはデベロッパーアドボケイト、もしくはエバンジェリストという肩書でコミュニティの看板になるというのが日本での実情ではないだろうか。
そしてデベロッパー向けプログラムを評価する基準としてNetPromoterScore(NPS)の値、コミュニティの参加者の数、そしてコミュニティの参加者の活動の内容を評価するべきという話は、北米、それもBritton氏が所属するGitHubのあるサンフランシスコ界隈の状況をベースにした解説であり、日本の実情に即した内容ではなかった。
その後、GitHubで行われている学生向けのプログラムの事例が紹介された。ここでは無料でGitHubを使える仕組みを作ったこと、そして登録などの作業をマニュアルなものから自動化によるセルフサービス化したことによって、増加するリクエストに対応できるようになったことなどを説明した。ここでもサポートの重要性、ユーザーから来る苦情への対応などを人間らしく行うことなどが説明された。苦情を送ってくるユーザーに無料のTシャツとステッカーを送ったことで関係が改善した経験則は、日本でも活かせるだろう。
マイクロソフトのデベロッパー支援
午後のセッションで登壇したのは、日本マイクロソフトの伊藤かつら氏だ。伊藤氏は自身の日本IBMでの経験から話を始めた。その当時のIBMではセミナーやイベントは全て無料が基本だったが、より良い顧客とコンテンツのために有料のカンファレンスをWebSphere関連のカンファレンスで試行したこと、さらに日本のソフトウェアエンジニアの大多数がエンドユーザー側ではなくシステムインテグレーターや請負を行うソフトウェアハウスにいることなどを挙げ、これからのソフトウェアにおける革新がビジネスの差別化に繋がることを強調し、ソフトウェアデベロッパーに対する支援を続けると力強く語った。
またマイクロソフト自身が変革を起こしているとしてこれからはマルチデバイス、人工知能、サーバーレスコンピューティング、インテリジェントなエッジコンピューティング、さらにはインテリジェントなクラウドを推進すると語った。さらに、オープンソースソフトウェアへの支援も引き続き行うと説明。マイクロソフト自体は過去からWindowsプラットフォーム上のデベロッパー支援を行ってきたという歴史はあるが、近年はオープンソースソフトウェアへの支援の拡大など大きく方向を転換した感がある。
さらに日本のITプロフェッショナルの評価として、マイクロソフトが行ったリサーチを紹介。ここではITプロフェッショナルが重要視されていない、能力が活かされていない、無駄が多く、給与も低いなどの例を挙げて、このままではソフトウェアによる変革が難しい、そのためにもデベロッパーの地位向上に向けた施策が必要と訴えた。
伊藤氏のプレゼンテーションのもう一つの目玉は、マイクロソフトのクラウドと人工知能を活用したリアルタイムの英日翻訳だ。今回のカンファレンスは全て英語によるプレゼンテーションと日本語への同時通訳サービスが行われていたが、伊藤氏はパワーポイントのスライドショーからマイクで取り込んだ英語の音声をクラウドでリアルタイムに日本語に翻訳し、字幕としてスライド上に表示する機能を実際に使ってプレゼンテーションを行った。
このカンファレンスを通じての印象は、今はまだ「デベロッパーリレーション」という発想がアメリカからの輸入品という扱いであることだ。全てのプレゼンテーションが英語ということは、つまり日本語によるユースケースがない、有ったとしてもユースケースとして発表する意味を見つけられないということだ。今後、このカンファレンスにおいて日本語によるプレゼンテーションが可能になり、日本の参加者が増えることが次のステップだろう。最終的にデベロッパーの仕事が露出することで、伊藤氏が解説したデベロッパーにおける悲惨な評価を改善できることになるのにどのくらいの時間が必要なのか注目したい。
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