連載 [第2回] :
  OpenStack Summit Sydneyレポート

OpenStack公式プロジェクトに加わった予約サービス「Blazar」とは?

2017年11月27日(月)
小林 弘明

今回のOpenStack Summit Sydneyレポートは、2017年9月にOpenStackの公式プロジェクトに加わったホットなプロジェクト「Blazar※1」の最新動向を紹介します。

※1 https://docs.openstack.org/blazar/latest/

会場となったSydney Convention and Exhibition Centre

Blazarとは

BlazarはOpenStack Reservation Serviceとも呼ばれ、OpenStack環境におけるコンピュート等のリソースを「予約」するためのサービスです。通常、OpenStackではインスタンス起動などのリクエストを契機にユーザにリソースが割り当てられますが、需要がシステムの容量を上回ると、リクエストしたのにリソースが割り当てられないという困ったことが起こります。このような困りごとを解消するのがBlazarの予約サービスです。Blazarを使うことで、ユーザはリソースをあらかじめ予約しておき、使いたい時に使いたい量のリソースを確実に使うことができます。

例えば、あるユーザがショッピングサイトを運営していたとします。セールの開催でサイトへのアクセスが大幅に増えることが予想される場合に、この予約機能を使えばセール期間中の予備のコンピュートリソースを事前に押さえておくことができます。セール期間中にリソースの需要がシステムの容量を上回ったとしても、事前に予約してあるので優先的にリソースを使えます。

もともとOpenStackでは、消費できるリソース量の上限値として「Quota※2」を設定できます。最大インスタンス数やストレージサイズなどの上限値をプロジェクト毎に適切に設定することで、システムの容量が予期せず消費されることを防げます。しかし、Quotaでは上限は保証できても下限(最低限のリソース量)は保証できません。これに対し、Blazarは「予約」という概念を導入し、下図のようにリソース毎のタイムテーブルを管理することで、指定したリソース量を確実に使えることを保証しています。

Blazarが管理するタイムテーブル(コンピュートホストの例)

※2 https://docs.openstack.org/ja/ops-guide/ops-quotas.html

今回のサミットではBlazarのユースケースとして、米研究機関のテストベッドや通信事業者の利用事例が紹介されていました。以降ではその利用事例を紹介していきます。

米研究機関での運用事例と通信キャリアからの期待

今回、Blazarの代表的な利用事例として、シカゴ大学などの研究機関が運用している科学技術計算用のテストベッド「Chameleon Cloud※3」が紹介されました。Chameleon Cloudはシカゴ大学などの研究機関の多数の研究チームが共同で利用しているテストベッドで、650台を超えるサーバや5PBを超えるストレージ等から構成されています。Chameleon Cloud上の主なワークロードは科学技術計算を行うアプリケーションです。このようなアプリケーションは一度に大量のリソースを必要とするため、複数の研究チームが自由気ままに使っていると、あっという間にリソース需要がシステムの容量を上回ってしまいます。また、同一ホスト上のインスタンス同士が干渉して性能が劣化するNoisy Neighbor問題も生じます。そこでBlazarを導入し、排他的に使えるコンピュートリソースの「量」と「時間」を研究プロジェクト毎に予約管理しているようです。

今回のサミットではオーストラリアの研究機関からも同様のニーズがあるとの声もあり、まさにBlazarの代表的なユースケースといえるでしょう。

※3 https://www.chameleoncloud.org/

今回紹介されていたもうひとつのユースケースは、通信業界で話題のNFV(Network Function Virtualization)です。NFVとは、一言でいえば通信事業者の設備の仮想化です。現在、標準化団体ETSIのもとでNFVの標準化(ETSI NFV)が進められており※4、この標準仕様にも「予約」の考えが盛り込まれています。通信事業者のサービスは信頼性要件が厳しいことで知られており、その要件を満たすには予約をいれてリソース量を保証する必要がある、というのが通信業界の共通認識のようです。

ETSI NFVの標準仕様に沿ったリファレンス実装を策定しているOPNFV※5でも、予約にフォーカスした「Promise」というプロジェクトが立ち上げられています。このPromiseプロジェクトでは、ETSI NFVの要件にある予約機能の実装としてBlazarを採用することが最近決まり、BlazarはNFVコミュニティでも話題のプロジェクトとなっています。前回のBostonサミットに引き続き、今回のサミットでも通信事業者が集まるセッションで予約に関するディスカッションが盛んにおこなわれていました。

※4 http://www.etsi.org/technologies-clusters/technologies/nfv

※5 https://www.opnfv.org/

注目の新機能と今後のロードマップ

2017年8月、OpenStack Pike版がリリースされました。Pike版のBlazarの主な新機能として、今回はインスタンス予約とダッシュボードが紹介されました。

インスタンス予約: Blazarはメインのコンポーネントと予約リソースを操作するコンポーネントが分離されたアーキテクチャ(下図)となっており、後者(以下、プラグイン)を追加することで予約リソースの種類を増やすことができます。ひとつ前のOcataリリースでは「コンピュートホスト」プラグインのみがサポートされていましたが、Pikeリリースではそこに新たに「インスタンス」プラグインが追加されました。「コンピュートホスト」プラグインがホストのスペックや台数を指定して予約できるのに対し、「インスタンス」プラグインはインスタンスのスペック(flavor)や台数を指定して予約できます。

ダッシュボード: Blazarのユーザインタフェースとして、REST APIとコマンドラインインタフェースに加え、新しくダッシュボードがサポートされました。このダッシュボードはHorizonのプラグインとして提供されています。ダッシュボードの登場により、予約の作成や確認といった操作をより簡単にできるようになりました。今回のサミットのBlazarのセッションでは、このダッシュボードを使ったデモが披露されていました。

Blazarのアーキテクチャ

2018年2月にリリース予定のQueens版の注目の新機能は、リソースモニタリングとリソース管理用ダッシュボードです。

リソースモニタリング: 予約したリソースが使えることを保証するために、リソースのヘルスチェックを行う機能です。例えば予約していたコンピュートホストが故障した場合、Blazarがそれを検出して代わりのリソースを自動的に予約することで、ユーザへの影響を抑えられます。通信事業者のように高い信頼性を求めるユーザ待望の新機能といえるでしょう。

リソース管理用ダッシュボード : Pikeリリースでサポートされた予約管理用のダッシュボードに加え、新たにリソース管理用のダッシュボードがAdmin向けに提供される予定です。Blazarは予約リソースのプールを持っているのですが、ダッシュボードを利用してこのプールへのリソースの追加、削除などの操作をより簡単にできるようになります。

Queens以降の長期的なロードマップとしては、ネットワークやストレージといった新しいリソースプラグインのサポートなどが挙げられています。

おわりに

今回はOpenStackのリソース予約サービス「Blazar」を紹介しました。Blazarには新機能が続々と追加されており、非常に活発なプロジェクトです。研究機関や通信事業者を中心にこれから利用事例が増えていくことが予想され、今後の動向から目が離せません。皆さんも、Blazarを利用してクラウドのリソースを予約管理してみてはいかがでしょうか。

NTT

NTTネットワークサービスシステム研究所にて、NFVプラットフォームや通信システム向け分散処理技術などの研究開発に従事。2016年からOpenStackコミュニティにコントリビュータとして参加、現在は「Blazar」プロジェクトのコアディベロッパとして活動中。

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