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  インタビュー

ミランティスジャパンの新社長が「OpenStackが下火なのは良いこと」と語る理由

2018年3月13日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
OpenStack専業ベンダーであるミランティスは、よりオープンなクラウド環境に向けて方向転換を行っている。日本市場を担当する新社長、嘉門延親氏に日本での取り組みについて訊いた。

OpenStack専業のベンチャーとしてスタートしたMirantisの日本法人、ミランティスジャパン株式会社の代表が替わり、エーピーコミュニケーションズ出身の嘉門延親氏が2018年2月からCEO/代表取締役となった。MirantisはOpenStackにおいてディストリビューションのメーカーであるとともに、最近は「Managed Open Cloud」をキャッチコピーに、よりクラウド的なインフラストラクチャーをマネージドで提供する方向にシフトしている。日本での活動の総括、そしてこれからの方向性について、嘉門氏にインタビューを行なった。

まず日本での活動を総括していただけますか?

前社長であった磯逸夫の時には、大手のパートナー及びエンタープライズのエグゼクティブ向けの営業活動というものを進めていましたが、それについてはある程度成果が出たと思っています。1年半ぐらいやってきた結果、富士通、NTT Com、CTCとそれぞれパートナー契約ができました。

もう一つ、OpenStackは現在、外部から見たら下火になってきているように見えると思っています。しかしそれは、リアリティがちゃんと周知されてきたのではないか、という言うことで私としては良い意味で捉えています。つまり「VMwareの代替じゃないよ」ということが、やっと分かってもらえたという感じです。今進んでいる案件でも、正しいユースケースに向かっているということで、ビジネスとしては良い方向になってきていると感じています。

ミランティスジャパンの社長に就任した嘉門延親氏

ミランティスジャパンの社長に就任した嘉門延親氏

ハイプな時期が終わって、地に足が着いてきた感じですか?

そうですね。お客様と話をしていても、どうしてもインフラエンジニアさんは、自分の手を動かして仮想マシンを立ち上げたいという、なんというかクセみたいなものがあって、「でもそれってあんまり意味ないですよね? そんなことやっていたら全然スピード上がりませんよね?」ということを伝えたいと。だいたい「仮想マシン払い出すのに、なぜ1週間もかかるのですか?」のような議論が終わって「やっぱりもっとコード化、自動化しなくちゃだめ」という方向になって、やっとOpenStackっていうのが意味のあるプラットフォームになってきているということなのです。

よくある例なのですが「これからはコンテナだ、コンテナのプラットフォームが欲しい」ということで、よくよく話をしてみるとどうも噛み合わない。ひょっとしてこの人が欲しいのは、仮想マシンが立ち上がれば良いのではないか? ということでOpenStackのダッシュボードであるHorizonのUIから仮想マシンをポチッと立ち上げると「おお! これはスゴイ!」と言う話が未だにあるんです(笑)。

つまりコンテナっていうのが流行りとして伝わっているが、実際にはそこまで行っていないと。

トレンドのキャッチアップは大事だと思いますが、そもそもアジャイル開発もしていない、CI/CDも回していないという状況で、コンテナ化してもメリットを感じてもらいにくいのではないでしょうか。コンテナとKubernetesのオーケストレーションとは、素早くアプリケーションをアジャイルに開発してCI/CDを回すからこそ意味があるわけで、そうでない環境に入れても、単に小さな仮想マシンができるだけではないでしょうか?

だったらVMwareでイイのでは? ですね(笑)アジャイル開発、コンテナ化、CI/CD、そしてそれを支えるOpenStack、これら全てが地続きなのに、そういうプロセスを変えずに道具立てだけ入れ替えて、なんとかしようっていう感じでしょうか。

ちょっと残念なことに、その雰囲気をリードしているのが、インフラストラクチャーを担当しているエンジニアであるように見えるのです。インフラエンジニアは、自分たちが好きなツールセットとしてCI/CD、そしてその下のインフラであるOpenStackと言う話を進めてくれるのですが、デベロッパーのほうは「いや、オレたちが欲しいのはそれじゃない」っていうことになって「じゃぁ、オレたちはAWS使うから」っていうオチになる。

インフラエンジニアがそんな感じだと、なかなかデベロッパーとも話が進まないですね(笑)。ちょっと話をMirantisのほうに戻しますが、元々Pure Play OpenStackと称していましたが最近は変わったのですか?

これまでMCP(Mirantis Cloud Platform)と呼んでいたものが、今は「Managed Open Cloud」っていう名称になりましたね。これは100%オープンソースソフトウェアを用いてクラウドを提供するというもので、中心となるのはOpenStackとKubernetes、そしてSDNとしてはOpenContrail、ストレージはCephと言う構成ですね。それとライフサイクルマネージメントのためのツールで、MirantisではDriveTrainと呼んでいますが、Gitで構成ファイルを管理して、Gerritでテストを行って、Jenkinsのパイプラインを使ってSaltStackでインフラストラクチャーを実装するといったツール群もあります。これは、全部オープンソースのソフトウェアで構成されています。

オープンソースソフトウェアはいろいろ修正が入ったり、脆弱性のパッチが出たり、依存関係のチェックが面倒なこともあります。その辺を全てMirantisが検証して2週間に一度、Mirantisが提供しているオープンソースソフトウェアのアップデートを配布することもやっています。ですので、運用の人がひとつひとつ確認しなくても安全にアップデートができるのです。他にもOpenStackのバージョンのアップグレードも、1バージョン飛ばして上げることができるようになっています。例えば「MitakaからNewtonを飛ばして、次のOcataに行く」というようなことも可能です。実はこれ、結構難しいことなのです。その辺についても、全てMirantisが検証しています。

元々Mirantisは、コンサルティングサービスがすごくしっかりしているという印象がありますが、サブスクリプションとコンサルティングはビジネス的にはどちらの方が大きいのですか?

コンサルティングとサポートのサブスクリプションサービスは2つの柱ですが、規模が大きいのはサブスクリプションのほうですね。コンサルティングだけやって、保守と運用は自社でと言う企業もありますので。なので、インフラストラクチャーだけじゃなくて、Ci/CDに関してもツールの提供やコンサルティングをやっています。

現時点でMirantisのグローバルなビジネスの中で問題となっているのは、CI/CDの最後のDeployのところがなかなかうまく繋がらないという状態の企業が多いというところですね。日本とはだいぶ状況が違いますね、まだ時間差があります(笑)。

インフラストラクチャーからアプリケーションの開発のサイクルの話まで幅が広いですが、対応するエンジニアは何人ぐらいですか?

ミランティスジャパンでは数人というレベルです。実際にコードを書くのは本社にいるエンジニアに任せているので、日本のエンジニアがやることは「お客さんの話を聞いて理解すること」ですね。なので幅広くいろいろなことを知っておく必要があります。かと言って知識が浅いと、お客さまに底の浅さを見透かされてしまうことにもなりますので、要求レベルは高いですね。他にエンジニアとしては、やはり英語によるコミュニケーションがどうしても必要になるので、それはないと難しいです。

今、私たちが対応しているお客さまも二分化していて、通信キャリアのようにもの凄く慎重に色々と検討した上で声をかけてくださるお客さまと、とりあえず仮想化が済んだレベルのお客さまがいらっしゃいます。さっきの話でまだアジャイルでもない、ウォーターフォールで開発やっていて、別にマイクロサービスっぽくしなくても良いようなアプリケーションっていうのもあるわけです。2~3年に1回、アップグレードすれば良いようなアプリケーションですけど、そういうものを無理矢理マイクロサービスにしてKubernetesで動かす意味はないのです。なので、アジャイルにしなければいけないようなビジネスをちゃんと切り出して、それを実装するというのが重要だと考えています。

そうすると場合によってはコンサルティングした上で「これはクラウドネイティブにしなくてもいいですね」なんて答えることもある、と。

そうですね。そこを無理矢理やる意味はないですし、そこで変にツールだけを押し付けると、後々悪い影響を残しますので。その辺は、OpenStackの時に似ていると感じています。当時も、とにかくOpenStackを入れたいというベンダーが頑張って「こんなに小さくても始められる」とか「VMwareの替わりになる」と宣伝して、無理矢理入れようとしたことがママありました。でもそれは実態と合っていませんし、最終的にはお客さんにとっては良くないことなので。それはちゃんと言うようにしています。

では最後に日本でのミランティスとしての目標を教えてください。

ひとつは、個々の案件をキチンとクローズしていくというごくごく当たり前のことですね。ちゃんと実績を出していくというか。あとは、これは個人的な目標でもありますが、さっき言った日本とアメリカの時間差を縮めるために、少しでも力になれたら良いかなと思いますね。今のKubernetesを囲む状況は、多分にOpenStackのあの時を思い起こさせるものがあります(笑)。だからウソは言わないというのは大事ですね。

何が何でもコンテナとKubernetesじゃなくて、それが必要となるビジネスがあるのか? それをソフトウェアで解決する必要があるのか? をちゃんと聞き取るということですね。

そういうことです。

「今のOpenStackが下火に見えるのは逆に良いことだ」と語るミランティスジャパン代表の嘉門氏の見解は、多分に流行りモノに飛びつきがちなIT業界の中において、冷静にビジネスの本質を見極めるためには必要な視点ではないだろうか。

OpenStackにこだわらず、クラウドネイティブになるための道具立てとしてオープンソースソフトウェアを位置付けていることがよく分かるインタビューであった。5月に予定されているバンクンバーでのOpenStack Summitが楽しみである。

参考リンク:OpenStack Summit | Vancouver 2018

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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