CloudNative Days Tokyo 2019開催。Airbnb、IBM、Canonicalなどが登壇
クラウドネイティブなコンピュータシステムに関するカンファレンス、CloudNative Days Tokyo 2019が2019年7月に開催された。2018年はContainer Days Tokyoとして開催されていたカンファレンスJapan Container Daysと、オープンソースのクラウドインフラストラクチャーであるOpenStackを推進するOpenStack Foundation公認のOpenStack Days Tokyoという2つのカンファレンスを合体させることで、クラウドインフラストラクチャー、コンテナオーケストレーション、DevOps、運用監視、クラウドネイティブな事例発表など、広範囲のトピックをカバーするカンファレンスとなった。
最初にOpenStackユーザー会の会長でAXLBIT株式会社の代表取締役でもある長谷川章博氏がMC役として登壇し、キーノートが始まった。長谷川氏はこれまでOpenStack Days TokyoでもMC役を努めてきたが、それに倣った形のスタートとなった。
長谷川氏はクラウドネイティブの定義やCNCFが公開しているトレイルマップを紹介し、プライベートクラウドが徐々にエンタープライズに浸透している状況をリサーチのデータを引用しながら解説した。特にクラウドネイティブなソフトウェアの活用については、来場者の約半数が本番環境で利用していることを紹介。
またOpenStackを取り巻く環境の変化についても解説し、特に近年の中国企業の貢献についても紹介。これは2016年から2019年にかけてHuaweiや99Cloudと言った企業が、OpenStackに対して多くのコミットを送っているというデータを元にしたものだ。これはOpenStackに限った現象ではなく、KubernetesなどのCNCF配下のプロジェクトにおいても中国企業は大きな存在感を示すようになっており、ここでもそれを実感することになった。
その後、CNCF側のアップデートとしてLinux Foundationのディレクターである福安徳晃氏が講演を行った。
多くのプロジェクトをホストするCNCFは今でも新しいプロジェクトを追加し続けている。クラウドネイティブなシステムに対する需要とそれを支える企業は増加し、コミュニティの活動はさらに活発になっていることは、バルセロナそして上海で行われたKubeConでも確認できた状況である。福安氏は、Kubernetesに関する2つの認定試験が日本語化されたことを紹介。中国語に続いて、ここでもローカルのエンジニアにアピールする形になった。
次に登壇したのは、OpenStack FoundationのCOOであるMark Collier氏だ。
Collier氏はこれまでのOpenStackの過去を振り返り、日本ともさまざまな関わりがあったことを紹介。OpenStackは、AWSのようなクラウドネイティブなインフラストラクチャーを実現しようという目的でRackspace、NASAなどのユーザー主導で2010年に始まったオープンソースプロジェクトだ。この9年間でプロジェクトのスコープも拡大し、コンピュート、ストレージ、ネットワークなどの主要なソフトウェアだけではなく、Kubernetesを実装するためのMagnumなども開発が進んでいる。
2015年に東京で開催されたOpenStack Summitを紹介した後に、9年間で19のメジャーリリースを達成したOpenStackであったが、次のスライドで最初の世代のクラウドについて論じたものは非常に興味深いと言える。なぜならパブリッククラウドプロバイダーが独自の実装でクラウドインフラストラクチャーを提供したことと並行して、OpenStackはオープンソースソフトウェアとしてクラウドインフラストラクチャーを提供し、それはある程度は成功した。しかし企業がこれを社内のデータセンターに実装するためには多大な技術的投資、つまり多数のエンジニアが必要となってしまった点については、しっかりと反省しているという部分だろう。
最初のクラウドインフラストラクチャーとしては、仮想マシンを提供するという最低限の目的は達成したが、解決できなかった問題が多数あるというのが次のスライドだ。
IPv6やベアメタルサーバーの管理、エッジコンピューティング、機械学習など多くのポイントが挙げられている。そしてその穴を埋めるかのように、OpenStack Foundationはエッジ向けの実装であるStarling Xなどをホストしていることからも、OpenStack Foundationとしての方向性が見えてくる内容となった。またこれからのクラウドインフラストラクチャーが備えるべき特性を、次のスライドで解説を行った。
クラウドネイティブであることは自明として、複数のクラウドプラットフォームで実装できること、仮想マシン、ベアメタル、コンテナのすべてに対応すること、エンジニアリングリソースが少ない組織、つまり中小企業でも実装できるように簡単にすること、などが挙げられている。つまり、巨大で導入と運用が難しいと言われるOpenStackの改善点を素直に認めているわけだ。オープンであることがイノベーションの基礎であることは何度も強調された内容となったが、その一方で自動化、コード化について触れられていないのは、クラウドインフラストラクチャーという看板には当然含まれているということだろうか。
次に登壇したのは、KubeConでもキーノートとして登場したAirbnbのMelanie Cebula氏だ。
Cebula氏はマイグレーションの重要性について、Airbnbでの経験を元にマイグレーションのレベル分け、並列に行うかシーケンシャルに行うかの判断、モノリシックなアプリケーションからコンテナ、Kubernetesへの移行などのパターンについて解説を行った。
Cebula氏のセッションはかなり網羅的にマイグレーションのパターンを紹介するもので、各々のスライドにAirbnbでの事例が細かな英字で綴られていた。
最後のまとめとして10のポイントが解説されたが、技術的負債を払拭するためにマイグレーションは有効である、というのは最低限の要点としてメモしておきたい。つまり過去の資産にこだわって新しいソフトウェアの導入を遅らせることは、技術的負債を増やすだけで減らすことはできないという至極当たり前の主張である。つまり、既存の運用方法や現存する技術者の知識に依存するのは、リスクを増やすだけという内容だ。
ユーザーのセッションの後はUbuntuの開発元であるCanonical、そしてIBMからのプレゼンテーションとなった。
Fabel氏はオープンソースソフトウェアをインフラストラクチャーで使う場合の10のルールと称してプレゼンテーションを実施。最新のビルドを使えなどのルールを紹介した。
IBMのDoug Davis氏は、PaaS、Container-as-a-Service(CaaS)の次の段階としてサーバーレスとKnativeを解説した。
コンピューティングの進化として、ベアメタルサーバーから仮想化、コンテナ、そしてその先にサーバーレスが存在するというもので、コンテナオーケストレーションから進化した形がサーバーレスであると強調した。
ここで興味深いのは、デベロッパーからみたサーバーレスはPaaSの進化型であるという発想だろう。デベロッパーが書いたコードがどのサーバー上にあるのかを意識することなく実行されるというのは、CloudFoudryのコンセプトである「Here is my code, run it in the cloud, I don't care how」(PivotalはこれをCloudFoudryのHaikuと称している)が究極の形で実現されたものであるというのが、Davis氏の意見である。
そしてKubernetesはそのコンセプトにかなり近づいたが、それでもまた独特のインフラストラクチャーレベルの知識と運用が必要であると解説。それをサーバーレスとして実装したのが、Knativeであると語った。
そしてPaaS、CaaS、サーバーレス、Knativeの比較表を用いて、Knativeの優位性を解説した。表の中でWIPと書かれているのは「Work in Progress(開発中)」という意味である。
Simplified UX(シンプルなユーザーエクスペリエンス)やBuildというポイントについて、CaaSにチェックマークがついていないのは妥当だが、この比較表をみるとDavis氏がPaaSを高く評価していることがわかる。PaaSのコンセプトをさらに進化させて、Kubernetesのエコシステムからのスムーズな移行を図ることがKnativeの戦略と言ったところだろう。
そして最後にIBMとKnativeの関係というスライドで、IBMがKnativeに大きな投資をしていることを紹介してステージを降りた。
Mark Collier氏のOpenStackの振り返りと反省、Airbnbの知見、そしてサーバーレスへの道筋と盛り沢山のキーノートとなった。スピーカーが参加者との対話を楽しむ場面も見受けられ、リラックスしながらも双方向の活発なコミュニケーションが発生していたカンファレンス初日となった。
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