イベント2日目:デモ連発で会場を沸かせたマーク・コリアー氏

2017年6月13日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
OpenStack Summit Boston 2017の2日目のキーノートはデモ中心の構成で、「コンポーザブルインフラストラクチャー」を印象づけるものだった。

2日目は技術寄りとなったキーノート

OpenStack Summit Boston 2017、2日目のキーノートセッションを紹介しよう。前日のキーノートは事例中心に構成されていたのに対して、2日目はIBM、NetApp、Mirantisなどがデモを実施し、最後にはパブリッククラウドベンダーなどが揃って同じコンテナの相互運用を行って見せるなど、技術中心のプレゼンテーションとなった。

OpenStack Foundation、COOのマーク・コリアー氏

OpenStack Foundation、COOのマーク・コリアー氏

まずOpenStack FoundationのCOOであるコリアー氏は、オープンソースソフトウェアが現代のITにおけるイノベーションの先端を走っていることを強調。例として、機械学習の領域ではGoogleが推進しているTensorFlow、MicrosoftのCNTK、Facebookが開発をリードするCaffe2など、ビッグデータではSparkとHadoop、リアルタイム処理のKafka、CI/CDツールのSpinnaker、Jenkins、Travis CI、OpenStackのオートメーションツールとして最近出てきたZuul、コンテナの管理ツールとしてKubernetesなどを挙げた。さらにこの後デモで登場する「スケールアウトするNewSQL」とも呼ばれるクラウドベースのSQLデータベース、CockroachDBなどを例として挙げ、「すでにオープンソース以外ではイノベーションは起きていない」とまで断言した。そしてそれらのコンポーネントは独立して動いているのではなく、お互いが協調しながら動くことによってリアルな問題を解決することができると解説した。ここで重要なのは、その他のオープンソースソフトウェアだけではなく、OpenStackの中のコンポーネントも単体の機能を果たすコンポーネントとして、「コンポーザブルなインフラストラクチャー」を提供できるという見方だろう。

注目されるオープンソースソフトウェアを紹介

注目されるオープンソースソフトウェアを紹介

ただしそのようにコンポーネントが協働して実行される場合の問題点の一つとして複雑さを挙げ、コンポーザブルなインフラストラクチャーとして組み上げる時に、その複雑さはさらに高まるという。そしてその次の問題点は、「車輪を二度と作らないこと」だという。こちらは、問題としてはより難しいとコメントした。これは「Not Invented Hereシンドローム(独自技術症候群)」などと呼ばれ、すでにあるものを使わずにあえてゼロから作り上げようとする傾向だ。これはオープンソースソフトウェアでは顕著に現れるとし、このカンファレンスに集まった63ヶ国からの参加者を擁するOpenStackのようなコミュニティ、つまり多様な背景を持つ集団においては特に起こりがちであると解説した。だがその違いを乗り越えて協調することで無駄を省き、進化を続けることができると語った。

そしてここからデモタイムとなり、Dell EMCのサーバーとストレージを使ったコンポーザブルなインフラストラクチャーの例として、ベアメタルのサーバーにIronicを使ってNeutronをデプロイするデモ、そしてDockerコマンドだけでブロックストレージであるCinderをそのベアメタルサーバーにデプロイしてみせた。結果的には半分は上手く行かなかったようだが、それでも予め撮っておいた動画でデモをみせるのではなく、ライブデモを実施する辺りにエンジニアの意地を感じた瞬間だった。

ベアメタルサーバーを使ったデモを実施

ベアメタルサーバーを使ったデモを実施

さらにMirantisのエンジニアが登壇し、リアルタイムでTwitterのフィードからKafkaでリアルタイムにフィードを受け取って、Sparkで分析し、結果をHDFSに格納するデモを実施した。オートメーションはSpinnaker、サーバー間のSDNはJuniperのOpenContrailを利用。ここでもコンポーザブルなインフラストラクチャーの例として、複数のソフトウェアが連携して稼働するようすを見せた。

Mirantisのエンジニアがデモを実施

Mirantisのエンジニアがデモを実施

次はインテルのVPが登場。最近は自動運転とAIにフォーカスしがちなインテルだが、OpenStackにも力を入れていると強調。しかし約2年前にRackspaceと共同でエンタープライズ向けに巨大なOpenStackの検証センター(OpenStack Innovation Center、略称OSIC)を作るとプレゼンテーションしていたインテルが、この4月にそのプロジェクトからは脱退し、予算も引き上げたというニュースを知っていた人たちにとってみると、いささか白々しさが残る数分間だったと言えるだろう。実際Rackspaceにおいても、関連部門のエンジニアは全てリストラされたという。

若干、会場が白けたインテルのプレゼンテーション

若干、会場が白けたインテルのプレゼンテーション

存在感を示すRed Hat

そして再び、マーク・コリアー氏が登壇する。元Red Hatで今やGoogle CloudのCTOであるブライアン・スティーブンス氏がステージに招かれ、トークショーの形でコリアー氏の質問に答える形のパートになった。前日はRed HatのCEOが登場、この日も元Red HatということでRed Hatの存在感が示されたような印象だ。ここでの最初の話題は「どうしてGoogleに移ったのか?」だ。これに対してスティーブンス氏は「ベンダーではなく、エンタープライズでもっと複雑な環境にチャレンジしたかった」と答えた。そして「Googleはオープンソースソフトウェアをちゃんと考えてるの?」という質問に対しては「ちゃんと考えているし、これまでのようにホワイトペーパーを書いてそれでおしまい、というようなことはない」と発言。思わず会場から拍手が起こったのが興味深い。また「オープンソースソフトウェアはどこに向かうのか?」という質問に対しては、「ツールは常に変わっているし、これからもイノベーションは続いていくだろう」と答えた。機械学習に関しては、TensorFlowが糖尿病の兆候を人間よりも速く認識できたことを例に出して、今後も進歩は進んでいくことと語った。

Googleのスティーブンス氏(左)とコリアー氏(右)

Googleのスティーブンス氏(左)とコリアー氏(右)

次はガラッと嗜好を変えて、CockroachDBのCEOがCoreOSのCEOとともに登壇した。ここではクラウドベースのスケールアウトするSQLデータベースとしてCockroachDBのデモを実施した。ちょっと恐ろしい名前は「複製をどんどん作って『なかなか殺せない』データベース」というのが由来だという。機能としてはHigh Availability、マルチサイトでのアクティブ-アクティブな構成が可能で、スケールアウトできるところだという。創業者が元GoogleでAdWordsのバックエンドとしてMySQLを使っていたところから開発が進んだもので、Googleでの実装はSpannerとして公開が始まっている。MicrosoftであればCosmo DBに相当する位置付けだろう。CockroachDBは独自の実装で、オープンソースソフトウェアとして公開を始めている。デモは複数のノード上でコンテナに入れられたCockroachDBを稼働させておいて、プロセスを殺してもちゃんと自動的に復旧するようすを見せた。

CEOのキンボール氏(右)自らがCockroachDBのデモ。左はCoreOSのポルビ氏

CEOのキンボール氏(右)自らがCockroachDBのデモ。左はCoreOSのポルビ氏

最後のデモは「Interop Challenge」と称して、OpenStackをパブリッククラウドとしてサービスしている各社、RackspaceやChina Mobile、Deutsche Telekom、EasyStackやSUSE、NetApp、Canonicalなどのベンダー15社の担当者が壇上に登場。先ほどのCockroachDBのデプロイを行うスクリプトを一斉に実行させるデモだ。これは様々なディストリビューションのOpenStackでCockroachDBのコンテナを動かすもので、ポイントは各社の異なるバージョンのOpenStack上で同じコンテナが動いていることを見せ、インターオペラビリティーが保たれていることを強調した点だ。一つ間違えば悲惨な状況になるものを、敢えてチャレンジしたことは大いに評価したい。

各社が一斉にデモを実施

各社が一斉にデモを実施

2日目のキーノートセッションは、複数のデモが行われ、緊張感のあるものとなった。最後のインターオペラビリティーのデモの際に、日本からもスポンサーとして参加していたNTTグループが登壇していなかったのが残念でならない。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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