様々な本番環境を支えるOpenStack
ますます拡がるOpenStackエコシステムが一同に
2017年5月8日から11日までボストンで開催されたOpenStack Summit Boston 2017は、プライベートクラウドインフラストラクチャーの定番と言えるOpenStackに関するカンファレンスで、毎年5月と11月の2回開催されているものだ。今年は昨年のオースチンでのサミットに比べて少し規模が縮小した様子だったが、その理由の一つはこれまでの事例や技術に関するカンファレンスから、OpenStackを構成する各コンポーネントに貢献しているデベロッパーが仕様や方向性などを議論するデザインサミットが分離されたためと思われる。ただし、Forumという名前でデベロッパーが各コンポーネントに関する議論を行う場所は用意されており、カンファレンスに集まったデベロッパーたちは、深い議論ができたようである。
OpenStackのガバナンスを行うOpenStack Foundationが、デベロッパーとユーザーの双方を重視する姿勢は以前からずっと維持されており、OpenStack Summitは開発者主導に偏らずにユーザー、特にインターネットサービスやモバイルネットワークオペレーターにとっても意見を交わす場所である。自社のサービスを委ねるインフラとして、OpenStackへの支持が着実に拡がっているのも、こうした開発者とユーザー双方を重視する姿勢の現れと言ってよいだろう。
8日朝のキーノートに最初に登壇したのはOpenStack Foundationのエグゼクティブディレクター、ジョナサン・ブライス氏だ。まずは、2017年初に実施されたユーザーサーベイのデータを披露した。ここではOpenStackのデプロイメントの数が、昨年から44%も増えたことが紹介された。
また今回はデザインサミットがなくなったということで、OpenStackの各プロジェクトに関する議論の場としてのForumを紹介するために、FoudationのマーケティングとエンジニアリングのVPをそれぞれ登壇させて、プロジェクトの概要と他のオープンソースソフトウェアとの連携の場としてのOpenSource Daysが併設されることを紹介した。ここではAnsible、Ceph、Cloud Foundry、Kubernetesなどが、OpenStackと連携することの重要性を説いた形になった。
再度登壇したブライス氏が強調したのが、「OpenStackを選ぶ理由」についてだ。ユーザーサーベイの結果を元に一昨年は「コスト削減」が一番大きな理由だったものが、昨年のサーベイでは一番の理由が「ベンダーロックインを避けるため」、そして2番めが「イノベーションを推進するため」になっていることを紹介。ここでも、後ろ向きの姿勢から前向きに自社のITインフラストラクチャーを捉えていることが見えてくる。
またOpenStack上で使われているコンテナ及びPaaSの調査結果も紹介された。コンテナのフォーマットとしてはDocker、デプロイメントのツールとしてAnsible、さらにオーケストレーションのツールとしてはKubernetes、PaaSとしてCloud FoundryとOpenShiftが同率ということで、意外にもRed Hatが力を入れているOpenShiftが利用を伸ばしていることが見て取れた。
多岐にわたるユースケースの紹介
ここからユースケースとしてGEのヘルスケア部門の担当者が登壇し、OpenStackを導入した概要を紹介した。インフラストラクチャー構築を担当したのはOpenStackのサービスを展開しているRackspaceで、本番環境への導入から8日目に最初の本番用アプリケーションが稼働し始め、その後6週間に70を超えるアプリケーションが移行されたという。ここもイノベーションの加速化を示す例となった。
この後、より多様なOpenStackの実装例ということで、モバイルネットワークオペレーターであるVerizonが登壇した。ここではデータセンターでのOpenStackではなく、CPE(Customer Premises Equipment)つまりネットワークサービスを企業などに提供する際、顧客サイドに設置する機材にOpenStackを入れてアプリケーションやサービスの提供、セルフサービス化、セキュリティ、管理の自動化を目指した事例を紹介した。実際にWAN接続の部分は、最近シスコに買収されたSD-WANベンダーのViptelaの、セキュリティの部分にはPalo Alto Networksのツールが導入されており、社内では「Cloud in Box」と呼ばれているそうである。
実際に、VerizonのCPEのコントロールポータルの画面も紹介された。ViptelaとPalo Altoのアプリケーションが動いているのが確認できる。
VerizonのネットワークサービスにおけるOpenStackの位置付けがよく分かるプレゼンテーションであった。
その次に登壇したのは、米国陸軍の中の教育機関であるThe U.S. Army Cyber Schoolに属する少佐と大尉で、実際に制服を着ての登壇となった。ここでは兵士向けのカリキュラムの開発にアジャイルの発想を取り入れて、これまで1年以上かかっていたものを大幅に短縮することができたという。
この事例の場合は、スライドなどのマテリアルをGitHubやCI/CDのツールを通じで即座に修正、コースウェアとして更新するなどのE-Learning向けのプラットフォームとしてOpenStackを採用し、実際に世界中のどこの場所でも行えるようにラックに収めた一体型のサーバーセット(Broadband Handrail、BB-H)で実装されているという。
ここでもVerizonと同様に、エッジ側にOpenStackを置いてリモートからも運用管理ができるという事例だった。これはこの後に登壇するMirantisが提唱する「マネージドオープンクラウド」という新しいコンセプトにつながるユースケースとなった。
Mirantisは今回もスポンサードの枠をキーノートセッションに確保しており、前述の「マネージドオープンクラウド」をキーメッセージとして訴えた。これはパブリッククラウドがベンダーロックインであり、OpenStackはそれに対する回答であったはずなのに、OpenStackのコンポーネントが増えすぎ、それぞれの進歩が揃わなくなってきたという現状を見据えて、「これからはオープンソースのクラウドでも、ちゃんとマネージメントを行う必要がある。その時にOpenStackに関してどれだけ深く理解しているのかがベンダー選択の決め手」であると言いたかったようだ。毎回凝った演出なのが売りの一つだが、今回は最後に富士通との提携を持ってきた。これがグローバルに効くメッセージだったかはさておき、日本からの参加者にとっては「あの富士通がMirantisと手を組んだ」ことがよく伝わる演出となった。
次に登壇したのはAT&TのDirecTV、そしてeBayだ。ここからはブライス氏が解説したプライベートクラウドに求められる3つのCの問題、つまりコンプライアンス、コスト、ケイパビリティに沿って、事例の解説を行う流れとなった。この3つのCは、「セキュリティを含めたコンプライアンスを実現できているか?」「コストを削減できているか?」そして「可用性を高められているか?」という課題に対して、それぞれの事例が何を達成しているのか? ということだ。
最初に登壇しDirecTVはAT&Tの衛星放送サービスだが、全てのインフラでOpenStackを利用しているという。
ここでもコンテナ、ベアメタル、サーバーレスそしてKubernetesというキーワードによって、単なるクラウドからさらに進化しようとする意向が示された。
またeBayにおいても、Kubernetesをフルに活用したプライベートクラウド環境の拡大が紹介された。
同時にeBayは、社内で開発したKubernetes用のライフサイクルマネージメントツールをTessMasterと命名し、オープンソースソフトウェアとして公開すると発表した。すでに同社内で使われていたTessMasterは、存在は知られてはいたものの、今回このキーノートのセッションで改めてそれを表明したということになる。
その後はRed HatのCEO、ジム・ホワイトハースト氏が登壇し、ブライス氏と短めのトークセッションを行った。ここでもホワイトハースト氏は「長期の計画は今やあまり意味がない」「オープンソースソフトウェアも分断化されており、ガバナンスが必要」というコメントを残し、同じくRed Hatのクリス・ライト氏によるRed HatのOpenStackの話に続いた。
ライト氏は各社が用意しているOpenStackのディストリビューションと比べても、Red Hatのものがシェアを握っていることを紹介。確かにユーザーサーベイを見ればRed Hatが28%で、Ciscoに供給しているものを合わせれば43%という割合を占めることになる。
このあとMITの人工知能の研究組織であるCSAIL(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)のディレクターが登壇。折り紙から発想した極小のロボットの話を紹介した。そして最後に、過去にNTTも受賞した恒例のスーパーユーザーアワードの授賞式も行われ、盛り沢山となった1日目のキーノートセッションが終わった。
全般的に参加者が少なめで、演出も地味な印象だったが、個々の事例がもはや実証実験を超えて本番環境に入っていること、さらにアプリケーションの実行環境としてコンテナのオーケストレーションが求められていることが明らかになった時間でもあった。
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