「映像作品を制作する」ということ
自作品「朱の路」について
「朱(あか)の路」の舞台は、大学生のときに行った沖縄の離島でした。マーケットがあり、郵便局があり、お土産屋があり、ちょっとしたのみ屋があり、同じ人と何度もすれ違うところでした。
観光地化されていないこの小さな離島にあるのは、なんの飾り気もないありままの白い砂浜と海でした。それはなにかを見つめ直す時間であり、振り返る時間であり、立ち止まる時間でした。今の筆者に残されているものはなんなのかを確かめ、失ったものが筆者にとって大きかったことを実感する時間が必要でした。
この物語の主人公は「目」と「手」のしぐさで演技できるように、目と手を少し大きめに作りました。チャップリンのドタバタの劇中に見られる優しい目やちょっとしたしぐさを作品にできないかとも考えていました。浄瑠璃や能のように少ない動きで感情を表現できないかと考えていました。
スケジュール管理をしっかりやらないと期日通りに完成できないことはすでに経験していることなので、毎日決めたことを黙々とやりました。5月までに物語の骨格を決め、6月には絵コンテを仕上げ、7月から実制作に入り、10月までには人形、セットそのほかの小物をすべて作り上げ、12月後半に大学での作品講評会まで撮影できるとこまで撮影する。撮影していったものは同時に少しずつ編集していく。この時期には音楽も完成させ、年明け一月中に作品完成、その後大学に提出する。
筆者はこの作品で「過ぎ去った時間は、完全になくなってしまうわけではない。完全になくなってしまうと考えるほうが不自然だ」と実感し、記憶やにおいや気配は筆者の中に染み込み、そして流れ始める。それ自体が生きていることの本質であると理解しました。
1998年から2008年にいたるまで
2008年はアニメーション制作を始めて11年目になります。学生時代に作品を8本制作し、現在にいたるまで、2Dアニメーションを含めると100本近い作品を制作してきました。
長い作品でも20分ほど、短いので30秒ほどのものがあります。ほとんどは自主作品です。自主作品ばかり作っていると当然のようにお金はどんどんなくなります。収入がなければ作品を作れないので、どうしようかとあれこれ考えました。
作った作品をDVD化して販売してみました。ギャラリーや美術館で個展があるときはガチャガチャや古いテーブルゲーム機を持っていき、1回100円でみなさんに楽しんでもらえるように工夫してみました。それからポストカードを作ったりもしました。これは一枚100円で購入できます。
それで得たお金を作品制作にまわしていけばいいのではないかと実行したのは良いのですが、ほとんど収入になりませんでした。DVDは在庫を抱えるばかりだし、ガチャガチャも景品を制作するだけでずいぶんお金を使ってしまいました。ポストカードは原価はそんなにかからないけど、やはり制作費を賄えるだけの収入にはほど遠いということがわかりました。つまり、自分で作品を作っても食べていけるほど稼げるはずもなく、おおかた日々収入のない生活を送っているということになります。
話は変わりますが、筆者は荒川区生まれです。荒川区で育ち、荒川区内で作品制作をしてます。物価が安いとか家賃が安いとかは多少あるかもしれませんが、基本的にはこの町が好きだ、ということが一番の理由です。
隣接している区には文京区と台東区、北区と足立区があるということも気に入るところです。荒川区は荒川遊園地があります。遊園地には釣り堀もあるし、ヤギやポニーもいます。おいしいご飯の食べれるところはほかと比べたらあまりないけど、それでもよく行くお店はあるし、十分満足しています。さほどの収入がないのも自分の町が好きなのも言い換えれば自分をよく表しているということです。それは作品制作も同じような気がします。
次回は、Mr.Childrenのプロデューサー小林武史さんとの出会いと、目黒区美術館学芸員の家村珠代さんとの出会いについてお話します。
なお、本稿の執筆にあたって、以下を参考にしました。
松井 みどり『アート-芸術が終わった後の"アート"』発行・朝日出版(発行年:2002)
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