作品が出会いにつながる

2008年11月14日(金)
村田 朋泰

Mr.Childrenとの出会い

 定職につかないかわりに固定収入がないのが創作者の宿命で、そのために精神的プレッシャーがのしかかります。それを少しでも解消したく、なんとかお金を稼げないか模索しているという話は前回お話した通りですが、もう一点、どうすれば作品を見てもらえる機会を増やすことができるかということがあります。

 それでとりあえず大学を出てすぐのころにいくつかの映像コンペに作品を送りました。「文化庁メディア芸術祭(http://plaza.bunka.go.jp/)」「広島アニメーションフェスティバル(http://hiroanim.org/)」「ぴあフィルムフェスティバル(http://www.pia.co.jp/pff/)」などのコンペで幸運にも賞をいただき、発表させてもらえることが何度かありました。作品を見てもらう機会が増えるということは、多くの方々と出会うきっかけになります。

 ギャラリーMoMo(http://www.gallery-momo.com/)主宰の杉田さん、Mr.Children(http://www.mrchildren.jp/)のPVを制作させてもらう機会を与えてくれた小林武史さん、目黒区美術館個展を開催するために4年がかりで準備を共にした学芸員の家村珠代さんとの出会いは、それまでの自分の考えや作品制作に大きな転機を与えてくれた方々でした。

 大学を出てすぐ、Mr.Childrenのライブツアー映像の仕事をさせてもらうことになりました。大学院修了制作展で制作した自主作品「朱(あか)の路」を関係者の方の目にとまったのがきっかけでした。小林武史さんと直接お会いすることになりました。「いつでも微笑みを」という曲にアニメーションをつけてほしいとの依頼でした。

 筆者はそれまで楽曲に合わせて作品を制作するという経験がいままで一度もありませんでした。小林武史さんという方は自身のずばぬけた感性と判断力で、どこの馬の骨ともわからない若輩者の筆者に期待と信頼を与え、制作を一任してくれました。それはとてもありがたいことでした。もっている力以上のものを発揮するつもりで制作にかかりました。ただ問題は制作期間が2週間しかないということでした。

初仕事にしてお蔵入りとなった作品

 大学のときもここまで短い制作期間は初めてでしたが、考え方によっては短いことによってむしろ作品世界に良い効果が生まれると思いました。すべてを立体アニメーションで制作することは実質的に無理なのはわかっていたので、手描きの2Dアニメーションで構成しようと考えました。

 そのように判断できたのは楽曲に恵まれていたからでした。軽快なリズムと口笛、蓄音機から流れている声、曲の世界はどこか遠い昔の懐かしい時代を思い浮かべることができました。

 筆者は曲から感じたイメージを言葉とイラストで書き出し、それらをつなぎ合わせ、物語を作りました。

 「頭に家来のひよこ3匹を乗せたにわとりの王様の口笛で、花のない大地に花を咲かせる。鉄砲で大地に咲いた花を1つずつ消してしまう3人の兵隊さんが空から降ってくる。しばらく考えた王様はやっぱり口笛を吹き、口笛の音色(音符)はゆらゆらと鉄砲に向い、鉄砲の中に入る。すると兵隊はビリビリと電流が流れたようにしびれ、それでもまた鉄砲を撃つと、弾は空に花火を打ち上げた。鉄砲は花を咲かせる道具になってしまいました。」という物語です。

 このお話は楽曲からのインスピレーションから生まれました。映像のほとんどは2Dアニメーションなのですが、やはり少しだけでも立体アニメーションを入れたいと考え「朱の路」の主人公を使うことにしました。牛車に乗っていると置いてあった蓄音機から突然映画が始まるという設定です。最終的に立体アニメーションと2Dアニメーションの融合作品となりました。

 初めてだらけの制作でしたが、関係者の方々には好評でした。ライブツアーも間近に迫ったとき、ボーカルの桜井さんが病気で倒れたというニュースが飛び込み、ツアー中止が決定しました。

立体アニメーション「朱の路」で第9回広島国際アニメーションフェティバル優秀賞を受賞するほか、Mr.Childrenの「HERO」のPVなども手がける。近年では絵画、空間芸術にも表現を展開し、2008年4月の平塚市美術館での個展「夢がしゃがんでいる」では、巨大な空間をひとつの作品世界として作り上げた。http://www.tomoyasu.net/

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