データ型とポリモーフィズム
データ型としてのクラス
一般のプログラミング言語にもCやPascalのようなデータ型を持つものと、持たないものがあるように、オブジェクト指向言語でもデータ型に対する意識はさまざまに異なっています。C++やJavaはデータ型を持つオブジェクト指向言語であり、一方、データ型を持たないオブジェクト指向言語の筆頭としてSmalltalkを挙げることができます。
以下では、クラスをデータ型として扱う言語について説明します。
図2-1は第1回(http://www.thinkit.co.jp/article/158/1/)でも例として取り上げた、時刻を表すクラスTimeOfDayです。クラス名はC++の名前の付け方の習慣に従って大文字から始めます。
クラス定義を行うと、基本的には構造体の場合と同様にTimeOfDayという型があるものとしてプログラムを記述できます。TimeOfDayを継承して定義したクラスPreciseTimeも同様です。
ところで、クラスPreciseTimeはクラスTimeOfDayに機能を追加して定義していますので、スーパークラスであるTimeOfDayで定義されているメンバとメンバ関数をすべて持っています。C++をはじめ、型を持つオブジェクト指向言語では、スーパークラスを型とする変数や仮引数には、サブクラスのインスタンスを代入しても構わないという言語仕様になっています。
図2-2のように、クラスTimeOfDayを型とする変数xに対してサブクラスPreciseTimeのインスタンスを代入するのは許されています。PreciseTimeのインスタンスは、変数xに対して適用できるメンバ関数をすべて持っているからです。逆に、サブクラスであるPreciseTimeを型とする変数yにスーパークラスであるTimeOfDayのインスタンスを代入することはできません。変数yに対してPreciseTimeだけで定義されているメンバ関数(例えばsetTimeWithSec)を適用した時、TimeOfDayのインスタンスは処理ができないからです。
仮想メソッド
クラス名で型宣言された変数、仮引数に、そのクラスではなく、サブクラスのインスタンスが代入された場合についてさらに議論します。図2-2の場合で言えば、変数xの場合です。この時、メンバ関数printを適用するとどうなるでしょうか。
C++では、起動される関数はクラスTimeOfDayで定義されたprintです。変数xが型TimeOfDayで宣言されていますので、コンパイル時に呼び出される関数が決まっているのです。一方、Javaで同様なコードを記述したとすると、クラスPreciseTimeで定義されたprintが呼び出されます。実際に変数に代入されているインスタンスのメソッドが呼び出されるのです(図2-3)。
サブクラスによっては、スーパークラスのメソッドではなく、サブクラスで上書きしたメソッドを用いなければならない場合もあります。そのような場合には、C++のように、実際に代入されているインスタンスが何であれ、呼び出されるメソッドが常に同じという方式は好ましくありません。
一方、Javaのように、実際のインスタンスに応じて実行されるメソッドを変更するという方式では上で述べた問題は起きません。しかし、プログラムの字面上から単純に推測されるメソッドとは異なるメソッドが動作する場合があることになり、それが常に好ましいとは限りません。また、メソッドを実行する前に、そのオブジェクトがどのクラスのインスタンスなのかを調べ、対応するメソッドを探して来るという処理が必要になるため、処理速度が若干低下します。
このようにスーパークラスを型として宣言している変数にサブクラスのインスタンスが代入されている状況で、サブクラスで上書きしたメソッドが呼び出される場合、そのメソッドは仮想メソッドと呼ばれます。Javaは特に指定をしない限り、メソッドは仮想メソッドになります。逆にC++の場合は指定をした場合に限って仮想メソッドにすることができます。C++ではこれを仮想関数と呼び、関数定義にvirtualという予約語を付けて指定します。
仮想メソッドとそうではないメソッドが混在できる言語仕様では、どちらの動作が適切なのかを慎重に検討しなければなりません。一方、メソッドはすべて仮想メソッドであるというSmalltalkやObjective-Cなどの言語も存在します。