Open Source Leadership Summit開催 OSS運営に関する多数のセッションが開かれる
サンフランシスコからクルマで約45分、太平洋に面したゴルフコースを持つ高級ホテル、リッツカールトンで開催されたOpen Source Leadership Summitの2日目は前日と打って変わって、複数のトラックが進行するカンファレンス形式となった。この記事ではMicrosoftのJose Miguel Parrella氏による「Future of Open Source Sustainability, as seen Elsewhere」、Red HatのCommunity DevelopmentのDirectorであるDiane Mueller氏による「Convergence of communities:OKD = f(Kubernetes++)」、VMwareのJonas Rosland氏による「Managing an Open Source Project:The Non-code work」そして最後にLyftのMatt Klein氏による「Envoy: An End User Driven Open Source Success Story」と題されたセッションをまとめて紹介する。
このセッションのタイトルからも想像できるようにMicrosoft、Red Hat、VMware、そしてCNCFのプロジェクトとしても非常に注目されている軽量Proxy、Envoyに関するセッションであるにも関わらず、テクニカルな内容ではなく「いかにオープンソースプロジェクトの運営を成功させるか?」という点に集中したセッションが多かった。この点が、テクノロジーよりもエコシステムやコミュニティにフォーカスしているこの招待制のカンファレンスの際立った特徴と言えるものだろう。
Microsoftによる「Future of Open Source Sustainability, as seen Elsewhere」
では最初にMicrosoftのJose Miguel Parrella氏のセッションを紹介しよう。これはMicrosoftから見たオープンソースプロジェクトが持続していくための問題点などを紹介するものだ。ここで紹介された問題点は、Microsoftが2018年に買収を完了したGitHubが持っているデータから抽出されたものだ。
このセッションで説明されたポイントは「収入の不均等」「フリーローダー問題」「パテントのリスク」などであった。
問題提起として「収入の不均等」を挙げたParrella氏は、同じように「Foundationを組成することがオープンソースソフトウェアにとって重要になる」こと、Foundationを作ることとは相反するが「競争がより良いオープンソースソフトウェアには必要」なこと、「持続するためにはCode of Conduct(行動規範)が重要」であることなどが、調査の中で浮かび上がったことを紹介した。これはGitHubのState of Octoverseだけではなく、自身のツイッターで集めた情報などもソースとなっているという。ここでも、Linux Foundation行った複数のFoundation創設を支持するようなデータが出ていることに注目するべきだろう。
「Foundationを作ることと相反するが、同時に競争も必要である」ということは一見矛盾しているように見える。しかし、CNCFがホストしているプロジェクトでも同じ領域をカバーする複数のソフトウェアが存在することや、Continuous Delivery Foundationのように複数のCI/CDプロジェクトが共存するFoundationが存在することなどを考えれば、「協力しながらも競争する」という進め方が可能であることがわかる。また行動規範は、昨今のオープンソースプロジェクトやイベントでは必ず掲げられているものであり、すでに常識の範疇かもしれない。
参考までに、CNCFのCode of Conductの日本語版を紹介するので、興味のある方は参照してみてほしい。
最後に挙げられた提案には、組織の中にCustomer Advisory Boardを持つこと、ダイバーシティとインクルージョン(多様性と包括性)を持つこと、コミュニティ/組織が持続する姿をリーダーが具体的に提示できるかを問うこと、などが含まれている。この辺りの提案が具体的なのは、Parrella氏の経験が活きているということだろう。
なおリサーチのデータソースとなったOctoverseは、以下のリンクから参照できる。
Red Hatによる「Convergence of communities:OKD = f(Kubernetes++)」
次にRed Hatが推進するコンテナプラットフォームであるOpenShiftのコミュニティ版であるOKDについて語られたセッションを紹介する。スピーカーはRed HatのCommunity DevelopmentのDirectorであるDiane Mueller氏である。
これはRed HatとBitergiaが共同で行ったOpenShiftに関する調査結果を紹介するセッションで、前半はOpenShift OriginだったOKDの紹介となった。OKDの実体はOpenShiftのUpstream版、つまりOpenShiftがエンタープライズレベルのサポートを行うRed Hatの保証付きのオープンソースソフトウェアであるのに対して、最初に修正や機能追加を行う最も実験的でコミュニティがリードするプロジェクトという位置づけとなる。
昨年のKubeCon NAと併催されたOpenShift Commons Gatheringでは、OKDの命名について「これはOK, Dianeの略よ」とジョークを飛ばしていたDiane Mueller氏だったが、今回はオープンソースソフトウェアが成功するために必要なコミュニティについて解説する内容となった。
ここからBitergiaのIzquierdo氏が引き継ぎ、OpenShiftの開発に関するリサーチの結果を紹介した。
このツールはBitergiaやLibresoftなどが開発したもので、2017年にLinux FoundationのCHAOSSプロジェクトとして採用されている。CHAOSSとは「Community Health Analytics Open Source Software」の略で、オープンソースソフトウェアのコミュニティ活動が健全に行われているかどうかを分析するツールとなる。
詳細は以下のリンクを参照されたい。
コミュニティの活動はドットとラインによって接続されたチャートで表現される。
いくつかの例を挙げて、一人のコントリビュータが複数のオープンソースソフトウェアに関わっているようすが可視化される。次の例では航空券の予約システムなどを開発しているAmadeus社に所属するコントリビュータが、どのようなプロジェクトに関わっているのかが見てとれる。
結論として「一つのプロジェクトだけに関わっている企業はない」「Upstreamとのコーディネーションが重要」「匿名性はもはや意味がない」などが説明された。最後には「このデータから予測的な分析を行うことも可能であり、その時はWatsonを使うかも?」という説明がされたが、最後のWatsonの部分は多分にジョークだったように思える。OpenShiftの開発が大多数をRed Hatのコントリビュータに頼っているという事実はあるものの、多様性が重要であることは十分に承知しているRed Hatを注視したい。