Open Infrastructure Summitで日本人コントリビュータ座談会を実施。今回のカンファレンスの見どころは?
OpenStack Foudationが主催するOpen Infrastructure Summit(昨年まではOpenStack Summit)が、デンバーで開催された。約2000人の参加者を集めたカンファレンスは、OpenStackを中心としたインフラストラクチャーに関連するセッションが多数開催された。
今回はカンファレンスとその直後に行われたPTG(Project Team Gathering)にも参加するエンジニアを含む5名のコントリビューターに、デンバーの現地で集まっていただき、座談会を開催した。開催したのは2日目の夕刻なので、会期の全てが終わったあとではなく中間での総括ということになる。
参加者はNTTの露崎氏、水野氏、SUSEの井川氏、NECの元木氏、そしてNEC ECTの大道氏だ。前回行った座談会は2015年なので4年ぶり、NECアメリカ(現所属はNEC ECT)の大道氏にオースチンで話を聴いたのが2016年なので、こちらも3年ぶりということになる。なお井川氏も当時はNECの所属で、NECでOpenStackの活動をリードしていた鳥居氏も今はDellEMCに移っている。
2015年の座談会のレポート:OpenStackコミッター座談会~「OpenStack Summit Tokyo 2015に向けて」
2016年にオースチンでのインタビュー記事:OpenStackのPTLに聞いたOpenStackコミュニティの面白さ、難しさ
なお座談会はホテルの一室で行われ、写真撮影を行っていないため、文中に挿入する写真についてはOpen Infrastructure Summitの展示ブースの写真を使用した。会期中の雰囲気を感じ取っていただければと思う。
OpenStackのコントリビューターの皆さんに対するインタビューは東京でも何度かやっていますが、今回はその続編ということで。今回、参加して頂いた皆さんの簡単な担当を書きますと、露崎さんがSwift、水野さんはオペレータが集まるコミュニティであるOpsMeetup、井川さんがDevStackやTempestを含むQA、元木さんがNuetronから始まって今はHorizonのAPIとCLI、そして大道さんがNovaとQA、それに最近はKubernetesのコントリビューターとしても活躍しているということですね。では最初の話題として初日のキーノートについて感想を聞かせてください。
水野:今回はOpenStack Summitという名前からOpen Infrastructure Summitに変わった最初のカンファレンスだったわけですが、変わったということについての全体の方向性みたいなものはあまり強く出てなかったのかなという印象ですね。オープンコラボレーションとかのメッセージは出ていたとは思いますが。つまりOpenStackの外に位置するオープンソースのプロジェクトと上手くやっていこうという感じの意味だと思います。
大道:その意味では、今回はIronicが強く前に出されていたかなと。つまりベアメタルの上はOpenStackでもKubernetesでも何でも良いよ、みたいな感じなのかなと思いました。
水野:前回のサミットぐらいから、バラ売りというかOpenStack全体ではなくて個別のプロジェクトでも使っていこうという感じの雰囲気は出してましたよね。今回はデモとして、IronicからKubernetesを操作するデモもやっていましたし。
元木:ちょっと前のサミットではOpenStackのプロジェクトとしてこういう構成になっています、のようなスライドが有ったと思いますけど、今回はそれすらありませんでしたね。
CNCFでいうところのロードマップみたいなものがないと。
水野:口頭では「30以上のプロジェクトが~」ということは言ってましたけどね。
露崎:OpenStackそのものを強く出さないで、Kata ContainersとかZuulを出していた辺りにそれは感じましたね。
そう言う意味では「OpenStack Summit」ではなくて「Open Infrastructure Summit」に変わったというメッセージは伝わったのかもしれませんね。特に新しく参加した人には。
井川:キーノートの話とは少しずれますが。今回、QAのチームにオンボーディングするセッションを担当したんですけど、直前のセッションでは人がいっぱいいたのにQAのオンボーディングセッションになるとどんどん人がいなくなって「あぁ、やっぱりまだQAとかは一級市民になれないんだな」と感じましたね。
水野:OpsMeetupも同じ悩みを抱えていまして、OpenStackを使っているオペレータ、つまり通信業者の人にもっと参加してもらいたいのですが、なかなか集まれない。いろいろ試行錯誤はしていて、サミットと同時にやるのではなくミッドターム、つまり中間の時期に別の都市でやるというのをやったり、サミットと同時にやったりと。サミットと一緒にやると、今度はPTGとスケジュールが重複してしまうという。
大道:人が少ないというのは私も感じていました。例えばOctaviaというロードバランサーのプロジェクトのオンボーディングセッションは、プレゼンテーターが3人なのに参加者が2人という状況でした。Octaviaは、Kubernetesから使う際のロードバランサーの選択肢の一つとして有力なのに、あまり注目されていないんですよ。
そもそもほとんど露出してないですよね、Octavia。もっと記事書いたほうが良いのかな? 他に注目のセッションというかプロジェクトはありましたか?
水野:これはまだ正式には公開されておらず、まだOpenStack Foundationというかコミュニティの中で議論をしている段階のErisというプロジェクトがありました。OpenStackをテストする際に、より破壊的なテスト(Disruptive Test)を実装するプロジェクトを始めようとしています。
破壊的というとカオスエンジニアリング的なものですか?
水野:そうですね。もともとはMasakariというOpenStackのHAを実現するプロジェクトを開発する際に、異常系のテストを作らないとHA機能の実証ができないので、それを社内で作っていたわけです。それを応用していわゆる、カオスエンジニアリングみたいなことができないかなと。
それってCNCFにもカオスエンジニアリングSIGがあって実装を検討をしていると思いますが……。
水野:実はCNCFとも話をし始めています。Erisはフレームワークという形にして、色々なテストをプラグインとして追加できるように設計をしていまして、だいたい方向が決まってそろそろ実装を始めようかなと言う段階です。あとOPNFVも同じことをやろうとしていますので、その辺ともうまく協調したいと思っています。
もともとOpenStackのテスト環境ってクラウドプロバイダーが環境を貸してくれるんですが、仮想マシンのレベルでしか操作ができないんですね。ベアメタルサーバーに触るレベルには行かないので、HAを検証するためにはそのレベルで操作するテスト環境が必須だったんです。そういう意味でRed Hatなどもやりたいと言ってくれています。
それは期待できますね。その発表があればキーノートはもっと盛り上がったのに。
元木:まだコードがないので、ちょっと早いんですよ、動くものがあれば、キーノートなどで話をすることもできたと思うんですけど。
井川:AT&TがコミットしているAirshipについてはSUSEもコミットをしたようなので、これからは社内でも何か始まるのかなとは思ってます。Red Hatの姿が全然見えないので。
そこが重要ですね(笑)
露崎:カオスエンジニアリングとはちょっと違いますけど、前にZuulのエンジニアがエラーのログを分析して、こういうパスを通ってこういうエラーで出たら原因はココにある、みたいなのを実際のデータを教師データにして機械学習できないかみたいな議論をしていたことはありましたね。
Erisでエラーログを機械学習して、みたいな発想はあるんですか?
水野:いや、まだそこまでは行ってないですね。これからは出てくるかもしれませんが。DataDogは確か機械学習でログを処理していたと思いますけど、彼らの商用サービスですからね。
元木:OpenStackのCIのログも機械学習でやろうみたいな話は定期的に出てくるんですけど、じゃあ、どこに置いて誰がどういうモデルでやるのか? については話がなかなか進みません。Zuulになってエラーのポイントが取りやすくなったので、やれるとは思うんですけどね。
インフラストラクチャーエンジニアと話をしていると良く「それは機械学習で~」とか話だけはよく出てくるんですよね。だからホントに高校生がセックスの話をしているっていうのに似ているなぁと。つまり「誰もがやりたいと思ってて、誰もが興味津々なんだけど、実は誰もやっていない」っていう(笑)。
一同(笑)
まだ2日目とは言いながらも、カンファレンスに参加したエンジニアとして色々な見方、感じ方があることを理解できる座談会となった。この座談会で情報を共有することができて良かったという意見もいただけたので、今後開かれるKubeConなどについても同様の企画を実施したいと思う。
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