中国人のためのイベント、Open Infrastructure Summit上海開催
初めての中国本土での開催
2019年11月4日から6日の3日間、Open Infrastructure Summitが上海で開催された。OpenStack Foundationが主催するカンファレンスとして過去に香港で行われたことはあるが、中国本土で開催されるのはこれが初めてのことだ。コンテンツとしてインフラストラクチャーのOpenStackが主体であることは変わりがないが、OpenStack Foundationが傘下に収めるコンテナランタイムのKata Containerや、IoTのエッジ向けソリューション、CI/CDなど、多くのプロジェクトのアップデートやトレーニングなどが行われた。
今回は、その中から初日の午前中に行われたキーノートセッションの様子をレポートしたい。
中国の標準化組織の重鎮が登壇
登壇したコリアー氏はスポンサーへの感謝を述べた後に、中国の標準化組織であるChina Communications Standards Association(CCSA)のプレジデントであるGuohua Xi氏を紹介し、ここから中国語でのプレゼンテーションが始まった。
Xi氏は中国におけるオープンソースソフトウェアに関する状況などを解説し、最後のスライドで中国国内で開発されているオープンソースソフトウェアとグローバルなオープンソースソフトウェアが協調することで、さらなる発展が実現できると主張した。このスライドには、OpenStack Foundation、Linux Foundation、Apache Software Foundationなどが挙げられていたが、クラウドネイティブなシステムを推進するCNCFが抜けていたのは、単なるミスだと思いたい。
APACでの持続的な成長を見込む
その後にOpenStack Foundationのジョナサン・ブライス氏が登壇し、ここからOpenStack Foundationの最新情報をアップデートする流れとなった。
まず世界各地でOpen Infrastructure Summitやローカルなイベントが開催されていることを紹介した後に、OpenStackの市場がアジアパシフィック地域において2023年までに36%成長するというリサーチを紹介。また全世界規模で見ても77億USドル(約8400億円)になるという数値を示し、市場が健全に成長していることを強調した。
またOpenStack Foundationに、新たなゴールドメンバーとして中国のTroila Technologyが加わったことを紹介し、中国においてOpenStackのエコシステムが拡大していることを強調した。
ブライス氏のプレゼンテーションは、OpenStackの成長のポイントとして、オープンソースソフトウェアが企業だけではなくすべての人が参加できること、オープンであることでアクセスが容易になりその結果として技術革新が加速されること、そしてオープンソースソフトウェアは企業主導ではなくコミュニティによって拡大することなどを挙げて解説し、中国の参加者に向けて基本的なことを再確認した形となった。
CERNにおけるOpenStackの状況
次の登壇者はCERNのZhongliang Ren氏、そしてTim Bell氏だ。リサーチャーであるRen氏はCERNの概要を、IT部門のリーダーであるBell氏はCERNで稼働しているプライベートクラウドの概要を解説した。特にBell氏のプレゼンテーションでは、OpenStackの中で実際に使われているプロジェクトの一覧、さらにオンプレミスとGoogle Cloud上の双方で稼働するKubernetesの概要を紹介し、OpenStackと同時にKubernetesも大きな規模で稼働していることを紹介した。
Tencent Cloud
その次に登壇したのは中国国内の3大パブリッククラウドベンダーのひとつとして知られるTencent CloudのVPであるJeremy Wu氏だ。Wu氏の講演内容はTencentが使うオープンソースソフトウェアの概要を解説するタイトルだったが、中身はTencent Cloudの概要、特に人工知能に関する実績を語るもので、オープンソースソフトウェアという文脈からはほど遠いものとなった。
基本的に中国企業のプレゼンテーションは、自社のサービスの解説が主な内容で、オープンソースソフトウェアがどのように使われているのか? に関してはあまり踏み込んだ説明を行わないという傾向にあるようだ。
中国キャリアによるOpenStackのユースケース
続いて再度マーク・コリアー氏が登壇し、OpenStackの最新リリースとなるTrainの概要を簡単に説明した後、OpenStackのビッグユーザーであるChina Mobile、China Telecom、China Unicomのエンジニアが登壇。ここからまとめて3社のユースケースを紹介した。
登壇したChina Mobile、China Telecom、China Unicomのエンジニアは、それぞれ社内でのOpenStackの利用状況を説明した。
3社ともOpenStack、Kubernetes、StarlingXなどの名前がちりばめられたスライドを使っての説明となったが、若干、誇大広告気味であったことは否めないだろう。
ユーザー企業が語るプロジェクトアップデート
そしてここからは、OpenStack以外のプロジェクトのアップデートをユーザー企業に語らせるというフォーマットのプレゼンテーションとなった。SK TelecomがAirshipを、BaiduがKata Containerを、そしてChina UnionPayがStarlingXのアップデートを交代で解説した。
そしてCI/CDのZuulについては、なぜかBMWのユースケースを使って解説を行った。
OpenStackにも「Intel入ってる」
ここまで、OpenStackとその他の主要なプロジェクトの解説とユースケースを駆け足で紹介してきた。その後IntelのShane Wang氏が登壇し、Trainリリースの中でIntelのテクノロジーがどのくらい使われているのか? というIntelのテクノロジーのショーケース的なプレゼンテーションを行い、再度StarlingX、Kata ContainerにおけるIntelの技術と貢献の内容などの解説を行った。
最後にファーウェイのCloud Open Source EcosystemのGeneral ManagerであるJiang Xiaoli氏が登壇し、ファーウェイの戦略などについて解説を行った。
ここまでで主なプレゼンテーションは終了し、その後、恒例のSuper User Awardの発表が行われ、今年はBaiduが受賞した。
まとめ
全体を通して中国、韓国のユーザーを登壇させてユースケースとプロジェクトのアップデートを同時に行わせるという斬新なフォーマットになった。中国の著名な企業が、OpenStack Foundationのプロジェクトを支援していることが鮮明になったとも言えるだろう。最初のCCSAからChina Mobile、China Telecom、UnionPay、SK Telecom、Baiduまでを初日のキーノートに登壇させることで、官庁から大企業まで多くの中国の組織や企業、韓国企業が(実態はさておき)OpenStack Foundationのプロジェクトを支持していることは十分に伝わったのではないだろうか。
最後のSuper User AwardもBaiduが受賞したことで、中国本土での最初のOpen Infrastructure Summitとしてはうまく格好が付いたと言える。ただ日本からの参加者にしてみれば、まだ始まったばかりのプロジェクトで5GやIoTのエッジのユースケースが出てくるのは、少し割り引いて評価するべきと言うコメントがあったように、盛り過ぎと言われても仕方ないのではないだろうか。
その後のメディア向けのQ&Aセッションで「中国のデベロッパーがアメリカに次いで多いということだが、中国のデベロッパーの特徴はあるか?」という筆者の質問には「中国のユースケースは他の国と比べて規模が大きい」ということをジョナサン・ブライス氏が答えており、ここでも規模の大きさを強調する形となった。
ほぼすべてのプレゼンテーションが中国語で行われ、スライドでも英語は2番目の言語という設定だったことで「中国人による中国人のためのカンファレンス」ということが強く意識されたキーノートとなった。
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