Open Infrastructure Summit:CanonicalのCEOが語る同社のビジネスとOpenStack
OpenStack Foundationが主催するOpen Infrastructure SummitではIntelやRed Hat、Cisco、IBMなどの日本でも著名なベンダーがスポンサーとして名を連ねていた。そしてそれらと並んで、LinuxディストリビューションUbuntuのブランディングで日本でも知られているCanonicalが、トップのスポンサーとして復活していた。バンクーバーのサミットでもスポンサーとして名前が挙がっていたことからも、CanonicalにおけるOpenStackの重要性が分かるといえよう。
2年ほど前に、Canonicalは大きなリストラクチャリングを行って全世界的な解雇などを経ていることを知っているからだが、カンファレンスへのスポンサーシップという大きなコストが必要なマーケティング活動も再開できるほどに、Canonicalという未公開企業が立ち直ってきたというサインと見ていいだろう。他のインタビューでも株式公開について前向きなコメントをしているところを見ると、ビジネス全体が上向いているということが分かる。
またShuttleworth氏はキーノートの中で、OpenStack FoundationがKata ContainersやZuul、Airshipなどに他のオープンソースプロジェクトを取り込んで多様化していることに若干の懸念を見せた形になったが、それもCanonical自体のOpenStackに関するビジネスが上向きであることが背景となるのだろう。
そんなMark Shuttleworth氏にデンバーの現地でインタビュー行った。
オースチン以来のインタビューですね。ビジネスはいかがですか?
非常に順調だ。Ubuntuはこれまで以上にOpenStackのOSとして使われているし、我々のOpenStackビジネスも伸びている。全体的な流行やハイプ(誇大広告)としてはOpenStackの勢いが失われているように見えるだろうが、実際には確実に拡がっていると言えるね。
オースチンでのインタビュー記事:Canonicalのマーク・シャトルワース、ビッグソフトウェアの必要性を語る
あの時はOpenStackが最も流行っていた時でしょうが、あれから状況は変わりました。仮想マシンではなくコンテナをベースにしたクラウドネイティブなワークロードが注目され、その結果としてKubernetesがデファクトスタンダードとなりました。OpenStack自体よりも、Kubernetesのエコシステムが拡大しているように見えます。
それはそうだが、実際に多くの企業が、仮想マシンベースのクラウドプラットフォームであるOpenStackを求めていることには変わりはないと思うよ。Kubernetesは確かにある種類の問題を解決するものだが、それ以外にも多くのアプリケーションがOpenStackで実行されている。だからどちらかを選択するのではなく、最適なプラットフォームを選ぶということだと思うね。
今回、発表したUbuntu Advantage for Infrastructureについて教えてください。
これはエンタープライズ向けのインフラストラクチャーを企業が選択する際に、もっともシンプルに選択・運用することを可能にするサポートサービスだ。これまでは「OSはRed Hat、モニタリングは他のオープンソースソフトウェア……」というように、ユーザー側がマニュアルでソフトウェアのアップデートや脆弱性の更新などをやらなければならなかった。それをひとまとめにして、Canonicalが面倒をみるというものだ。有償のサブスクリプションサービスで3つのレベルを用意しているので、ニーズやその組織の状況に合わせて選択できる。
サポートサービスを取りまとめてということですが、中に含まれるソフトウェアはどのように選択したのですか?
ソフトウェアについては、常に顧客が必要とするものを選択している。だからこれからもUbuntu Advantage for Infrastructureの中のソフトウェアセレクションは拡大することになると思う。このプログラムの目的は、顧客が余計な心配をしなくていいようにすることだから。そして英語だけではなく多言語、グローバルのサービスとして提供する予定だ。日本でもNTTテクノクロスという信頼できるパートナーがいるので、日本のユーザー企業にも期待してもらいたいね。
OpenStack以外にMarkさんが注目しているプロジェクトはありますか?
IoTやロボティクスについては常に興味を抱いているよ。なぜかといえばUbuntuが多く使われている領域だからということもあるが、そこに適したソリューションをCanonicalが持っているからだ。
これまでIoTの領域では、例えば工場向けのデバイスでもプロジェクターでもスマートスピーカーでも、いわゆるIoTデバイスというモノの中に入れるソフトウェアはサイズを小さくすることだけに熱心だった。しかし実際には、従来のサーバーやデスクトップと同様に複雑な依存関係に陥っていたわけだ。つまりOS、ミドルウェア、ライブラリー、そしてその上で実行されるアプリケーション、それらが依存しながら実行されていた。そしてそれらを管理しようとすると、大きな工数が必要になっていた。つまりOSの更新や脆弱性への対応などを考えてくれればわかると思うが、IoTデバイスでそれを個別にやろうとすれば、莫大な工数がかかるのは理解できるよね。
それを解決するのが、Snapというパッケージシステムだ。これを使えばIoTデバイスがどんなOSで動いていようが、完全に独立したアプリケーションを実行できる。例えば、Spotifyのアプリケーションを入れようとすればそれをSnapでパッケージすればそのまま導入できるし、更新も簡単になる。IoTについてはその部分を改善することが重要だと思うね。
例えばNVIDIAはサーバーでGPUを満載して大量の機械学習をやらせるソリューションと同時に、Jetson Nanoのような同じアーキテクチャーで自動運転のユースケースで利用できるようなプロダクトを作っています。Canonicalも同じようにUbuntuとSnapを使おうという発想でしょうか?
NVIDIAはサーバーからJetson Nanoのようなハードウェアを用いる機会学習から推論までカバーしているが、Canonicalはそういうフレームワークなどの領域をやろうとは思っていない。それよりもハウスキーピングの仕事に徹している、と思ってくれたほうが適切かな。つまり機械学習や推論はアプリケーションの仕事だが、それを簡単、シンプルにすることに注力するという意味だ。ハウスキーピングはセクシーな仕事ではないが、誰かがやらなきゃいけない。それをシンプルに実現することがUbuntuの役割だね。
最後の質問ですが、Ubuntuの競合は?
VMwareとRed Hat。それは以前から変わらない。
Shuttleworth氏への3年前のインタビューでは、南アフリカがラグビーワールドカップで日本に敗退した直後だけあってその話題で盛り上がった。「今でもそれは覚えているし、今年のワールドカップには日本で試合を観る予定だ」と日本に対してはとても親近感を抱いているという南アフリカ出身のMark Shuttleworth氏だった。一旦はリセットした感じの日本でのビジネスだったが、今後の先行きに注目したい。
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