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OpenStack Vancouver Summit報告~開催の概要とメインキーノート

2018年6月21日(木)
水野 伸太郎

サミット全体の印象

 2018年最初のOpenStackサミットは3年ぶり、2度目のバンクーバーで開催されました。5月21日から24日までの4日間、200以上のセッションと盛りだくさんの内容でした。

 バンクーバーサミットの会場は景色も気候も良く、バルコニーに出て議論したりもできるなど、これまでで参加者からの評判が良かったことで2度目の開催となったようです。

最高の会場

 参加者はさすがに前回と同等というわけにはいかず、公式な参加者数の発表はなかったものの、規模的には前回の半分ほどになっていた感触です。OpenStack Foundationのメンバーに聞いたところでは規模の縮小は想定されていることで、OpenStack自体の成熟に伴い、「OpenStackって何?」という単に知りたい参加者から、OpenStack自体は知っていてどう活用しようとしているか、今ある課題をどうやって解決するかなど、具体的な課題意識を持った参加者に変わってきていることの証と受け取っている印象があります。全体参加者は減ったと思われるものの、セッション自体は盛況で、人気のトピックでは聴講希望者が入りきれない部屋もあるほどで、参加者の熱はまだまだ冷めやらない印象でした。

 今回のサミットでは、トピックごとに部屋やエリアがある程度固定されていて、特定の興味のある分野を集中して聴講できるようになっているようでした。特にコンテナやEdgeコンピューティングは多くの参加者を集めているものが多かった印象です。

 また、これまでサミットとは別に実施していた「OpenDev」という会議があります。OpenStack Foundationが特定のトピックに絞って集中的に議論するために立ち上げたもので、今回はサミットに併設し、CI/CDをテーマに集中的に(フロアも分けて)議論できるようにしていました。

OpenDevは別フロアで同時開催

 このように、今回のサミットは特定のトピックや分野にフォーカスしたトラックがこれまで以上に多くなりました。サミットの会議体としての意義が、新規機能の紹介から実運用・応用に関する情報共有の場へと変わってきていると強く感じられました。

 開発者と運用者/利用者が課題について一つの部屋で議論する「Forum」と呼ばれるセッションも最大4部屋で並列に行われるなど、多岐に渡った具体的な議論が行われています。

 Forumは議論するための会議体であり、発表はありません。テーマに沿って議論をしながら、etherpadという共同でテキスト編集できるサービスを活用してメモを取っていく形式となっています。ここでもトピックによっては40~50名が参加して熱い議論を交わしていました。

Forum会議の様子

キーノート

 初日の午前中はキーノートです。これまでキーノートは初日と2日目の午前中に行われることが多かったのですが、今回のサミットでは全体のキーノートは初日だけとなっています。日程が4日間と短いということもあるのですが、今回は全体のキーノートの他に、トピックごとのキーノートを2日目以降に行うという新しい試みが行われ、OpenDev(CI/CD)、コンテナ、エッジコンピューティングの3つのトピックでそれぞれのキーノートが実施されました。

 本報告では、初日の全体キーノートについて記載します。

 今回のキーノートの感想を一言で言うと、「OpenStackそのものの話がほとんど出てこない!」でした。OpenStackネタでめぼしい発表は、NovaのvGPU対応くらいでした。

 vGPUは、これまでのパススルーだけから、複数のVMでGPUを共有できるようになる機能です。これにより、GPU機能をさらに効率的に活用できるようになりますが、具体的なユースケースなどは特に示されませんでした。

 キーノートで筆者が注目したキーワードは、「Open Infrastructure」「OpenStack以外のプロジェクト(Zuul, Kata コンテナ)」「エッジコンピューティング」「OpenLab」です。

Open Infrastructure

 OpenStackは成熟期を迎えており、OpenStackそのものの開発よりは、OpenStackを何と組み合わせてどのように使っていくか、という方向にコミュニティメンバーやユーザの興味が変わってきました。Foundationも同様の考えのもと、オープンなクラウド基盤へとスコープを広げ、コンテナや自動化ツールなど他のコミュニティで提供されているオープンソースソフトウェアとの連携を強調していました。キーノートでOpenStackそのものがあまりフィーチャーされていないのは、このような考え方が背景にあるのだと思います。

 サミット入り口の看板も「Open Infrastructure」を全面に押し出した形になっていました。

OpenInfrastructureがキーワード

Zuul

 OpenStack FoundationはOpenStack以外のプロジェクトをホストしていきたいという方向性を示しており、第1弾としてシドニーサミット前にKataコンテナが発表されました。今回の第2弾がZuulです。

 ZuulはCI/CDのためのワークフローを実行するためのツールで、もともとOpenStackの開発環境で利用されていたものなので、OpenStackの開発者にとっては馴染み深いツールです。

 開発者がパッチを提供するとテストを走らせ、結果に応じてマージさせるという処理を行います。開発者がうっかり変なパッチを作ってマージされ、全体が壊れるという事態を避けられるようになります。このような処理は「gating」と呼ばれており、まさに関門を通らないとどんなパッチもマージされない、CI/CDのgatekeeperの役割を果たします(映画「ゴーストバスターズ」に出てくるgatekeeperの名前がZuulでしたね)。これまでもオープンソースのツールとして単独で利用できたものですが、今回そこから独立して新しいプロジェクトとして立ち上がりました。自社でCI/CD環境を構築するような場合に有益なツールとなります。

Kataコンテナ

 Kataコンテナは昨年12月に大々的に発表されていたコンテナランタイムです。VMとコンテナの良いとこ取りという謳い文句で宣伝されており、コンテナ間の分離強化を特徴とします。セキュリティを気にするエンタープライズ向けの位置付けになるかと思います。5月頭にあったKubeCon+CloudNativeCon Europe 2018でGoogleが発表したgVisorと位置付けが似ており、使い分けなどが気になるところです。実装が異なるのでユースケースごとにどちらを使うのが良いかを見極めていく必要があると思います。

 KataプロジェクトはOpenStack Foundation配下ですが、OpenStackとは異なるコミュニティの扱いです。ですからいわゆるNovaやNeutronといったOpenStackプロジェクトという扱いにはなっていません。

 今後もOpen Infrastructureという考えのもとで、これらに続く新しいプロジェクトがOpenStack Foundation傘下にホストされていくことになると思われます。

KataコンテナとZuulのロゴ入りカップケーキ

エッジコンピューティング

 エッジコンピューティングはキャリアを中心にここ数年注目を集めて来ましたが、コミュニティ内でユースケースや、「エッジの定義」について意見が分かれており、なかなか具体的な成果につながっていませんでした。そのような中でOpenStackコミュニティの考える「エッジとは何か」についてまとめたWhite Paperが今年2月に発表され、今回のサミットではこれをベースにユースケースや具体的な議論が行われました。

 また、エッジ関連でいくつかのプロジェクトの紹介がありました。Akrainoプロジェクト、Airshipプロジェクト、Starling-Xプロジェクトです。

 AkrainoはLinux Foundationのプロジェクトで、AT&Tが今年の初めに発表したものです。Akrainoはエッジ向けのソフトウェアスタックの構築を目指したプロジェクトです。一方でAirship、Starling-XはOpenStackプロジェクトを目指す開発プロジェクトです。AirshipはAT&TがOSS化した、Helmを用いてコンテナ化されたクラウド環境を構築するためのツール群で、Starling-XはIntelとWindriverがOSS化したエッジ向けの運用ツール群(及びOpenStack向けのパッチ)だそうです。いずれもAkrainoを構成する一部として用いられる予定です。

 このようにエッジ環境に関した具体的な取り組みが徐々に始まっており、5Gに向けて取り組みを進めているキャリアが議論をリードしている状態です。

OpenLab

 OpenLabはFoundationが立ち上げた取り組みのひとつで、OpenStackの品質向上や利便性向上のために以下の取り組みを行うプロジェクトです。

  1. クラウドエコシステム向けのツールの検証/組み込み
  2. Hybrid/Multi-Cloud の検証
  3. Cross Community Collaboration

 キーノートでは異なるサーバ(x86/ARM)からなる検証環境を構築し、OpenStackをハイブリッドな環境でも検証したことが発表されました。

 様々なOpenStack環境を組み合わせた検証を行うために、プロバイダから環境を提供してもらって実施しており、アプリケーションやツールの相互接続性、動作検証などが行われていく予定です。

OpenLabで行ったx86とARMの混在環境の検証

その他

 OpenStackのコミュニティによるサポートはこれまで12ヶ月で終わっていました。長期サポートの声が高まる中、開発者と運用者の間で活発な議論が行われていました。その結果、コミュニティとして、Ocataから18ヶ月サポートに変わることになりました。さらにそれ以上のサポートについてはメンテナンスする人を募り、サポートする人がいる限りはExtended Maintenanceとして利用できるようになります。サポートする人がいなくなった時点でEOLを迎えます。

延長メンテナンスの概要

 詳しいメンテナンスのステータスについては以下をご覧ください。

 次回のサミットは11月にベルリンで開催されます。来年春のサミットはデンバーで開催すると発表されました。久しぶりの米国での開催となります。

来年の春はデンバーで
日本電信電話株式会社 ソフトウェアイノベーションセンタ
2011年よりOpenStackを用いたクラウド基盤の商用化に向けた研究開発に従事。2016年度4月より日本OpenStackユーザ会会長を務める。Austin Summitでキーノートの舞台に立てたのが最高の思い出。自宅でペットは飼っていない。

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