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プロジェクトマネージャーの本来の役割とその業務

2022年4月22日(金)
須藤 福観兵(すとう ふみたけ)

はじめに

本連載では、これからプロジェクトマネージャーを目指す方向けに必要な知識や日々の業務、事例ベースの課題解決方法などを、私の経験を交えて紹介していきます。なお、本連載の内容は試験対策などの教材で学習するような体系化された知識とは異なり、どちらかと言うと感覚的な観点から書いて行こうと思います。

本題に入る前に、少し私のバックグラウンドについてお話ししましょう。私は10年以上にわたり、オフショアシステム開発を源流とする会社にて、金融系(銀行、証券、資産運用など)のシステム構築・保守に携わってきました。受注する案件はプライムもしくは二次請の案件で、担当したシステムは皆さんが日常生活で使うネットバンキングシステムから、経済専門紙などで扱われるような高度な金融情報を分析・加工するシステムまで、多種多様かつ大規模なものです。

オフショアでのシステム開発は、そのコストメリットを発揮させるため大規模なものが多くなり、私の担当する案件は100人月~1000人月程度のプロジェクトが多くを占めます(社内では同時に300人の技術者が同時稼働するプロジェクトなどもあります)。また、近年では日本国内のIT企業における技術者減少や高齢化の影響を受け、要件のヒアリングやシステムデザインから製造、デリバリーまでの一貫した対応を希望されるお客様も増加しており、日本の設計陣とオフショアの開発陣を同時にマネジメントすることが多く、負担も大きい仕事を担当しています。

PMのニーズは高まるばかり

IT業界の経験が10年超の技術者の方は、大変な思いをしたという意味でご存知かと思いますが、思い返せば2008年のリーマンショックから2011年の東日本大震災が発生し、少し落ち着くまで、IT業界は激しく不況の煽りを受けた時代でした。本来なら、今頃はプロジェクトマネージャーとして活躍している当時20代中盤~30代後半(現在の30代中盤から40代後半)の世代がIT関連業務の減少に伴って仕事を失い、失意のうちにIT業界を去る方が大量に出た時代でした。その結果、景気が回復した現在になって、IT投資を行おうとしてもIT投資対象のプロジェクトを任せられるプロジェクトマネージャーが不足し、思うような施策を打てていない企業が多数あります。

一方で、企業によっては景気回復による利益追求や流行りのDX促進などのため、名目上の利益率が上がる製販分離を行い、自社では営業に特化しシステム開発は外注する企業も増えたり、その逆に自社内製を目指し、事業会社でありながらITシステムを自社で賄う企業などITを取り巻く環境も多様化しています。つまり、プロジェクトマネージャーが活躍できるポジションは以前に比べ非常に増加しており、その存在は重宝される存在ながら、IT業界全体がプロジェクトマネージャーを担える人材や、プロジェクトマネージャーとして育成できそうな人材が渇望している状況です。

感じ続けているギャップ

ちょうど、その10年くらい前だったでしょうか。私は“これから時代を背負っていく技術者を育てたい"という思いを形にするために、無料での技術研修やマネジメント研修、ハンズオン形式の実践研修などを色々な形で提供してきました。また、自分の所属する会社でも、社内研修や中途採用活動にも関わり、その中で沢山のプロジェクトマネージャーになりたい方や、既に自分はプロジェクトマネージャーのスキルを持っている!という方々にお会いして来ました。しかし、超大手企業でプロジェクトマネジメント研修を受けている方は別として、残念ながら“プロジェクトマネジメントをお任せできそうだ"と思える方はほとんど見出せませんでした。理由は簡単で、プロジェクトマネージャーを目指す方と私との間で、プロジェクトマネージャー像に対するギャップが色々な面であり、さらにそれぞれの切り口で評価した際のギャップが激しいものだったからです。最初は私が若手に色々求めすぎなのかな? と悩んだりもしましたが、私と同じようにプロジェクトマネジメントする人材を発掘・育成したい人からも同様の悩みを伺うことが多く、これはIT業界全体の課題であり、何とか出来ないものかと思っていました。

これは、経験からの個人的な意見なのですが、特にギャップを感じたのは、これからプロジェクトマネージャーを目指そうという方の殆どがプロジェクトマネージャーが担当する仕事のほんのごく一部しか把握しておらず、その把握している一部の仕事も、実際には目的を把握せず、作業としてしか捉えていないことに原因があると思っています。私は、これからプロジェクトマネージャーを目指そうという方に必ず「プロジェクトマネージャーとはどのような役割で、あなたは現時点でどの程度その役割ができていると思いますか?」と質問するのですが、ほぼ全ての方から以下のような返答が来ますす。

  • 各メンバーにタスクを割り振る
  • 仕様や技術で課題を抱えているメンバーをフォローする
  • wbsを更新する
  • プロジェクトの状況を代表して偉い人に報告する
  • 偉い人からプロジェクトを代表して怒られる

そして、自分は実質的にプロジェクトマネージャーとして仕事ができている、と。私からすると、これらはリーダーの役割で、プロジェクトマネージャーがすべきことではありません。言い換えると、プロジェクトマネージャーはSEやリーダーの延長線に存在する役割ではないと思っています。

プロジェクトマネージャーの役割とは

それでは、プロジェクトマネージャーの仕事は何か言うと、PMBOK*に概ね情報が集約されていると考えています。ただし、PMBOKはその名の通り体系化された知識であるため、PMBOKの知識を元に自身の経験や会社の標準フローなどを参考にして、プロジェクトごとにマネジメント自体を自分で組み立てなければなりません。そこがプロジェクトマネージャーの難易度を上げる要素であり、プロジェクトマネージャーを学ぶ際に何を元に学べば良いかを分かり辛くしてしまっています。そのため、私は各所の研修でプロジェクトマネジメントについて旅行を例にお話しをしています。

*:本連載ではPMBOK6を指します。なお、PMBOK7が登場したばかりのため、筆者のザックリとした解釈を記載しておくと、多くの方は「激しく内容が変わった」と言いますが、基本的な考え方はPMBOK6とPMBOK7でそれほど変わっておらず、プロジェクト推進時、刻々と変わっていく状況に対処するため、PMBOK7ではプロジェクトマネジメントの活動内に状況の変化と変化への対応が組み込まれたようなイメージで捉えています。

泊りがけで旅行に行く場合、旅先までの交通手段、宿泊場所、観光地の知識のほか、交通機関の時刻表や旅先の地図など様々な情報を組み合わせてプランを立てると思います。旅慣れている方ならそれらの情報を組み合わせて気軽に旅行できるかも知れませんが、旅行経験が少ない方の場合、情報をかき集めるだけでもひと苦労、なんてこともあると思います。そんなときに手にするものとして、旅行ガイドブックがあります。日本全国主要な都市からのアクセスや目的地の宿泊施設の紹介、エリアごとの観光地やお店の情報、目的地の広域から詳細までの様々な地図、現地での注意事項などが上手くまとめられています。これがプロジェクトマネジメントにおけるPMBOKのイメージです。多くの方が旅行ガイドブックなどを見て旅行プランを具体化するでしょう。それと同じで、PMBOKもプロジェクトをマネジメントするにあたり必要な情報やプロセスなどが5段階のプロセス(工程)と10種類の知識領域ごとにまとめられており、プロジェクトの計画を立てたり、実際のプロジェクト推進をする際のサポートアイテムとなってくれるのです。

そして、このPMBOKの重要な部分を詳しく把握できていることを認証する仕組みがPMP制度です。PMPを持っている方はちょうど旅行ガイドブックが全て頭に入っており、適切な旅行プランを立てたり、計画通りに旅行を推進したりする旅行会社の社員の方のようなイメージです。なお、IPAが実施する情報処理試験のPMは、さらにその上を行くイメージです。旅行会社のパンフレットなどでも、ベテラン添乗員と行くツアーや、ちょっとランクの高いホテルやレストランが旅程に組み込まれたツアーだと、旅行知識だけでなくマナーやトラブル時の対処法を熟知した旅行会社の方もいらっしゃると思います。それと同じで、IPAの情報処理試験で試されるのは単なるプロジェクトマネージャーの知識だけでなく、いくつか与えられた「よくあるシチュエーション」の中から、自分だったらどのように問題や課題を解決したか、などを論文形式で論述が要求されます。逆の言い方をすれば、プロジェクトマネージャーが知っておくべき知識を元にプロジェクトマネージャーを目指すならPMBOKを参考にすれば良いし、実際の事例を多く学び、そこから自分のマネジメントを確立するのであれば、IPAの情報処理試験での論文サンプルを大量に読み込むことでプロジェクトマネージャー業務を理解できると思います。

なお、上記のプロジェクトマネージャーの業務は、PMBOKベースでもIPA情報処理試験の論文ベースでも学習の元としては良いのですが、絶対にやってはいけないポイントがあります。それは「プロジェクトマネジメントは、基本的にプロジェクトの初期段階で、可能な限り明瞭かつ丹念な準備を行い、プロジェクト進行中は準備したものを忠実に遂行し、準備した際の想定と異なる自体が発生したら、速やかに原因究明と対策を施す」という基本思想は絶対に破らないということです。この基本思想を破ると、プロジェクトはほぼ失敗します。どれほど優秀な人間でも、沢山の人が関わるプロジェクトにおいて、問題が顕在化する度に対処し、解決していくことは不可能です。そのため、プロジェクトマネジメントでは徹底的に準備とその遂行に力点を置くのです。優秀なプロジェクトマネージャーと仕事をしたことがある方なら分かるかも知れませんが、優秀なプロジェクトマネージャーがプロジェクトの初期の段階において、メンバーがそれほど忙しくないのに1人だけ深夜まで残って仕事をしていたりしませんでしたか。また、プロジェクトが佳境を迎え、大量にプログラムを生産するようになると、神経質なほど遅れや品質懸念に気を遣っていませんでしたか。それらは、正にプロジェクトマネジメントの基本思想を順守しているためなのです。

おわりに

今回は、本連載の第1回として「プロジェクトマネージャ」を取り巻く状況や、その本来の役割と業務について解説しました。もしかすると、これまでに思い描いていたプロジェクトマネージャー像とはちょっと違うな、という印象を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

次回以降では、今回の内容を踏まえ、またPMBOKやPM論文ではなかなかメインテーマとしては扱われない内容を事例・ネタベースで紹介していきます。お楽しみに!

著者
須藤 福観兵(すとう ふみたけ)
日本海隆株式会社 システム開発本部 副本部長
ITのプロ46メンバー。100〜1000人月程度の大規模システム開発にてマネジメントを担当。単純な製造以外は無理と言われていたオフショア開発を、日本に置く上流技術陣とオフショア技術陣の同時マネジメントで成功させた実績多数。

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