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  インタビュー

南三陸の高校生がLinux Essentialsに挑戦。その進捗をインタビュー

2022年8月12日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
南三陸からLinuxのスペシャリストを目指す? 震災からの復興のために志津川高等学校が行っているチャレンジを紹介する。

南三陸町は2011年に発生した東日本大震災で甚大な被害を被った地域の一つだ。そこに宮城県志津川高等学校(以下、志津川高校)がある。現在は小高い丘の上に校舎を擁し、普通科、情報ビジネス科の2つの科で約150名の学生が勉学に励んでいる。

志津川高校はLPI日本支部とアカデミックパートナープログラムを2022年3月に提携し、情報ビジネス科の生徒がLinuxの基礎的な知識を認定するLinux Essentialsを取得することを目的として、教育コースを授業として組み込む試みが始まっている。これはLPI日本支部と、東北地域に多くの顧客を抱える株式会社エー・アール・シーとの協業によって実現している。

LPI日本支部及び志津川高校、南三陸町などが行った記者会見から

LPI日本支部及び志津川高校、南三陸町などが行った記者会見から

今回はLinux Essentials試験合格に向けた学習が始まって約3ヶ月という段階で、進捗や感想などを志津川高の生徒と教員そしてトレーニングを担当している株式会社エー・アール・シーのシステムエンジニアに集まってもらい、インタビューを行った。

今回のインタビューに参加したのは、情報ビジネス科の須藤大斗(すとうやまと)さん、山内明里(やまうちあかり)さん、教員の五十嵐由希(いがらしゆき)先生そして実際のトレーニングを行っている株式会社エー・アール・シーのシステムエンジニアである村山朋広氏だ。

それでは生徒さんから簡単に自己紹介をお願いします。

須藤:情報ビジネス科3年の須藤です。コンピュータには中学の時から興味があってWindowsのPCを触ってました。将来はサーバーのエンジニアになりたいです。

そう思ったきっかけを教えてください

須藤:中学3年の頃から、これからはさまざまな仕事がロボットに置き換わっていくと多くの人から言われていて、それだったらロボットを使う側になろうということでロボットのプログラミングとかに興味が出たって感じですね。その後、プログラミングではなくてサーバーのほうに興味が移ったって感じです。

山内:情報ビジネス科3年の山内明里、17歳です。私は中学で少しだけコンピュータを触っていましたけど、ちゃんと使い始めたのは高校に上がってからですね。情報ビジネス科を選んだ理由っていうのは、ITとかよりも資格が取れるって言うのが売りだったので、それでって感じです。私には姉と兄が3人いて、私は末っ子なんですけど、介護事務をやってる上のお姉ちゃんから「今は事務の仕事が減っていてこれからはコンピュータができないと仕事がないわよ!」って言われてて。だから最低限でもコンピュータを使えなきゃと言う感じになりました。

指導をする先生としては商業高校の中で資格っていうのはやっぱり重要なんでしょうか?

五十嵐:そうですね、商業高校一般の話ですけど、全国商業高等学校協会の試験で1級を取ったら、次は国家試験のITパスポート試験を取るよねっていうのは流れとしてあると思います。今のところ、Linux Essentialsについては夏休みの終わりに認定試験が取れたら良いよねというように話しています。現在、情報ビジネス科には12名の3年生がいるんですが、結構、生徒間の成績の差が広がっています。その中でもこの二人は頑張っていますね。エー・アール・シーの村山さんにも、その差を埋めるように指導していただいているので助かってます。

実習室のようす

実習室のようす

4月からLinux Essentialsのための授業が始まっていますが、手応えはどんな感じですか?

村山:4月から始めて、実際にLinuxを触りながら基本的なコマンドを覚えてもらってるという段階です。今までは全員で一緒に進んでいこうっていう気持ちだったんですが、3年生は夏休みが終わると就活が始まる子もいるため、あまり時間がなくなってきました。またこちらが思っていた以上に、個々の進捗差が大きいこともあり、少し進んでいる生徒に合わせていかないといけないかな、と考えています。

Linuxっていうのはこれまで使ったことのあるWindowsとかとは違う別のコンピュータですけど、どんな印象ですか?

須藤:なんか新しいというか、あー、コンピュータ触ってるなーって感じです(笑)。でも難しいなと思う部分もあって、変数とかが出てきてるんですけどそれがちょっと難しいです。

山内:私、英語が得意じゃなくて。Linuxというかコンピュータって基本英語じゃないですか?だからそれもあってちょっと辛いって感じです(笑)。

これから単なるコマンドからシェルスクリプトとか若干、プログラミングに関わる部分が入ってくると思いますが、それはこれからですか?

村山:今回の3年生は3ヶ月間で試験までっていう時間的猶予もあり、じっくりとはできないかなと。なのでまずはコマンドをしっかり覚えてもらうということに専念しています。これから変数とかパラメータとか引数とか、そういう辺りのちょっと難しい部分が出てきますが、必要最低限の理解までになると思います。ただ、Linux Essentialsに合格することを目指すのであれば、ひとまずは十分だと思っています。

生徒さんは授業の他に何か自分で勉強したりしているんですか?

須藤:五十嵐先生の知り合いのエンジニアの人に教えてもらったRaspberry Piを使って、小さいサーバーとして動かしてみようかなとは思っています。

山内:私は最初に参考書をもらって授業の前に読んでみたんですが、何が書いてあるのかよくわからなかったというのが本音です。それで村山先生の授業で使ってるテキストを見ても、なんか順番が違うというか、少しずつ違っていて一緒に読んでみるとかえってよくわからなくなってしまいました(笑)。なので授業中はあまり見ないようにして村山先生の話を聞いています。

村山:時間がたっぷりあればLinuxの基礎から構造などもしっかり理解してもらったうえでコマンドを教える、使ってみるという方法を取りたいのですが、8月末に予定している試験に向けて多少、スキップしてる部分がありますね。自社の新入社員研修だと必要最低限の知識と課題だけ与えてあとは自分でなんとかしてみてねって突き放すんです。時間さえあればそれでも良いんですが、今回はその方法は適してないんですよ(笑)

そうですね(笑)

村山:後は実際に操作して覚えるっていう機会がなかなか作れなくて、そのせいでこうやるとこう動くっていうのが理解しづらいのかなとは思います。

今の時代にコンピュータとしてLinuxを学ぶというのはサーバーとしての使い方を学ぶということになると思いますが、実際にサーバーを使う機会はあるのでしょうか? コンピュータとしてはデスクトップのPC以外にサーバーを触ったことはないんですよね?

村山:サーバーは使ってないですね。学校としてのセキュリティで厳しく制限されていますので、クラウドを学内から使うというのがなかなか難しいんです。なので学内のPCにLinuxを入れて使っているというところです。最近では、普通のシステムエンジニアでもサーバールームに入ったことがあるっていう人は少なくなっているかもしれません。

須藤:僕もサーバーというのはYouTubeで見たぐらいですね。富岳見て、おー、これがスーパーコンピュータか! カッコイイ!って(笑)

過去にIT業界の女性エンジニアにインタビューした時にどうやってコンピュータにハマったか? というエピソードを伺ったんですが、自分が書いたプログラムが動いたのに感動した、それからコンピュータが好きになったという人がいました。そういう体験をして欲しいなとは思いますね。

村山:そういう体験までできるように準備したいですね。ただ日程としてはもうあと6時間の授業分しかないですが(笑)、集中してやれば合格は無理ではないと思っています。実際に弊社の高卒のエンジニアも2週間くらい集中的に勉強して合格していますから。

村山さんから凄いプレッシャーが来ましたけど、大丈夫ですか?(笑)

須藤&山内:頑張ります!

現在は情報ビジネス科の3年生だけですが、今後の予定は?

五十嵐:これからは情報ビジネス科の1年生は1年かけて学んでいく予定になってます。2年生は10月から開始ですね。今回は時間がなく、無理を承知でやってる感じですが、1年生は1年間続けて行って3月に試験に合格するようにというのがプランですね。

Zoomで行われたインタビュー。前列が生徒の須藤さんと山内さん

Zoomで行われたインタビュー。前列が生徒の須藤さんと山内さん

最後に夢を聞かせてください。

須藤:南三陸は水産業の街で、サービス業はあまり盛んではありません。なのでIT関連のサービスを立ち上げられたらいいなとは思います。

山内:なんかうまく言えないですけど、自分の能力を100%使えて生活していけたら良いなって思います。あと祖父の兄弟がシンガポールに住んでいてたまに手紙が来たりするんですけど、写真とか見るととても楽しそうだなと思うので一度、行ってみたいなとは思います。

震災で大きな被害を受けた南三陸町は町役場や体育館、病院などが新たに建造され外形的には復興しているように思える。住宅地も真新しい一戸建てが並んでいる状態だ。

今回のLPI日本支部と南三陸町の提携及び志津川高とのアカデミックパートナープログラム提携は、ハコモノへの投資ではなく人的資産への投資と言えるだろう。その中でも志津川高がIT教育に踏み込んだ今回の試みは、LPI日本支部としても日本で初めての商業高等学校とのパートナーシップとなるという。このパートナープログラムが継続され、南三陸からLinuxのエンジニアが巣立って行くのを期待したいと思う。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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