南三陸の商業高校がLinuxの認定試験に挑む。志津川高校が始めたチャレンジを定点観測
「ソフトウェアが世界を食いつくす(Software is eating the world)」と2011年に言い放ったのはマーク・アンドリーセン氏だが、その中核となっているのはオープンソースソフトウェアだ。無料で誰でもコピーして使うことができることでクラウドから自動車、さらにネットワークデバイスからスマートフォン、人工衛星、ドローンにまで応用範囲が拡がっている。またオープンソースソフトウェアは新しいアイデアを持っているエンジニアがそのアイデアを実装し、世界に公開することで多くの賛同者を募り、ソフトウェアの進化と品質向上を成し遂げ、企業で利用できるレベルに押し上げることで起業の方法となっていることも実証されている。金融機関で働いていたラトビアのエンジニアが個人で作り始めたZabbixはその良い例だろう。
また教育の場面でもオープンソースソフトウェア、特にLinuxはソフトウェアエンジニアを志望する学生にとって、将来のキャリア形成のための第一歩として候補に挙げられるようになっている。今回は2022年8月に公開した記事のフォローアップとして、LPI日本支部が提供する認定試験「Linux Essentials」に挑戦し、合格した宮城県志津川高等学校(以下、志津川高校)の生徒と教員の皆さんのインタビューをお届けする。今回参加したのは、情報ビジネス科を担当する五十嵐由希先生、松井典昭先生、それに情報ビジネス科の3年生、須藤大斗君だ。
参考:南三陸の高校生がLinux Essentialsに挑戦。その進捗をインタビュー
今回はLinux Essentialsに合格した志津川高校の皆さんに集まっていただいてお話を伺おうと思います。今回は校長の葛西先生にも参加していただいていますのでまず校長先生からコメントをお願いします。
葛西:本校は来年度から南三陸高等学校に名称が変わりますが、「ITを勉強するなら南三陸高校」と呼んでもらえるようになりたいと思っています。将来的には南三陸をITの土地と呼ばれるようにしたいんです。そのためにLPI日本支部さんやエー・アール・シーさんからも協力していただいています。エー・アール・シーさんには南三陸町の高校魅力化コーディネート業務の委託先としても活躍してもらう予定になっていますので、期待しています。来年度の入学予定者としては東京、神奈川、千葉などから生徒がやってくる予定になっていますし、遠方出身の生徒が住む寮も作りましたので、さらに全国からの生徒を募っていきたいと思っています。今年度は須藤君がLinux Essentialsに合格しましたので、後輩もそれに続けと勉強に励んでいると思います。私自身は来年で定年ですので見届けることができませんが、引き続きこの学校を支援してくれる皆さま、そして先生方がそれを実現してくれると信じています。
今年の試験について現在は松井先生、五十嵐先生、そして生徒の須藤君が合格、ということですが、今後の予定は?
五十嵐:12名の情報ビジネス科の中でも、すでに就職先の内定をもらっている生徒として前回もインタビューしてもらった山内明里さんは1月に試験を受ける予定で今、一生懸命勉強しています。彼女は大丈夫じゃないかな。一人でどんどん進められる人なので。
松井:2年生も10月から始めて3月に試験を受ける予定になっています。先輩の須藤君が合格したのが良い励みになっているみたいです。「須藤先輩、試験受かってスゴイ」とか言ってますから(笑)。
今回の試験に当たって感想は?
須藤:繰り返し試験問題にぶつかることが大事だと思いました。先生と一緒に何度も同じ問題をやって正しい答えと間違った答えをちゃんと繰り返して理解しておくことが大事だと思います。アウトプットをちゃんとすることですね。あと個人的に次に学びたいのは簿記ですね。地元のIT企業から内定をもらったんですけど、就職してから簿記を勉強するのが大変だと思うので、先に簿記をやっておければと思います。
内定はどんな職種なんですか?
須藤:内定したのはDev Engineerという職種ですね。開発のためにTypeScriptを使う予定と聞いてます。
五十嵐先生にお聞きします。今回の試験の印象は?
五十嵐:今回は暗記でなんとかなる部分が割合としては多かったと思います。一部は応用みたいなところがありましたけれど。これまでエー・アール・シーさんの講師、村山さんの授業ではLinuxについての知識が点と点が繋がっていなかった感じだったんですけど、試験を受けてみてその点が繋がって線になったみたいな感覚はありましたね。今回は松井先生が先に合格して、次が私、その次が須藤君という順番だったんです。オンラインの検定試験というのも初体験だったので、最初に試験を受ける部屋の動画を撮ってカンニングができないように確認するみたいな部分も初めてで。なのでそれを私たち教師が体験してそれを生徒に伝えるということができて良かったなと思います。
先生方が体験したことを次に伝えることで準備がしやすくなったということですね。
五十嵐:そうです。
でも一緒に講義を受けて最初に先生が受験して合格しないとカッコ悪いみたいなプレッシャーはありませんでしたか?
五十嵐:それはもう最初にありましたね(笑)でも通常の授業も担当してるし、プレッシャーはありました。須藤君も夏休みに毎日のように学校に来てくれて一緒に勉強したよね。とっても頑張ったと思います。
前回はITパスポート試験を受けるという流れがあると思いますが、Linuxの次の試験を受けるという未来は?
五十嵐:今回のこの試みは生徒にとってきっかけになってくれればいいと思っているんですね。だから、まず最低限の知識としてこの試験に合格して欲しいと思っています。その先は各生徒次第、ですね。あとやっぱり数学って大事だなというのが今回感じた部分です。私も商業科出身なので。
でも私もそうですが、文系だからコンピュータはできないなんていうことはなくて文系のほうが向いている仕事もIT業界には一杯ありますので、そこはぜひ、数学が苦手って言ってる生徒にも伝えて頂ければと思います。
五十嵐:そうですね。
この後ですが、応用のほうに進めば単に暗記だけだと難しくなると思います。より実践的というか具体的にサーバーを触って理解する必要があるというか。そのためにはLinuxサーバーを設置するというのも手ですが、選択肢としてはパブリッククラウドのサービスを使うというのが企業向けにはあるんですよね。
松井:そうですね。AWSを使えるようになると良いとはよく言われているので、パブリッククラウドというのは選択肢として良いと思うんですが、高等学校の中から使うというのはセキュリティの面から難しいこともあり、県の方と交渉が必要なんですよ。そこがクリアになれば……
実際にサーバーを立ち上げて設定したりソフトウェアをインストールしたりというのはハードウェアを調達するより遥かに簡単にできるんでお勧めなんですが、学校内から使うのは確かに交渉がでしょうね。その辺はエー・アール・シーさんやLPI日本支部がヘルプしてくれると良いと思います。
五十嵐/松井:期待しています。
就職すればクレジットカードも作れますし、自宅のインターネット回線があれば自宅のPCからAWSやGCP、AzureでLinuxのサーバーを使うなんてことも凄く簡単にできるのでお勧めなんですよ。そういう意味ではまず先生方が自宅からそういう環境にチャレンジするというのが必要かもしれませんね(笑)
五十嵐:プレッシャー、キツイです(笑)
この後は設定だけではなくプログラミングも必要になってくると思いますが、今のところはシェルでスクリプトを組むという感じですか?
五十嵐:そうですね。今はまだシェルのプログラミング程度です。今使っている教科書にはJavaが入っているのでJavaのプログラミングも予定には入っているというか、教科書が1種類しかなくてその教科書に載っているのがJavaなんで選択肢がないんですよ。逆に質問ですが、何か学んだほうが良いプログラミング言語は有りますか?
現場での使用頻度が高いという意味ではPythonですかねぇ。個人的にはメモリーセーフなシステムプログラミング言語のRustをお勧めしますけど、まだ日本語の解説書籍も少ないのが難点です。RustはMicrosoftやGoogle、AWSも強力にプッシュしているプログラミング言語なので将来性は明るいんですが実際の仕事で使うという意味ではもう少し時間が掛かるかもしれません。
今回のインタビューは合格というハードルを超えたタイミングでの日程となったが、ここに至るまではさまざまな苦労があったことは、容易に想像できる。南三陸という土地で新しいカリキュラムに挑戦した先生方、東京から遠距離の往復をこなした講師役のエー・アール・シーのシステムエンジニア村山氏、そして就職活動と並行して少ない日数で難関を超えた生徒の皆さんにお疲れさまと言いたい。今後も南三陸町がITを使ってどう変化していくのか、定点観測を続けたいと思う。
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