LF傘下のFINOSがOSFFで金融サービス業界におけるOSS関連の調査レポート「The 2022 State of Open Source in Financial Services」を公開
こんにちは、吉田です。今回は、2020年にLinux Foundation傘下に入ったFintech Open Source Foundation(FINOS)が、昨年12月に米ニューヨークで開催された「Open Source in Finance Forum」(OSFF)で発表した調査レポート「THE 2022 State of Open Source in Financial Services Survey」の内容を紹介したいと思います。
FINOSは、金融サービス業界におけるオープンソース、オープンスタンダード、共同ソフトウェア開発プラクティスの採用を促進することを目的として設立された団体で、現在60社を超える金融サービス/テクノロジーメンバーが参画しています。
今回のレポートでは、主な調査結果として下記の項目が挙げられています。
- コミットが増加している
- オープンソースの価値への理解が深まる兆し
- オープンソースの活用に対する価値の変化
- 貢献にもっと注意を払うべき
それでは、まず統計データから分かる現状について紹介していきます。
金融サービス関係者のOSSへの活動状況
GitHubのデータから金融サービス関係者のOSSの活動状況を見ると興味深いことが分かりました。ただし、GitHubとのやり取りには個人のアカウントを使用していることが多いため、必ずしも完全に把握しているとは言えないかも知れませんので、そのことを念頭に置きながら、以下のデータを見てみたいと思います。
まず、金融サービス関係者のコミッターがいるリポジトリは36,107件で、昨年の結果と比較して43%増加しています。後ほどご紹介しますが、貢献に対する意識が大きく変わってきていることの根拠と言っても良いデータとなっています。特に昨年に比べて、複数の金融機関のコミッターが参加しているプロジェクトが24件から41件に増えています。また、2人以上の金融サービス関係者が関与しているリポジトリは357件ということで、積極的にオープンソースに関与していることがわかります。 彼らが関与しているプロジェクトもテストフレームワーク、開発者用ツール、UIツールキット、インフラコードなど多岐に渡っています。言語別にこれを見てみると金融サービスのデータセットに含まれるコードの51%がJava(GitHub全体では11%)で、Javaが長い間エンタープライズのデファクト言語とみなされているのも納得がいく結果になっています。
調査やインタビューで分かってきたこと
次に、調査結果や担当者へのインタビューで分かってきたことについて、項目を分けて説明します。
- 金融機関は、今まで最新のテクノロジーを駆使して顧客にサービスを提供してきましたが、コスト削減や俊敏性の向上などのオープンソースの利点を活用するために、オープンソースがそのテクノロジー戦略の多くを担う傾向が高まっています。U.S. Bank関係者の「テクノロジーに関する意思決定がビジネスにとって戦略的であるとみなされている」という発言があるように、テクノロジーの重要性が金融ビジネスにとって必要不可欠となっています。オープンソースは商用ソフトウェアと違い、自らの技術力でカスタマイズや拡張することが可能で、ビジネスのニーズに合わせて調整・変更できます。また、多くの金融機関はコンテナの導入、ネットワーキング、スケーリング、および管理を自動化するためのコンテナオーケストレーションツールを活用していますが、これは技術的な優位性を求めているわけではなく、システムの価値を得るまでの時間を短縮することを目的としています。
- オープンソースに貢献することの価値はさまざまありますが、そのひとつとして人材確保の側面があります。日本ではまだまだ一般的ではないかも知れませんが、米国には技術者を採用する際に「オープンソースコミュニティの一員である」ことを重視する企業も多く存在しているようです。昨今のように新しい技術の発信地としてのオープンソースに精通していることが、DXを推進するためのプレイヤーとして必要な条件になってくるかもしれません。
- オープンな方法でコードをライセンスし、仲間と協力して開発することで、同じ目標に向かって働く人々のコミュニティが存在します。しかし、いきなり社外の開発者と共同で作業をするのは少し抵抗がある場合があります。そのような場合に「インナーソース」という形で開発する手法を採ることもあります。インナーソースとは、OSS開発のベストプラクティスを活用して社内にオープンソースに似た環境を構築し、オープンソースではないソフトウェアや商用ソフトウェアを開発する手法のことです。まずはこのような手法を活用し、徐々にオープンソースのコミュニティに参画していくのもひとつの方法かもしれません。
それでは、具体的にどのようなオープンソースが活用されているのかを見ていきたいと思います。下図のようにコンテナ関連が最も活用されており、次にWebアプリケーション開発、DevOpsやAI/MLなどが続いています。
しかし、企業の規模別に見ると10,000人以上の規模の企業では少し様相が違ってきており、AI/MLが最も活用されている領域になっています。
では、オープンソースの利用を拡大する理由は何でしょうか。下図のように、その一番の理由は「生産性向上」で、「ベンダロックインの回避」と「組織を魅力的な職場にする」が続いています。
オープンソースを活用することで生産性向上を見込むのは当然のことです。オープンソースの中には質の高いソフトウェアが豊富にあり、ゼロからコードを書く必要がなく、適切なコンポーネントを選択できれば、それを組み合わせるだけでシステムを構築できます。また、ベンダーロックインは他製品への乗り換えが現実的ではなく、品質に関係なく特定の製品やサービスを使い続けることを意味します。オープンソースは、そのオープン性により本質的に代替の提供経路を生み出し、通常、乗り換える場合の移行を容易にするため、このリスクを軽減できます。
とは言え、まだまだオープンソースを活用する上ではさまざまな障害や課題があります。その中で最も投資が必要な領域が「法律」「コンプライアンス」「セキュリティ」となります。オープンソースライセンスの理解や特許等の関連は理解するのが難しいため、当分この領域は課題のままとなっているかもしれません。
貢献について
最後に、貢献について紹介します。本レポートでは、貢献を下記のように定義しています。
- オープンソースプロジェクトに加えられた変更を、今後のリリースに反映させるために元のメンテナに送り返すこと
- オープンソースプロジェクトにパッチやプルリクエストを提出すること
- オープンソースプロジェクトに関連する課題をオープンし、オンラインディスカッションに参加すること
金融サービス関連では、貢献について「他の業界に後れを取っている」という認識のようですが、回答者の74%が「コードを組織外にリリースするプロセスがある」と回答しており、オープンソースへの貢献を許可している企業は前年に比べ75%も増加しています。一方で、貢献するための阻害要因として「法律やライセンスに関する懸念」「知的財産の流出の懸念」があります。社内でのポリシーの策定やトレーニングを推進することでこれらの阻害要因を取り除くことができるので、さまざまな業界でこのような動きが必要になってくるでしょう。
このように金融サービス関連の企業がオープンソースに貢献することで、これまではオープンソースの「活用」方法について議論していましたが、今後は「貢献」方法や「貢献」内容に軸足を移していくことになると思います。
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