連載 [第44回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

LFが自動車業界や金融サービス分野におけるオープンソースへの取り組みに関するレポートを発表

2024年5月31日(金)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、The Linux Foundationから発表された、さまざまな業種でオープンソースが活用されているいくつかの興味深い事例についてします。

まず、Automotive Grade Linux(AGL)プラットフォームの最新版に関する発表です。

【参照】最新版Automotive Grade Linuxプラットフォームをリリース:クラウドネイティブ機能、RISC-V アーキテクチャ、Flutterベース アプリケーションを追加
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2024/05/quirkyquillback-jp/

The Linux Foundationの下、AGLはあらゆるソフトウェア定義車両(SDV: Software-Defined Vehicles)向けのオープンソース プラットフォームを開発する業界横断的な共同プロジェクトで、メンバー企業が共同開発しているAGLプラットフォームはUnified Code Bas (UCB)として知られ、インフォテインメント、テレマティクス、計器クラスターアプリケーションなどが含まれています。今回、このAGLプラットフォームの最新コードであるUCB 17.0、別名「Quirky Quillback」のリリースを発表しました。

AGLプラットフォームにAWS(Amazon Web Service) Gravitonプロセッサのサポートが含まれることにより、クラウドでのAGLの実行が可能になりました。これにより、AGLをクラウドベースの環境で実行できるようになり、また仮想化とVirtIOを利用してハードウェアとソフトウェアを分離することで、物理ハードウェアにアクセスすることなく、世界中のどこからでも開発やテストができるようになりました。

また、AGLは初めてRISC-Vをサポートするようになりました。RISC-Vはカリフォルニア大学バークレー校で開発され、オープンソースで提供されている命令セットアーキテクチャ(Instruction Set Architecture:ISA)で、SHD Corp.が2024年1月に発表した市場調査によると、RISC-V SoC市場は2030年までに927億ドルに成長し、CAGRは47.4%になると予測されています。このRISC-Vアーキテクチャを活用することで、ハードウェア開発者はすべて同じアーキテクチャを使用する個々の自動車機能用のカスタムプロセッサーを作成できるため、スケーラビリティが向上し、ソフトウェアデプロイメントが簡素化され、市場投入時間が短縮されるというメリットがあります。

これら以外にも、自動車アプリケーション専用に設計されたオープンソースのアプリ&UI開発ツールキットのトヨタ自動車組み込みバージョンのFlutterも含まれています。これについて、AGLのエグゼクティブ ディレクターDan Cauchy氏は「Flutterを活用することで、AGLのUIやリファレンス アプリケーションがわずか8週間で最初から最後まで完全に書き直されました。これは、Flutterのパワーと開発の容易さを証明するもので、これが車載アプリケーション開発のデファクト スタンダードになると確信しています」と述べています。

その他の情報については、リリースノートをご覧いただければと思います。

次に、LF Resarch & FINOS 調査レポート「金融サービスにおけるオープンソースの状況 - 2023」(日本語版)が公開されました。

【参照】LF Resarch & FINOS 調査レポート「金融サービスにおけるオープンソースの状況 – 2023」を公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2024/05/japanese-version-of-the-2023-state-of-open-source-in-financial-services/

このレポートは、2023年6月から8月にかけて実施された調査に基づくレポートで、金融サービス部門におけるオープンソースの現在のトレンド、可能性、および課題を明らかにしたものです。本年度の分析結果は、金融サービス業界におけるオープンソースの採用が大きく進展していることを浮き彫りにしており、非常に刺激的な内容となっています。

今年の特徴としては、明らかにオープンソースは金融サービス業界や個々の組織にとって価値があることが、一貫して認識されていることが分かります。回答者の半数以上が、所属する組織にはOSPOが存在し、65%が明確で目に見えるオープンソース戦略を定義していると回答しています。OSPOを導入している組織は、オープンソースの利用と貢献に関する構造化したプロセスを持つ可能性が高くなります。それに応じて、オープンソースへの貢献を奨励し、サポートする可能性も高くなります。

また、ほぼすべての組織(94%)がある程度のオープンソースの使用を許可しており、78%が1年前と比較してオープンソースの使用による価値が増加したと報告しています。昨年の62%に比べて大幅な増加となっており、これは生産性の向上、ソフトウェアの品質の向上、市場投入までの時間の短縮など、オープンソースを使用する利点の認識が加速していることを示唆しています。

さらに、回答者は他の業界よりも組織内で使用されるオープンソースライブラリのメンテナンスに高い自信を持っていますが、これはこの業界の高度な検査と管理により使用に対する細心の注意が払われているためと考えられます。金融サービスのオープンソースリーダーとの議論では、コンプライアンスチェックを超えてコミュニティの健全性とプロジェクトのサポートを評価し、持続可能性と長く存続することを確保する、思慮深く徹底的な使用のアプローチを強調しています。

とは言え、まだまだ問題点は残っています。代表的な例として、金融サービス組織が外部従業員とのコミュニケーションを文書化するという必要性があり、これが、より広範なオープンソースコミュニティと関わる手段を制約することが発生してしまいます。このような課題にもかかわらず、回答者はAI/ML、サイバー セキュリティ、クラウド/ コンテナ テクノロジーが業界の将来にとって最も価値のあるオープンソース テクノロジーであると考えており、オープンソースのコラボレーションから最も恩恵を受ける分野として生産性、デジタル アイデンティティ、業界標準の向上、運用コストの削減を挙げています。

最後に、金融サービスを参考に企業がオープンソースに取り組む際に考慮すべき点として、下記のような項目を挙げています。

  • OSPOの設立および/またはサポート
  • 開発者のエンゲージメント、トレーニング、メンタリングの促進
  • GitHubやSlackなどのコラボレーションのためのテクノロジーの使用を許可する
  • Open Source DaysやDeveloper Daysなどの社内イベントを通じて組織を教育し、社外のオープンソース イベントへの参加を奨励する

今回は、自動車業界や金融サービス分野でのオープンソースへの取り組みについて紹介しましたが、これ以外にもさまざまな業種が取り組んでいます。それらの状況も今後ご紹介したいと思っています。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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