2024年のDevRel予測

2024年2月28日(水)
中津川 篤司
今回は「2024年のDevRel予測」というテーマで、識者が提唱する予測をベースにいくつかのトピックに分けて紹介します。

はじめに

今回は「2024年のDevRel予測」をテーマに解説していきたいと思います。と言っても筆者の勝手な予測ではなく、2023年12月12日にMediumが公開した「DevRel 2023 Review and 2024 Outlook — DevRelCore」と、2024年1月1日にDEV Communityが公開(2024年1月31日に更新)した「The DevRel Digest December 2023: DevRel You Should Know Part Two and Reflections on 2023」より、識者の方たちが書いている2024年のDevRel予測をベースに、トピックごとに解説していきます。

予算管理がより厳密化

2023年は、DevRelに関わる人たちにとって大変な年でした。要因として一番大きかったのはコロナ禍に伴う景気低迷でしょう。日本では円安という話題はありましたが、実生活の中でそこまで不景気だと感じた方は多くなかったのではないでしょうか。

それに対して、アメリカやヨーロッパ圏では景気低迷が大きな問題になっていました。さらにコロナ禍になったとき、求人を一気に増やした企業がレイオフを立て続けに実行したこともあって、多くの人が職を求めていた印象です。

アクティビティを可視化する

アクティビティを可視化する(Common Room)

DevRelに関わる人たちの多くはマーケティング部門に所属していました。そして、マーケティングは景気によって予算が大きく左右されやすい部門でもあります。広告予算が削られたりするのに合わせて、DevRel界隈でもレイオフが続きました。たとえばTwilio、Microsoft、Unity、GitHub、Googleなどなど…有名なテック企業でレイオフの憂き目に遭った方が多かったです。

そうした背景があり、2024年ではより予算管理が厳しくなると予想している方が多いです。これはつまり、より結果が求められるということです。ひと昔前であれば出張は気軽にできましたし(もちろん登壇やブース出展などが伴いますが)、カンファレンスへのスポンサードも容易でしたが、2024年はより厳しく結果を求められるようになるでしょう。

日本ではどうなのか

DevRelは「KPIが作りづらい」「結果が測定しづらい」などの課題があります。これは日本に限らず、世界でも同様です。そうした中で、グローバルでは一定の測定できる数値目標を決めて活動しています。

一方、日本ではその数値目標が割とゆるいケースが多いように見えます。例えば「ブログ記事を何本か出す」「イベントを何回行う」といった目標は実行すれば良いだけのものであり、あまり創意工夫する必要がありません。送客数や参加者数などの方が、まだ工夫する必要性のある目標になるでしょう。

特にDevRel活動の結果がどう収益につながっているのかであったり、経営上DevRelがどう扱われるべきなのかが定まっていないケースが多いです。今後、海外の取り組みが徐々に日本企業にも浸透していくかも知れません。

重視するのは「コミュニティ」と「教育」

元々DevRelが注目されていたのは認知度拡大の部分でした。もちろん、スタートアップ企業などでは、認知度拡大は大事な要素であり続けています。しかし、何年もサービスが続いていく中で、DevRelに求める役割も徐々に変化していきます。

2024年に重視する要素として挙がっていたのが「コミュニティ」と「教育」です。各項目について、詳しく見て行きます。

DevRelにおけるコミュニティ

DevRelが「開発者向けのPR(パブリックリレーションズ)」というのは[1回目の記事で書いた](https://thinkit.co.jp/article/19462)かと思います。パブリックリレーションズとは、企業が地域社会に受け入れられるための活動です。地域には「住人」「地域コミュニティ」「個人商店」「自治体」などの構成要素がある訳ですが、企業もその一員だと認識しなければなりません。

パブリックリレーションズ

パブリックリレーションズ(「DevRelの教科書」(DevRel Meetup刊)より流用)

同様に、DevRelにおいて企業は開発者のエコシステムの一員であることを意識しなければなりません。また「開発者」「オープンソース・ソフトウェア」「開発者コミュニティ」「企業」「標準化団体」などの要素がある中で、自社もその一員として受け入れてもらえるように活動しなければなりません。

DevRelにおいて、エバンジェリストやアドボケイトに対して既存のコミュニティへ参加して開発者とコミュニケーションしたり、コミュニティマネージャーがユーザーを中心としたコミュニティを形成する役割が重視されてきています。コミュニケーションということは、一方的な「発信」だけでなく、開発者の話を聞くという「傾聴」が大事になります。「発信」と「傾聴」による相互コミュニケーションがDevRelのキーなのは、従来から変わりません。

DevRelにおける「教育」

テクノロジーはどんどん進化しており、一朝一夕で学べるものではなくなってきています。プログラミング学習スクールなどで学んでも、実践で働けるレベルとはほど遠いものです。日々進化するトレンドを追いかけ、追従しなければあっという間に腕がさび付いてしまうのがITエンジニアというものでしょう。

そうした観点で考えたときに、教育はとても重要です。ドキュメント1つとっても、教育という観点で見れば修正点が数多く見つかりそうです。前提知識が求められるドキュメントになっていたり、自社製品を十分に使いこなせる人でなければ理解できない内容になっていないでしょうか。開発者は新しい何かを作るのが仕事であって、あなたの製品を使うのが目的ではないのです。

Microsoft公式の学習コンテンツ

Microsoft公式の学習コンテンツ(「Microsoft Learn

また、DevRelの文脈で学生に対する教育も行われています。大学や専門学校ではコンピュータサイエンスを教えていますが、実務とはかけ離れてしまうケースが多くあるため、最近のトレンドを学び、実社会ではどういった技術が用いられているのかを教えています。これは特に自社サービスありきというものではなく、社会貢献の一環として実施されているケースも多々あります。

DevRelとしては、ハンズオンコンテンツをはじめとしたラーニングコンテンツ作成が大事な役割になります。最近は動画コンテンツも流行っているので、動画とテキスト、そしてコードを組み合わせた学習コンテンツが人気です。

「ローカライゼーション」と「パーソナライゼーション」

リモートワークが増える中で、世界中の距離はさらに縮まっています。世界のどこにあるサービスでも、世界中からユーザーを集められます。しかし、より現地のユーザーに受け入れられるためにはローカライゼーションが必要です。ここで言うローカライゼーションとは単純なドキュメント翻訳だけでなく、「現地化」という意味でもローカライゼーションと考えられます。

DevRelにおいても、日本には日本の、アメリカにはアメリカのやり方があります。同様にヨーロッパやアフリカ、アジア、南北アメリカと最適な方法は異なります。画一的な方法では成功はおぼつかないでしょう。

開発者のイベント1つとっても各国で異なります。日本での一般的なやり方は平日の夜に行われるものでしょう。最初にセッションが複数あり、その後に懇親会という形です。シンガポールでは最初に懇親会が行われます。そしてインドでは土曜日の午前中が一番最適だったりします。イベントの集客ツールやコミュニケーションツールも異なり、さまざまな地域に合わせたDevRelが求められるのです。

日本独特な仕組みの1つ技術書典

日本独特な仕組みの1つ「技術書典」」

パーソナライゼーションについては、AIや高度なユーザー分析が求められる分野です。ユーザーを細かくセグメント化し、それぞれの特性に合わせたDevX(Developer Experience:開発者体験)の提供が求められます。この分野はマーケティングオートメーションに代表される、システム化や自動化が最も活かせる分野になるでしょう。

テキストや動画、ポッドキャストなど人によって認知特性が異なるのと同じように、ユーザージャーニーのパーソナライゼーションがより求められると予測されています。

企業内にDevRelの文化が求められる

DevRelが失敗する企業の特徴として、DevRelチームと他のチームや経営陣での情報格差が大きいという点が挙げられます。つまりDevRelチームは開発者をサポートしようと必死になりつつも、他のチームがその重要性に気付いていないという問題です。

2024年の予想として、企業におけるDevRel文化の確立を挙げている人がいます。これは簡単なものではありませんが、もし企業やサービスが成長するために開発の力が必要なのであれば、必須の考え方になるでしょう。

DevRelをマーケティング組織の一機能として捉えるのではなく、企業の文化として考える必要があります。例えば、一部の人しかコミュニティに参加しない、テックブログを書かないというのは問題です。企業としてエンジニアの登壇やブログ執筆を支援できないのでは、アンバランスになってしまうでしょう。

もちろん企業文化を変えるのは簡単ではありません。2024年だけで終わるものではないでしょう。しかし、開発者に受け入れてもらい、彼らと良好な関係性を築きたいのであれば、上辺だけの活動に留めないことです。一部の社員だけがアウトプット活動を担っている場合、その人の転職や配置換えによって一気に企業全体のアウトプット活動が縮小してしまうでしょう。

もちろん、これは周囲の理解だけでうまくいくものでもありません。DevRelチームにいる人たちも社内の人たちに活動を理解してもらい、サポートを得られるように啓蒙しなければならないでしょう。小さなDevRelチームの場合、他のチームに理解してもらえないという意見も聞かれます。しかし、自分たちが理解を得られるようにレポーティングや啓蒙を行っているでしょうか。

相互の歩み寄りによって、企業自体にDevRel文化を育めるようになるでしょう。

おわりに

今回は「2024年のDevRel予測」というテーマで、いくつかのトピックに分けて紹介しました。各トピックは筆者の意見ではありませんが、非常に納得できる内容だったかと思います。特に予算周りやコミュニティ、教育重視という流れはすでに始まっているように感じます。

DevRelは日本や世界など、特にボーダーはありません。他の地域や世界中でのトレンドの変化を学ぶことで、自社のDevRelに活かせる内容もあるはずです。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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