連載 [第3回] :
  AI_dev Europe 2024レポート

AI_dev@ParisよりGenAI CommonsのOfer Hermoni氏にインタビュー

2024年9月2日(月)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
AI_devよりGenerative AI Commonsの主要メンバーであるOfer Hermoni氏にインタビューを行った。

2024年6月にパリで開催されたAI_devから、The Linux Foundation配下のGenerative AI CommonsのコミッティーメンバーであるOfer Hermoni氏のインタビューを紹介する。Hermoni氏はイスラエル出身でIDF、ベングリオン大学での講師などの職を経て、複数のAI関連スタートアップの起業を経験した後にAIのコンサルタントを経てLFに参加。ボードメンバーなどの職を経験した後、現在はGenerative AI Commonsのエデュケーション&アウトリーチコミッティーのチェアパーソンとして活動している。

Generative AI Commonsの主要メンバーのOfer Hermoni氏

Generative AI Commonsの主要メンバーのOfer Hermoni氏

自己紹介をお願いします。

Hermoni:私は現在Generative AI Commonsの中にあるEducation and Outreach Committeeのチェアパーソンをやっています。イスラエルでIT関係の仕事をした後に機械学習のスタートアップをいくつか経験して、それをオープンソースとして公開しようとしたという辺りから、私のオープンソースに関するジャーニーが始まったと言えますね。

今回のカンファレンスでは多くのセッションのQ&Aや休み時間の会話でも「『信頼できるAI』が本当に可能なのか?」ということが聞こえました。私もそれを大きな疑問と感じていますし、まだ決定的な回答を誰からももらえていないと感じています。LFAIとしてこのAIが信頼できるようになるためには何をしようとしているんでしょうか?

Hermoni:多くの企業が生成型AIを使ってPoC(Proof of Concept)を開発していますよね? 多くの場合、生成型AIを使ってチャットボットを実装しています。その状況を見ているとPoCをやるのは簡単だが、実際に本番システムに使う、つまりビジネスの中核を担う機能としてそれを使うというのは非常に難しいというのが現状だと思います。

ただLFAIに所属しているメンバー企業はオープンソースによるソフトウェア開発にこそ未来があるということを信じていますし、私もその考えは同じです。今回のMOF(Model Openness Framework)の発表でもわかるように、エンジニアもビジネスパーソンも透明度の高いAI、つまりモデルを求めています。AIの技術的な進化は速いですが、その中核がブラックボックスではないということが信頼できるAIの第一歩になるだろうと思います。

2024年5月にRed Hatがデンバーで開催したRed Hat Summitに参加しましたが、そこでもAIは大きなテーマでした。ただしRed HatはMicrosoft/GitHubなどによるクローズドなAI開発ではなくオープンソースとコミュニティによる参加によって生成型AIを進化させるという方法を選びました。InstructLabというのがその実装形ですが、このようなコミュニティが参加することでモデルを良くしようという試みについてはどう思いますか?

Hermoni:彼らが成功することを望んでいます(笑)。しかし実際にはオープンソースソフトウェアの開発でスタートアップがマネタイズをすることは非常に難しいというのが実情だと思います。Red Hatはそれがうまく行っている稀な例ですが、多くのスタートアップはオープンソースソフトウェアを開発してその後の持続が難しくなるに従ってライセンスを変更して、クラウドプロバイダーの利用を禁じるなどの施策を行っていますよね。しかしコミュニティによるソフトウェア開発が確実に進歩していることを我々は知っていますから、いずれは解決できるようになると思います。

生成型AIについては、著作物として守られているはずの作品が無断で利用されてしまうという問題も発生しています。これに対して何らかの解決策はあるんでしょうか?

Hermoni:それに関しては一つの例を教えましょう。BRIA AIという企業があります。BRIAは著作権で守られているコンテンツを使わないようにトレーニングされたモデルを使って画像を生成することができます。また生成された画像のオリジナルは何なのかを分析してその著作者に通知することも可能になっています。こういうベンチャー企業が出てきているということにも注目して欲しいですね。大きな変革の時には法律がテクノロジーに追いつかないということはままある話です。ですが、それを埋めるような新しいソリューション、テクノロジーというのも同時に産まれてくるわけです。そのためにもエコシステムがあるということは重要です。

●参考:https://bria.ai/

最後に今回、初めてGenerative AI Commonsという組織の存在を知った人も多いと思います。Generative AI Commonsにとってのチャレンジは何ですか?

Hermoni:今回、このような生成型AIに特化したカンファレンスに多くの参加者が集い、多くの会話がなされたことは成功だったと思いますが、まずはGenerative AI Commonsを知ってもらうこと、認知を拡げることが最初のチャレンジですね。その後に先ほどのPoCの話も出ていましたが、認知の後には実際に使ってみること、応用例を増やすことが次のチャレンジだと思います。AI_devはこの後、日本でも開催される予定になっていますので引き続き注目していて欲しいと思います。私自身はまだ日本に行ったことがないので、ぜひ機会があれば行ってみたいと思います。

10月の東京は良い季節なのでぜひ参加してください。8月にKubeDay Japanがありますが、8月の東京は住んでいる私からすればあまりお勧めできるような気候ではないので(笑)

Hermoni:ありがとうございます。プレゼンテーションを行う予定はありませんが、行けるように努力してみます(笑)。

Generative AI Commonsの認知を拡げるコミッティーの責任者だけあって、認知の拡大とその後の応用を課題として挙げたOfer Hermoni氏であった。進化と変化が速い生成型AIについては、常に最新の情報を手に入れることがますます難しくなってきているが、ネットだけに頼らずに人的交流を通じて信頼できる情報を手に入れることがまだ有効な方法であることを最後のBRIA AIの例で感じたインタビューとなった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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