OpenShift Commons Gatherings開催。Red Hatが強力に推すKubernetesディストリビューションの最新情報を紹介

2022年8月24日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon+CloudNativeCon EU 2022のプレカンファレンスとして、OpenShift Commons Gatheringsが開催された。公開されたOpenShiftのロードマップセッションを紹介。

KubeCon+CloudNativeCon EUが2022年5月16日から20日までスペイン、バレンシアにて開催された。今回はプレカンファレンスとして開催されたOpenShift Commons Gatheringsについて紹介する。OpenShiftはRed Hatが開発を主体的に行っているオープンソースプロジェクトだが、同時にRed Hatにとってはサポートを付けて販売する商材でもある。Red Hatという会社は自社がデリバリーするすべてのソフトウェアはオープンソースでなければいけない、しかも商用にするためにはコミュニティに決定権があるUpstream版というバージョンを同時に用意しなければいけないというルールを自らに課している稀有な企業だ。OpenShiftも例外ではなく、Red Hat OpenShiftというサポート付きの商用版(LTS=Long Term Support版と呼ばれることもある)とコミュニティが開発とガバナンスをリードするOKDというUpstream版が存在する。商用版をOCP(OpenShift Container Platform)、コミュニティ版はOKDという名称で呼ばれている(OKDはアクロニムではない)。このプレカンファレンスはCommons Gatheringと題されているように、コミュニティに向けてOKDをベースに解説及びコミュニティとの対話の場にするというのが建前だが、今回は少しようすが違っていたようだ。

カンファレンスの進行役、Diane Mueller氏

カンファレンスの進行役、Diane Mueller氏

カンファレンスは、Red HatのCommunity DevelopmentのDirectorであるDiane Mueller氏の挨拶から始まった。Mueller氏はバレンシアに来る飛行機の中でメガネを失くしてしまったらしく「メガネがないと観客席があまりよく見えないわ。みんな声出して」と今回の出張のエピソードを紹介するところから始めた。1日のカンファレンスの中にはOpenShift自体のロードマップ、デモ、ユーザー事例、セキュリティに関する解説、MicrosoftによるAzure上のOpenShiftの解説などに混じって、今回のイベントのスポンサーであるAWSがセッションを持つなど、これまで通りRed Hatが主体であることには変わりはないもののパブリッククラウドの存在が大きくなっている状況を表しているとも言える。今回はOpenShiftのロードマップを紹介するセッションを紹介する。

OpenShiftのロードマップを解説するRamon Acedo Rodriguez氏

OpenShiftのロードマップを解説するRamon Acedo Rodriguez氏

このセッションではコミュニティによるUpstream版のOKDについてはほとんど触れられず、商用版のOpenShiftにフォーカスして解説されていた。

「OpenShift Release Update and Road Map」と題されたセッションはRed HatのDaniel Oh氏、Daniel Messer氏、Ramon Acedo Rodriguez氏らが入れ替わりで解説をするスタイルだったが、前半のデモをすべて仕切ってきたのはDaniel Oh氏だ。

セッションの動画:OpenShift Release Update and Road Map Daniel Messer, Ramon Acedo Rodriguez, Daniel Oh (Red Hat) OSCG

デモのシステムを解説するDaniel Oh氏

デモのシステムを解説するDaniel Oh氏

デモ自体はJavaで書かれたマインスイーパーをOpenShift GitOpsやPipeline、JavaのランタイムであるQuarkus、Advanced Cluster Management、Advanced Cluster Securityなどを使って実行するというものだったが、伝えたい焦点がハッキリせずにダラダラと続くデモとなり、現地で見ていても何を伝えたいのかよくわからない内容となった。

詳細なデモは、以下のOh氏の個人チャネルでより詳しい内容を視ることができる。

参考:Microsweeper Demo with Quarkus on Azure Red Hat OpenShift

後半はOpenShiftの今後のロードマップなどについて、Daniel Messer氏が解説する内容となった。Red Hatはこれまで「オープンハイブリッドクラウド」をクラウドネイティブなシステムのスローガン的に使ってきた。これまではパブリッククラウドを使わないユーザーに対してパブリッククラウドとの共存を促す抽象的な概念のようなものから、マルチクラスターに対する詳細な仕組みを解説することでオンプレミスとパブリッククラウドを接続するマルチクラスター環境についても具体的な進展を見せた形になった。

100個のクラスターを接続するツールについて目途がついた形

100個のクラスターを接続するツールについて目途がついた形

このスライドでは、たとえクラスターの数が100になったとしても標準的なツールで運用管理ができることを示している。それまではいわゆるペット的に手間暇を掛けて育てる必要があったマルチクラスターであったが、今後はそれを家畜的に利用、運用できるという自信の表れだろう。

そこで解説されたのが、Open Cluster ManagementというCNCFにサンドボックスプロジェクトとして採用されたオープンソースプロジェクトだ。OCMと言う略称で呼ばれるこのプロジェクトはRed Hat、Alibaba Cloud、Ant Group、Tencent、Microsoftというベンダーがパートナーやコントリビューターとして名を連ねている。過去のKubeConで、マルチクラスターやマルチテナンシーのSIGやセッションでは常に活動をしてきたベンダーが関わっていることがわかる。OCMという素っ気ない名称も、いかにもRed Hatが付けそうな名前だ。

Open Cluster Managementについて

Open Cluster Managementについて

Open Cluster Management公式ページ:https://open-cluster-management.io/

ここでOCMはオープンソースプロジェクトとしてベンダーに縛られない仕様を目指し、それをOCP/OKD、つまりRed HatのOpenShiftに適用するためのサブプロジェクトがStolostronであるということだろう。

マルチクラスターのロードマップ

マルチクラスターのロードマップ

このスライドではマルチクラスターの将来計画の一部が紹介されている。クラスター間を繋ぐのはSubmarinerと呼ばれるソフトウェアだ。それにAdvanced Cluster Managementと呼ばれるソフトウェアが補完する形で、これからマルチクラスターが実装されていくのだろう。

Submariner:https://submariner.io/

他に複数のクラスターを管理するためのコンソールやストレージ、コンテナレジストリーであるQuayをベースにしたマルチクラスターに対応したコンテナレジストリー、新たなパブリッククラウドとしてAlibaba CloudやIBM Cloud、またハイパーコンバージドインフラストラクチャーのリーダーであるNutanixとの連携にも触れ、全方位的にエコシステムを拡げようとしていることがわかる。

IBM CloudやNutanixにもエコシステムを拡げようとしているOpenShift

IBM CloudやNutanixにもエコシステムを拡げようとしているOpenShift

またプロセッサについてもARMのサポート、シングルノードで実装するOpenShift、遠隔地の拠点に展開したOpenShiftクラスターをミラーリングする機能などを駆け足で紹介した。CI/CDという面ではArgoCDがOpenShift GitOpsのコアとして使われていること、使い方にはいくつかの方法があることなどを紹介した。

OpenShift GitOpsを紹介

OpenShift GitOpsを紹介

最後にkcpというマルチクラスター環境にアプリケーションを分散させるための仕組みを実装するオープンソースソフトウェアを紹介して、セッションを終えた。

マルチクラスター環境でアプリケーションを透過的に分散させる仕組み、kcpを紹介

マルチクラスター環境でアプリケーションを透過的に分散させる仕組み、kcpを紹介

kcpの公式ページ:https://github.com/kcp-dev/kcp

マルチクラスター環境においてコンソールからネットワーク、セキュリティ、ストレージ、アプリケーション管理までをカバーする構想を紹介することで、利用が拡大するKubernetesにおいてシンプルな使い方からよりエンタープライズ企業が求める使い方にもツールが拡充されていくことを開示したセッションとなった。Upstream版であるOKDに拘ることなく、今後のOpenShiftの明るい未来とAWSやMicrosoftが強力にサポートしているという姿勢を見せたことに大きな意味があると思えたセッションとなった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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