ソフトウェア開発の生成AI導入による生産性向上を阻む「3つ」の課題
はじめに
ソフトウェア開発において、生成AIを活用することはますます重要になってきています。その一方で、新しい機能やツールの導入期と同様、生成AIの移行を困難にしかねないある課題点が発生しています。そこで今回は、2024年にGitLabが発表した「グローバルDevSecOps調査レポート」をもとに、ソフトウェア開発の生成AI導入による生産性向上を阻む課題点を考えていきます。
生成AIで加速する開発改革
生成AIは、ソフトウェア開発を大きく変革させる可能性を秘めています。組織は、生成AIの活用によりイテレーションサイクルの短縮、脆弱性の低減、管理タスクにかかる時間の削減といったメリットを得られ、高品質なソフトウェアをより迅速に出荷できるようになります。ただ、生成AIを導入するだけでは、こうした生産性向上の効果を十分に得ることはできません。生成AIの導入に合わせて、企業文化やソフトウェア開発のプロセスの見直しを検討する必要があるのです。
生成AIトレーニングに対する認識の違い
GitLabのグローバルDevSecOps調査レポートは、日本を含む世界中の企業の5,300人を超えるCxO、ITリーダー、ソフトウェア開発者、セキュリティ担当者および運用担当者を対象に、DevSecOpsの導入における成功や課題などについての調査を実施し、その結果をまとめたものです。本レポートによると「生成AIを使用するための十分なトレーニングやリソースを組織が提供していない」と回答したのは19%でした。回答者別に見てみると、実務作業者ではそう回答したのは25%に対して、経営幹部ではわずか15%に留まり、経営幹部と実務作業者の間で生成AIのトレーニングに対する認識が異なることが明らかになりました。
生成AIの可能性を最大限に引き出すためには、生成AIへの投資とともに、チームが時間をかけてノウハウを習得したりモチベーションを高めたりできるようなトレーニングやリソースへの投資を行う必要があります。一部の経営幹部には「生成AIを導入すればソフトウェア開発者が必要なくなる」と考えている人がいますが、その解釈は正しくありません。生成AIは本来、ソフトウェア開発者が人間にしか成し得ない、よりクリエイティブな仕事に集中するための支援ツールとして活用できるものだからです。
また、生成AIの導入期において、経営者やソフトウェア開発チームは、その導入効果をすぐに結果として求めてはいけません。生成AIが既存のプロセスに最適に適合できるまでは、チームにある程度の猶予期間を設ける必要があります。チームが生成AI導入による新しいワークフローに適応する中で、最初のうちは生産性が低下する可能性がありますが、それも必要なことと受け入れましょう。チームが日々の業務にどのように生成AIを最適に活用させるかを試行したり、適切なトレーニングを受けたりしながら生成AIを活用していくことが、より良い結果を得る一番の近道なのです。
ツールチェーンの氾濫
ソフトウェア開発者のエクスペリエンスを損ない、全体的な生産性に影響を及ぼす可能性のある要因として見落とされがちなのが、ツールチェーンの氾濫やソフトウェア開発ワークフロー全体にわたって複数のポイントソリューションがある状態です。本調査によると、グローバルでは3分の2(64%)の回答者(図1)が、日本では3分の2(65%)の回答者がツールチェーンを統合したいと考えており、多くの回答者が異なるツールの利用により頭の切り替えが生じることでソフトウェア開発者のエクスペリエンスに悪影響を及ぼしていると感じています。
ツールチェーンが氾濫する状態では、上記以外にもコストや複雑さの増加、サイロ化の発生に加え、チーム間でプロセスの標準化がより困難になるなど、多くの問題があります。また、アタックサーフェス(攻撃対象領域)のリスクが増え、不必要な引き継ぎポイントが生じることでセキュリティ上の懸念も生じます。生成AI搭載のポイントソリューションは、これらの問題をさらに深刻化させます。
経営幹部はソフトウェア開発において生成AI導入が重要な位置づけになってきている時期に、複雑で扱いにくいツールチェーンに無理やり生成AIを入れるのでなく、組織に適した最善の取り組みを採用すべきです。つまり、新しい生成AIツールを取り入れる前に既存のツールチェーンを評価し、生成AIソリューションと余分なツールの統合による負荷が生じないようにするために異なるツールの統合、または排除できる部分を見極める必要があるのです。
時代遅れの生産性指標
経営幹部にとって、ソフトウェア開発者の生産性は最重要課題です。本調査によると、経営幹部の大半(57%)が「ソフトウェア開発者の生産性を測定することがビジネスの成長の鍵である」と回答しています。なお、同様の質問に対して日本では67%でした。その一方で、グローバルの経営幹部51%(図2)、日本の経営幹部66%の回答者が「現在のソフトウェア開発者の生産性の測定方法に問題があるか、測定したくてもその方法が分からない」と考えています。これまでもソフトウェア開発者の生産性の測定は難しかったものの、生成AIの導入によりさらに複雑になっています。
多くの組織は、生成AI搭載ツールがソフトウェア開発者の生産性に与える影響を定量化したり、実際のビジネス成果がその結果に反映されているかを正確に測定したりすることに苦戦しています。ソフトウェア開発が事業収益に与える影響を評価するには、コード行数、コードコミット、タスクの完了数といった従来の指標では不十分です。
測定方法を刷新するには、まずソフトウェア開発ライフサイクル全体から得られた定量データと、日常業務に生成AIがどのように役立っているか、あるいは邪魔となっているかに関するソフトウェア開発者からのインサイトを統合するのが最適な方法です。
組織はソフトウェア開発における生成AIの効果を判断するために、ユーザーの導入率、市場投入までの時間、収益、顧客満足度といった指標に基づいてROIを評価する必要があります。最も関連性が高くモニタリングすべきビジネス成果は、企業や部署、プロジェクトによって異なる可能性があります。
生成AIはDevSecOpsの実践を加速し、進化させる可能性を秘めています。生成AI導入の初期段階で生じうる文化的な課題やプロセス指向の問題に積極的に対処することで潜在的な障害を回避し、生産性向上をより迅速に実現できます。
ソフトウェア開発に生成AIを使用することは、あらゆる企業にとって必要不可欠となりつつあります。課題としては「生成AI活用のためのトレーニング」「ツールチェーンの統合」「ソフトウェア開発者の生産性の測定」の3つが挙げられます。これらの課題を解決することが、ソフトウェア開発における生成AIの利用を成功に導き、ビジネスの成長を実現する鍵となります。
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