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  インタビュー

開発者に自社サービスを使ってもらうには? DevRel(Developer Relations)がその解になる

2017年3月9日(木)
鈴木 教之(Think IT編集部)

DevRel(Developer Relations)というキーワードが一部で盛り上がりつつある。"DevRel"ではピンとこなくても、その担い手であるエヴァンジェリストやアドボケイトという役職を耳にしたことのある読者は多いのではないだろうか。今回はそんなDevRelを推進し、開発者向けマーケティングを展開するMOONGIFTの中津川 篤司氏にインタビューを実施した。DevRelとは何か、その可能性とは。

そもそもDevRelとは? いつぐらいから注目されるようになったのでしょうか

DevRelとはDeveloper Relationsの略で、社外にいる開発者と自社製品/サービスとの繋がりを作り上げるというマーケティング施策になります。その活動を担う役割としてエヴァンジェリストが知られています。そもそもエヴァンジェリストというのは宗教的な宣教師という意味があります。歴史的に見ればフランシスコ・ザビエルは日本人が最もよく知るエヴァンジェリストかも知れません。

株式会社MOONGIFT 代表取締役の中津川篤司氏。オープンソース紹介サイトMOONGIFTなども運営する。

エヴァンジェリストがテクノロジー分野で知られるようになった人としてガイ・カワサキさんがいます。彼は元々AppleでMac向けのソフトウェア開発を喧伝する立場でした。企業や個人に対してMac OSの魅力を語り、その市場性や可能性を語ることでソフトウェアを開発してみたくなるように開発者を鼓舞していました。

そして近年ではIT系テクノロジー企業を中心としてDevRelが広く用いられるようになっています。よく知られるところではAppleのWWDC、MicrosoftのBuild、Amazon Web Service(AWS)のre:Invent、GoogleのGoogle I/O、FacebookのF8など開発者向けに大きなイベントを行っている企業は多数あります。そこまでの規模でなくともTwilio、GitHub、Twitter、SendGrid、IBMなど数多くの企業がDevRelを用いて開発者との繋がりを強固にしています。

個人的に顕著だと感じられるのがMicrosoftです。ここ数年、オープンソース・ソフトウェアであったり、先進的な技術的取り組みを開発者にアピールしたり、各種イベントを通じて一気にイメージが変わってきています。Microsoftは多数のエヴァンジェリストを雇用し、組織的にDevRelを展開している企業です。

国内においてはAWSが最もうまくDevRelを展開している企業と言えるのではないでしょうか。ユーザーコミュニティの育成であったり、二次情報発信力(ベンダー公式ではないブログやソーシャルでの情報発信力)、勉強会で話題に上がる数などは他社と比べて圧倒的に多いと言えます。

ずばりDevRelに必要な要素を教えてください

技術的なユニークさは欠かせない要素です。似たようなもの、他社のパクリ的なものでは開発者を惹き付けることができません。ただし技術だけに尖った製品では話題としての賞味期限は長くありません。何より大事なのは「その製品を使うことによって開発者や企業自身が成長していける夢が描けるか、そのストーリーを提供できているかどうか」だと考えます。

また、エヴァンジェリストの個性、人脈はあまり重要ではありません。もちろん技術的に優れた人であれば有利ですが、自社製品に限って言えば使いながら学んでいくこともできるでしょう。エヴァンジェリストに必要なのは自社製品に対する情熱、使ってくれている開発者への感謝、オフライン/オンラインを含めて他人を魅了できる魅力ある人物かどうかになります。

企業の規模についてもあまり関係ありません。もちろん小さな企業でAppleやGoogleのような大規模なイベントを開催するのは不可能です。しかしDevRelの要素としては他にもブログやドキュメント、小さな勉強会、動画、ソーシャルなど多数の入り口があります。大切なのは自社が情熱を持っている製品があるかどうかです。

DevRelを始める場合には何から取り掛かるのがよいのでしょうか?

サービスを知ってもらうのは大事なことですが、まず足下を固めるのがお勧めです。つまりドキュメントを整備したり、ユーザー登録までの仕組みを分かりやすくしたり、チュートリアルやサンプルコードを充実させるのが大事です。いくら魅力的な製品であっても、使い方がよく分からないものは使ってもらえません。

足下がある程度固まったら、オフラインから取り組むのがお勧めです。勉強会でLTに登壇してみたり、自社でイベントを開催するのも良いでしょう。そこではユーザーの生の声が聞けますので、それを開発にフィードバックしたり、そこで聞いたニーズを自社製品のコンセプトに取り込んでも良いでしょう。

DevRelの情報共有を行うオフラインイベントDevRel Meetup in Tokyoも毎月開催されている。

DevRel活動を予算化するにはどうすればよいでしょうか?

DevRelはそれほど予算のかかる活動ではありません。今では多くのWebサービスが無償で提供されているため、こだわらなければ人件費がほとんどになります。ブログは無料サービスがありますし、TwitterやFacebookの運営も無料ですぐにはじめられます。さらに専任である必要もなく、兼務で開始しても良いでしょう。そして3ヶ月くらい現状の業務に影響を及ぼさない範囲で活動してみて、結果を確認すれば良いのです。スモールスタートして、まず結果を可視化するのが大事です。

活動のしやすさとしてはブログや第三者が行っている勉強会でのLTなどがお勧めです。ブログのPVが伸び、そこからサービス利用につながっているのが確認できればブログ記事を増やす予算をつけやすくなるでしょう。はじめる前からPVや成果を前提として話をするのは非常に難しいので、まず小さくはじめてみるのをお勧めします。

自社製品・サービスを持っていなくてもDevRelを生かすことはできますか?(受託開発やOSSがメインの場合など)

SIerにおいてもDevRelは適用できます。IT業界において最も成功している例としてはクラスメソッドが知られています。彼らはAWSの開発パートナーであり、ブログでの発信力が非常に強力な会社です。

同様にSIerであっても推している製品が存在するはずです。その製品に関する情報を発信し続ければ、その製品に関するWeb検索の結果は上位に上がってきますし、それに連れて問い合わせも増えていくことでしょう。

もちろんそれはオンラインに限りません。例えばネットワークやセキュリティに関する登壇を多数行う企業があれば、そういった案件の際に声がかかる可能性は高くなっていくことでしょう。DevRelはプリセールスとしても役立ちます。

エバンジェリストが辞めるとコミュニティにも影響が出そうな気がするのですが

エヴァンジェリストが辞めると大きな影響があります。これまでにもそういったサービスは多数存在しました。回避策としては複数人で、組織的に行うほかありません。少なくとも一人が辞める前に次のエヴァンジェリストがいる必要があるでしょう。

DevRelの規模が大きくなると、一人ではとても辛い仕事になります。海外ではエヴァンジェリストとしての寿命は2年と言われています。最初は楽しい出張も、年間何十回と行くうちに苦痛になってしまいます。実際の運用で製品・サービスを使う機会の少ないエヴァンジェリストは、徐々に技術力が下がってしまいます。そういった意味でも定期的な入れ替えがあった方が良いでしょう。

DevRelがうまくいっている特徴的な事例を教えてください

海外であればApple、Googleなどになるでしょう。スマートフォンアプリがこれだけ大きな市場になったのは彼らのDevRelによるところが大きかったと言えます。また、FacebookのFacebookアプリやTwitterのWeb APIを使ったアプリなど、企業がサービスを成長させる上で開発者の力が大きかった例は枚挙に暇がありません。

国内で言えば最近の事例でソラコムが挙げられます。社長の玉川さんは元々AWSのエヴァンジェリストで、ソラコムを一気にサービス拡大するためにAWS時代のナレッジが非常に多用されています。今では米国やヨーロッパでもサービスを開始しており、外部の開発者を巻き込んで一気に成長しています。

ゲーム業界で言えばUnityが最も上手に展開している例でしょう。世界的なイベントを毎年行っており、多くの開発者が参加しています。毎年新しい機能やサービスを提供し、継続的にバージョンアップし続けることで開発者を魅了し続けています。Unity自体がどんどん成長していくことで、外部の開発者としてもUnityを使い続ける安心感やロイヤリティを維持するのに繋がっています。

変わったところではUberもそうです。APIを開放することでGoogleマップからも利用できるようになったり、多くのサードパーティー製品が生まれています。自社だけではアプローチできない層であっても、外部と協力し合うことで実現できます。これまでそうした事例は経営層の業務提携というレベルで行われてきました。しかしそこまで大きな規模ではない場合、DevRelを推し進めることで素早く実現できるようになってきています。

最後にDevRelCon Tokyo 2017に向けての抱負を

国内においてDevRelを実施している企業が出始めています。DevRelは一般の広報活動を開発者向けに展開するだけではうまくいきません。開発者の多くは宣伝を嫌い、PR記事など読むこともありません。そうした中で活用できるのがDevRelになります。

DevRelCon Tokyo 2017はそうしたDevRelの現在、そして自社でどう活かすかを学べる日本発のカンファレンスになります。国内外のトップレベルのエヴァンジェリストが多数集まりますので、そこから今後自社がどうDevRelを行っていくべきかを学び取れるはずです。

全英語セッションですが、同時通訳を用意しますので安心してご参加ください!

DevRelCon Tokyo 2017

DevRel(デベロッパーリレーションズ)、デベロッパーマーケティング、デベロッパー体験に関する1日のカンファレンス
イベント公式サイト→ https://tokyo-2017.devrel.net/

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チケット申し込みページ(割引適用済み)
https://ti.to/devrelcon-tokyo/2017-edition

(編注:2017年3月16日11時50分更新)クラスメソッド社の紹介内容に誤りがありましたのでお詫びして訂正致します。

著者
鈴木 教之(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集グループ 編集長

Think ITの編集長兼JapanContainerDaysオーガナイザー。2007年に新卒第一期としてインプレスグループに入社して以来、調査報告書や(紙|電子)書籍、Webなどさまざまなメディアに編集者として携わる。Think ITの企画や編集、サイト運営に取り組みながらimpress top gearシリーズなどのプログラミング書も手がけている。

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