AI CRUNCH 4

“AIをどう使うか”ではなく“何を改善するか”TRENDOが語る、AIエージェント時代の本質

本連載「AI CRUNCH」は「生成AIを活用している専門家が注目する『すごい企業』を調査し、その秘密を分かりやすく発信する」をコンセプトに掲げています。

清水 亮輔

6:30

今回は、“AI業務のインフラ”として注目を集めるTRENDO(トレンド)を取り上げます。同社は、企業が自社の業務に合わせたAIエージェントをノーコードで構築できる基盤「Agentify」を提供しています。代表取締役CEOの劉 暢(Stella Liu)さんにお話をお聞きしました。

  • TRENDOが生まれた背景
  • 「Agentify」の仕組みと強み
  • 人とAIエージェントの協働はどう変わるのか

という3つのテーマから、その本質に迫ります。

DXの成功体験から見えた「企業の課題」

TRENDO創業前、Stellaさんは日本のIT業界で約10年にわたり、先端テクノロジー領域のソリューション営業に従事してきました。前職ではインターネット大手Tencentにて、日中間をまたぐ複数の大規模プロジェクトをリード。数々の案件を手がけてきた中でも、今も強く心に残っている「本当のDX」と呼べる取り組みが、6年前に携わったある駐車場サブリース企業のDX案件でした

その企業は社員十数名、売上は十数億円という優良企業でしたが、業務の裏側は――

  • オフラインの古い不動産システム
  • 10以上のExcelシートに分散したデータ
  • 入力ミスが起きるたびに社員が責められ、雰囲気も悪化
という状態にありました。そこでStellaさんは、
  • データの一元化
  • 申込〜契約〜決済までのオンライン化(クレジットカード対応)
を提案し、実行します。

結果、7営業日以上かかっていた契約手続きは最短3時間に短縮。さらに、コロナ禍で管理車室数がほぼ倍増しても、社員は数名増えただけで業務を回せるようになりました。

「これが“本当のDX”なんだと実感しました。きちんと基盤さえ作れば、中小企業でもここまで伸びられるんだと」

同時に見えてきたのは、多くの中小・中堅企業に共通する構造的な課題です。

  • ビジネスは堅調で、キャッシュフローも良い
  • しかしDXの手段がなく、承継や業務改善の進め方が分からない

「優良な中小企業は多いのに、DXの手段がなくて伸び悩んでいる会社が多いと感じました。」この課題意識が、後のTRENDO創業につながっていきます。

「Shopify for Agents」を目指すAgentify

TRENDOの主力プロダクト「Agentify」は、企業向けのノーコードAIエージェント構築基盤です。Stellaさんはそのイメージをこう語ります。

「Shopifyが“たくさんのネットショップを作る基盤”なら、
Agentifyは“たくさんのAIエージェントを作る基盤”です。」

1社で100個のエージェントが動く未来

営業・マーケ、人事、財務、製造、商品企画……。
業務を分解すると「定型化できるタスク」は無数にあります。

Stellaさん自身、営業・マーケの業務だけでも10個ほどのエージェントが必要になると話します。企業全体で見れば、1社で100個のエージェントが動く未来も現実味を帯びています。

現在の市場には、「営業特化」「議事録特化」など、特化型SaaSが乱立していますが、それらを個別に導入すると、

  • 利用料金が積み上がる
  • 同じ社内データを何度も連携する必要があり、
    運用・セキュリティが複雑化する

という課題が生まれます。

Agentifyはこの課題に対し、企業側でエージェントを量産するための共通基盤として設計されています。

  • 社内データを一元管理し
  • 業務ごとのエージェントをノーコードで構築し
  • WebアプリやAPIとして既存システムと連携できる

まさに「エージェント版のインフラ」です。

レゴのように組めるモジュールと高精度RAG

Agentifyには、レゴブロックのように組み合わせられる多様なモジュールが揃っています。

  • LLM切り替え(OpenAI / Claude / Gemini)
  • 画像・動画・音声を扱えるマルチモーダルモジュール
  • 表・グラフまで構造化して検索できる高精度RAG
  • 自然言語→SQL変換
  • Excel・PowerPoint出力
  • 企業導入に欠かせないアカウント・組織・ロール管理機能を標準搭載

これらを組み合わせることで、領収書処理、部品検索、問い合わせ対応などの業務に直結するエージェントを構築できます。

金融系の案件では、さまざまな形式のファイルから情報を抽出し、所定のフォーマットにまとめるエージェントを構築。99.9%という解析精度を記録し、公開されている類似事例と比べても高い性能が確認されています。

表:他社サービスとの比較

AIエージェントと協働するための「問い」を立てる

TRENDOの特徴は、「誰のための基盤か」を徹底している点にあります。多くのノーコード/ローコードツールは、最終的にはエンジニアが触ることを前提にしています。

一方、Agentifyは現場で業務を担う人が使うことを前提に設計されています。

まず「どんな業務を改善したいか」から始める

TRENDO自身も、営業メール、DMリスト作成、問い合わせ返信、ナレッジ検索など、多くの業務をエージェント化しています。背景にあるのは、Stellaさんの次の言葉です。

「まず、どんな業務を改善したいのかを質問することですね。
AIをどう使うかじゃなくて、まず『私はこれに困っている』から考える。」

TRENDOのチームは、

  1. いま困っている業務を挙げる
  2. 定型的でAIに任せられる部分を見つける
  3. エージェントを当てはめ、少しずつ自動化を広げる

というステップでエージェント化を進めています。この考え方は、どのツールを使う場合にも共通します。

AI活用の成否を分けるのは、「何を改善したいのか」を言語化できるかどうか

DXは“Digital”ではなく、“Transformation”から始まるという原則そのものです。

読者へのメッセージ

最後に、読者へのメッセージを尋ねたところ、Stellaさんはこう語りました。

「海外モデルを使うリスクはゼロではありません。でもまずは、世界の一流の技術を実際に触ってみることが大事です。

何ができて、何ができないのかを体験して初めて、将来、日本発のモデルを作るときに“良いもの”が作れるはずです。」

生成AIやAIエージェントの登場によって「仕事が奪われるのでは」と不安を抱く人も少なくありません。しかし、産業革命もインターネット革命も、仕事を奪った一方で、それ以上の新しい仕事を生み出してきました。

AIも同じです。

「取られる側」になるのか、「新しい価値を作る側」になるのか。
その分かれ目は、「何を改善したいのか」を自分の言葉で語れるかどうかにあります。

どんなツールを選ぶかより前に、
「自分たちは何に困っているのか」「何を良くしたいのか」を言語化すること。

それこそが、AIエージェント時代の本当のスタートラインなのだと、TRENDOの取り組みは示してくれます。

【劉 暢(Stella Liu)】株式会社TRENDO 代表取締役CEO
※画像はStellaさんご提供資料より引用
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