第5回の今回は、生成AI活用で注目されている、「ソウルドアウトグループ(以降、ソウルドアウト)」について紹介させていただきます。ソウルドアウトは、地方、中堅・中小企業に対しデジタルマーケティングのノウハウ提供を主軸としている企業です。
GPT-4が登場し、代表によるAIカンパニーへの生まれ変わり宣言(ローカル&AIファースト)を経て、事業との向き合い方が大きく変化します。以前は採用で売上を伸ばす方針でしたが、AI導入後は従業員へのAIツールや教育・機会の投資を強化し、人を増やさなくても、成果が出る組織へと変革しました。
この結果、社内の生成AI活用率は95%という高い水準に達しました。本稿では、高い生成AI活用の背景にある社内変革のストーリーを深掘りします。
変革前の社内の実態
ソウルドアウトの生成AI推進のスタートは2023年春でしたが、ほとんどの従業員が、AIは「自分事ではない」と考えていました。そのため、当時のAI活用に強い熱意を持っていたのは、全社員のわずか数%程度と体感で言えるレベルでした。
そのような状況下で、全社員の95%がAIを日常的に利用する組織へと変革できた「決定的な転換点」は以下の3つだと紹介してくれました。
変革の重要なイベント
- 代表による「AIカンパニーへの生まれ変わり」宣言
- 現場主導の1ヶ月集中型「生成AIブートキャンプ」実施
- ChatGPTチームプランの全社員導入
以降はこの3つのイベントについて説明していきます。
組織変革
代表による「AIカンパニーへの生まれ変わり」宣言
変革の始まりは、2023年春に代表の荒波氏が打ち出した「AIの会社に生まれ変わる」という宣言です。これは、単に事業転換を意味するのではなく、「AIをビジネスの向き合い方の中心としたAIファースト」を掲げるものでした*1。
*1 「AIの力で日本中の地域課題の解決に挑戦。“商売の原点”に立ち戻る。|2025年 社長年頭挨拶」(note 2025/01/01)
荒波氏は、既存の従業員に対し、AIツールや知識への投資を集中させ、社員自身がAIを使いこなして成果を上げる方針を示しました。
この宣言の実現に向け、会社は全社員を対象とした生成AI新規事業コンテストを開催し、「会社が本気でAIに挑む」という共通認識を醸成しました。さらに、役員レベルに対しては、次の半期の目標にAI活用を具体的に盛り込むことが必須とされ、全社的にAI活用の必要性が認識され始め、変革の土台が形成されました。
スキル教育
現場主導の集中教育「生成AIブートキャンプ」の爆発力
低い利用率と「私には無理」という雰囲気を打ち破り、AI活用の状況を劇的に好転させた決定的な転換点の1つが、2023年12月に営業チームが主導した「生成AIブートキャンプ」でした。
このブートキャンプは、それまでの月に一度の勉強会だけでは社員のAIスキルが業務で使えるレベルに到達しないという、営業チームリーダーの強い危機感から生まれました。リーダーは「無理ならもう諦めるぐらいの覚悟」で、1ヶ月集中型の講座を企画しました。
この講座は、単なる研修ではなく、強いコミットメントを求めるものでした。全10回の講義には約40名の営業メンバーが参加し、上長は「他の予定をずらしてでも参加を強制する」など、研修期間は高い集中力を求めました。また、連続欠席や課題提出がない場合は除名するほどの強い姿勢で実施されました。
結果として、ブートキャンプは大成功を収めました。参加した社員は実務でAIを活用できるレベルに急速に成長し、以下のような変革が生まれました。
- 現場の自走化: ブートキャンプ後、現場では「最近AI使ってる?」「こんな分析をさせたらすごい良かった」といったAIに関する会話が自然発生的に生まれ、活用が広がっていきました。
- 脱推進者依存:勉強会の推進者(講師)が会議に遅れて参加しても、すでに社員だけでAIに関する議論が進んでいる状態となり、「脱推進者依存」が始まりました。これにより、AI推進者がいなくても現場が自律的にPDCAを回す「AI内製型組織」への転換が始まったのです。
このブートキャンプの成功事例は、後に博報堂グループ内の他のグループ会社にも展開され、のべ2,000名に実施されました。その満足度は9割を誇り、教育コンテンツとしての質の高さも証明されました。
システム
ChatGPTチームプランの全社員導入
ブートキャンプなどで現場のスキルと意欲が高まった後、変革を決定的に加速させたのが、2024年10月に実施されたChatGPTチームプランの全社員導入です。これにより、機密情報を含む業務データも安全な環境で扱えるようになり、これまでデータ機密性からAI利用をためらっていた総務や人事といったバックオフィス部門の利用が一気に加速しました。
この全社導入は、社内のAI活用への抑圧を解き放つ形となり、導入後わずか30営業日で200以上の社内カスタムGPTsが誕生*2しました。2025年春には、累計500件以上ものGPTsが社内で作成され、使われ始めています。
*2 「社員によるGPTの作成数が30営業日で200を突破、管理職向けプロンプト研修を開始 ~全社レベルでの生成AIの利活用を強化し、AI活用推進の新たなステージへ~」(SOLDOUT 2024/12/10)
カスタムGPTsの開発は非エンジニアの社員によっても活発に行われています。他にも、あるバックオフィスチームでは、非エンジニアの社員がDifyなどのツールを使って備品管理の社内アプリケーションを自発的に作成し、外部SaaSから切り替えることでコスト削減を実現しています。これは、ソウルドアウトが「生成AIを使う企業」から、「生成AIを創る企業」へと進化していることを明確に示しています。
ソウルドアウトの変革は、これら3つの代表的な施策によって推進されました。当初数%だった利用率が、現場が自律的にAIを使いこなす文化の定着により、全社員95%という驚異的な利用率を達成しました。また、この社内変革の成功体験が、新しい事業「AIビジネス診断*3」を生み出す原動力となりました。
*3 「最適なAIの活用方針が分かり、“最初の一歩”が踏み出せる「AIビジネス診断」を提供開始。~従業員の”AI活用実態”や”業務改善ポイント把握”に寄与~」(&DIGITAL 2025/06/23)
まとめ
ソウルドアウトは「AIの会社に生まれ変わる」という代表の宣言を起点に、全社員活用率95%という驚異的な組織文化へと変革させました。
本稿で深掘りした変革のポイントは、トップダウンの「宣言」だけに終わらなかった点にあります。
- 組織のマインドの変革
- 生成AI活用ができる人材を育成
- 活用できる環境を提供
これら3つの転換点が、ソウルドアウトを単なる「AIを使う企業」から、現場が自ら課題を解決する「AIを創る企業」へと進化させたのです。 この社内変革で得た知見やデータこそが、地域企業の課題解決を支援する新サービス「AIビジネス診断」の基盤となったと紹介してもらいました。
今回紹介していただいたソウルドアウトの事例は、AI変革が単なるツールの導入ではなく、DXが成功したことを示す、連載のテーマにふさわしい「すごい企業」の姿でした。
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