Kaggleは「○○」に役立つ 第8回

Kaggleは「データ人材を育てる」のに役立つ ーメダルがなくても始められる、仲間づくりと組織への還元

第8回の今回は、メダル未獲得のデータサイエンティストが、チームでのコンペを通じてKaggleを人材育成に活かしてきた経験について紹介します。

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6:30

はじめに

私は現在、メーカーでデータサイエンティストとして働いていますが、本連載の他の執筆者の皆さまのような、いわゆる「強いKaggler」ではありません。Kaggleのランクは「Competitions Contributor」で、メダルを獲得できるような実力も持ち合わせていません。また、公式運営のコンペティションへの参加経験もそれほど多くありません。

そのような私ですが、Kaggleから非常に多くの学びと良い影響を受けてきました。

私自身はダイハツ工業株式会社の太古無限さんが主催されている社内Kaggleコンペティションにゲストとして参加させていただいており、私のKaggle活動はこちらが中心です。その活動を通して、Kaggleは単なる機械学習コンペティションではなく、「人材育成」に大きく役立つ仕組みであると感じるようになりました。

本記事では、私が実際にダイハツ社の社内コンペへ参加しながら感じている「Kaggleが人材育成に役に立つ理由」と「どのようにコンペに取り組んでいるか」について紹介したいと思います。


図1:執筆者のkaggleプロフィール

なぜ人材育成にKaggleなのか?

データサイエンスを学ぼうと思ったとき、多くの方はまず「書籍を読む」「動画を見る」「研修を受ける」といった方法から始めるのではないでしょうか。

もちろん、個人に合った学習手段を選ぶことが大切です。ただ、私は書籍などでデータサイエンスやプログラミング言語の基礎を学んだら、早い段階でKaggleのPlaygroundコンペやコミュニティコンペに取り組んでみることをお勧めしたいです。その理由は大きく2つあります。

1つ目は、Kaggleには「まず手を動かして課題を解く環境」があることです。

Kaggleでは、データと評価指標が与えられ、その中で参加者は試行錯誤を繰り返しながらスコア改善を目指します。データサイエンスに限った話ではないかもしれませんが、何かを学ぶうえで重要なのは、知識をインプットするだけではなく、実際に手を動かしてみることだと思います。データの前処理、特徴量作成、モデル構築、評価、改善という一連の流れを体験することで、データ分析の全体像や進め方のイメージを掴むことができます。その意味でKaggleは、「まずやってみる」を実践する場として非常に優れていると感じています。

2つ目は、Kaggleが持つ「ゲーム性」です。

スコアが改善すると嬉しい。順位が上がるともっと試したくなる。ほかの参加者の工夫を見ると自分も試したくなる。このような仕組みによって、学習そのものを楽しみながら進めることができます。何かを学ぶ際、継続することは非常に重要です。しかし、学習内容によっては難しく感じたり、途中で挫折したりすることもあります。その点、Kaggleには自然と「もっとやりたい」と思わせる仕掛けがたくさんあり、継続的な学習につながりやすいと感じています。

私はKaggleが、未経験者を「AIを使って価値を出せる人材」へ最短で成長させるための、非常に優れた人材育成の場の1つだと考えています。

人材育成で重要なのは「仲間の存在」

私は、何か新しいことを始めたい人にとって、一番必要なものは「すでにその何かに取り組んでいる人」だと思っています。データサイエンスに興味を持っていても「1人では続かない」「質問できる人がいない」「何をすればよいか分からない」といった理由で挫折してしまうケースは少なくありません。

データサイエンスにおいては、私自身がその「すでにその何かに取り組んでいる人」でもあります。その役割の重要性を認識してからは、社内でデータサイエンスに興味を持っていそうな人に積極的に「Kaggleやってみませんか?」と声をかけるようになりました。

では、どんな人に声をかければよいでしょうか。私のおすすめは、「新卒社員」と「データ分析プロジェクトで一緒に仕事をした人」です。

実際に声をかけてみると、多くの人が「興味はあったけれど始められていなかった」という状態です。そして、一度コンペに参加してもらい、最初の一歩を踏み出してもらうと、その後は驚くほどKaggleにハマり、自走していく方が多くいます。

気づけばCompetitions Masterになっていた人もいますし、業務の中でAI活用を推進し成果を上げている人もいます。社内には必ず「Kagglerの卵」がいます。

その卵を見つけて、私たちのような人が最初の一歩を後押しすることが、人材育成において非常に重要だと感じています。

私流コンペの取り組み方

私たちは、経験者と初心者が同じチームを組んでKaggleに取り組んでいます。

コンペ期間中の主な活動として、週に1回、約1時間の勉強会を実施しています。勉強会では、「今週試したアイディア」「精度がどの程度改善されたか」「試行錯誤の中で得た気づき」「来週試そうと思っているアイディア」「初心者から経験者への質問」などを共有しています。

経験者にとっては当たり前になっている知識や考え方でも、初心者にとっては大きな学びになることが少なくありません。また、経験者がどのように課題を整理し、仮説を立て、検証を進めているのかを初心者が間近で見ることができる点も、この取り組みの大きな価値だと思っています。

一方で、このようなチーム構成には特有の難しさもあります。それは「どうしてもチーム内でレベル差が生じてしまうこと」です。

初心者にとっては、議論のスピードについていくことが難しかったり、「自分は何も貢献できていない」と感じてしまったりすることもあります。また、経験者がスコアをどんどん更新していくため、Kaggleの楽しみの1つであるLeaderBoardを登っていく楽しみを味わいにくいという側面もあります。

そのため私は、初心者にも小さな成功体験を持ってもらうことを意識しています。例えば、既存コードを動かしてみる、特徴量を1つ追加してみるなど、順位だけではなく「できることが増えた」と感じてもらえる機会を作るように心がけています。

また、初心者だからこそ生まれる価値もあります。

初心者の質問によって議論が深まり、チーム全体の理解が進むことも少なくありません。経験者にとっても、自分が当たり前に行っていることを言語化する良い機会になります。

レベル差による課題は確かにあります。しかし、それ以上に経験者と初心者が共に学ぶことで得られるメリットは大きく、人材育成の観点ではチームを組んで取り組むことは非常に価値のあることだと考えています。


図2:太古さん主催のダイハツ社内コンペの全体像イメージ

Kaggleは組織力向上にも役立つ

ここまでは「人材育成」という観点でKaggleの価値について述べてきました。しかし、私がKaggleに取り組む中で感じている価値は、個人の成長だけではありません。Kaggleは「組織力の向上」にも大きく役立つと考えています。

データサイエンスの世界に限った話ではありませんが、優秀な個人が1人いるだけでは十分ではありません。業務の中で継続的に成果を出していくためには、データサイエンスやAIについて相談できる仲間がいて、知識やノウハウが組織内に蓄積されていくことが重要です。

そのため私は、Kaggleを「個人の学習活動」で終わらせないことを意識しています。

例えば、コンペ終了後には部内で時間をいただき、取り組み内容を共有するようにしています。ここで重要なのは、コンペに参加した人だけが学ぶのではなく、参加しなかった人にも学びを届けることです。

共有会では、「どのような課題だったのか」「どのようなアプローチを試したのか」「上位解法から何を学んだのか」といった内容を共有しています。

Kaggleの価値は、最終順位だけではありません。試行錯誤の過程で得られた知見や考え方にも大きな価値があります。それらを組織へ還元することで、実際にコンペへ参加していない人も新たな知識や視点を得られます。

また私は社内でKaggleやKagglerの価値を発信する活動にも力を入れています。

世の中には「Kaggleで身につくスキルは実務では役に立たないのではないか」という意見もあります。しかし、実際にはKaggleを通じて身につく課題解決力や仮説検証力、機械学習の実践力は、業務の中でも大いに役立つものです。本連載でも、多くの執筆者の方々がKaggleのさまざまな価値について紹介されています。

そのため私は、日頃の業務成果を報告する際にも「これはKaggleで得られた知見を活用しました」「この実装はKaggleで経験した内容です」といったように、意識的にKaggleとのつながりを伝えるようにしています。Kaggleで得られた学びが、実際の業務成果につながっていることを継続的にアピールし続けています。

そのような地道な活動が実を結び、私の会社ではKaggleのメダル獲得が社内の評価・表彰の対象として認められるようになりました。

実は、これは私から会社に提案したものではありません。当時、社内では全社員のデジタルスキルを可視化しようという取り組みが進められていました。その担当者の方が、私が日頃からKaggleと業務成果のつながりを報告していたのを聞いてくださっていて、「Kaggleの実績も評価の対象にできないか」と声をかけてくださったことがきっかけです。

そこから担当者の方と相談しながら、どのような実績を対象にするかを一緒に整理し、現在はKaggleで金・銀・銅いずれかのメダルを獲得すると評価・表彰の対象となっています。

これは、私自身にとって非常に嬉しい出来事でした。もちろん、制度そのものが目的ではありません。しかし、Kaggleで努力し成果を上げた人が正当に評価される環境が整うことは、これから新しく挑戦する人たちの後押しにもなります。

自分から制度を作りにいかなくても、発信を続けていれば、それを受け止めてくれる人が社内のどこかにいる。この経験から、改めて「伝え続けること」の大切さを実感しました。

Kaggleは、個人のスキルを高めるための場であると同時に、人と人をつなぎ、学びを共有し、組織全体のデータサイエンス力を底上げするのに役立つと思っています。

私はこれからも、Kaggleを通じて個人の成長だけでなく、学び合う文化そのものを広げていきたいと考えています。

おわりに

私は冒頭で「自分はメダルを多数獲得しているような『強いKaggler』ではない」と書きました。実際、私のKaggleランクはCompetitions Contributorですし、公式運営コンペへの参加経験もそれほど多くありません。しかし、そのような私でもKaggleから多くの学びを得ることができました。そして何より、人材育成という観点でKaggleの大きな価値を実感しています。

Kaggleは単なるコンペティションではありません。人を育て、仲間を増やし、学び合う文化を作るための優れた仕組みでもあります。未経験者からAI有識者までが同じ課題に向き合い、互いに学び合える環境は非常に貴重です。

本記事を読んでくださった皆様の職場にも、きっと「Kagglerの卵」がいるはずです。もし周囲に少しでも興味を持っている人がいたら、ぜひ「Kaggleをやってみませんか?」と声をかけてみてください。その一言が、新しいKagglerの誕生だけでなく、組織全体の成長につながるかもしれません。

私自身もこれから、Kaggleを通じて人と人をつなぎ、未経験者からAI有識者までが共に学べる文化をさらに広げていきたいと思っています。

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