Kaggleは「今いる場所で成長する」のに役立つ ー社内コンペ・育成制度・会場提供、DSが組織を動かすまで
第6回の今回は、転職ではなく「今いる場所」でKaggleを活かし、社内コンペや育成制度を通じてキャリアを築いてきた経験について紹介します。
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はじめに
「Kaggleって、転職に有利なんでしょ?」
データ分析の世界に少し触れたことがある人なら、一度はそんな話を聞いたことがあるかもしれません。実際、この連載でも転職やキャリアチェンジのストーリーが続いてきました。でも、私の場合は少し違います。
私にとってKaggleは「転職のため」ではなく、「今いる会社の中で自分のキャリアを育てるため」に、何度も背中を押してくれた存在でした。データサイエンティスト(以下、DS)としてのスキル獲得に寄与したことはもちろんですが、気づけば私のキャリアの節目にはいつもKaggleがありました。
この記事では、社会人12年目の私がたどってきた道を振り返りながら、「Kaggleは社内のキャリア形成に役立つ」という話をしてみたいと思います。
怖くて始められなかったKaggle
まずは簡単な自己紹介から。私は大学3年~修士2年までの4年間、データ分析を学びました。プログラミングは得意ではないので、ソフトウェアを利用した分析です。新卒でSIerに入社し6年ほど勤めましたが、学生時代にデータ分析を学んでいた経験を活かしたく、社内公募に応募して最後の1年半ほどはデータ分析チームのマネジメントを担当していました。その後、今の会社に転職しました。現職ではかれこれ6.5年、一貫してDSとしてお客様の業務課題をデータで解決する仕事をしています。
実は、大学時代からKaggleの存在自体は知っていました。ただ、当時の私には飛び込む勇気がなく、世界中の猛者が集まる場所に「自分なんかが…」とためらっているうちに、時間だけが過ぎていきました。今思えば、もったいない話です。
転職した直後、私は壁にぶつかります。周囲に比べて、自分のデータサイエンスのスキルが明らかに足りない。Kaggleは未経験、知り合いもいない。そんな状態でした。
転機になったのは、「第1回 関西Kaggler会」。といっても、当時はただの飲み会です(笑)。それでも、思い切って参加したことが、私とKaggleの本当のスタートになりました。
「手を動かす」ことで、土台ができた
転職後の最初の3年間は、ひたすらコードを書く担当者の時期でした。ここでKaggleが効いてきます。コンペを通して身についた分析の進め方と、数えきれないほどの手法。教科書だけでは決して得られない「生きた知識」は、お客様が求める精度を出すための確かな土台になりました。関西Kaggler会でできた仲間とチームを組み、楽しみながら経験を積めたのも幸運でした。この時期に、少しずつ「できるようになった」と周りに認めてもらえる感覚が芽生えていきます。
4年目にはリーダーになり、PoC(概念実証)の企画段階から関わるようになります。引き出しに手法を多く持っていることは、そのままお客様の漠然とした業務課題を「解ける分析の問題」へ翻訳する提案力につながりました。自分でコンペに取り組む時間は減りましたが、Kagglerの皆さんが発信する情報から使えそうな技術を拾い、社内へ展開する——インプットする側から伝える側へと、役割が変わり始めた時期でもありました。
「DSをどう育てるか」
——たどり着いた答えも、やっぱりKaggle
弊社では、リーダーになると後進の育成も仕事の範囲に入ります。社内のDSをどう育てればいいか。私は真剣に考え始めました。
PoCを推進するにあたり、どの案件でも発揮できるビジネス的なスキルは日々の案件や1on1を通して指導してきました。しかし、データサイエンスのスキルは移り変わりが激しく、業務だけで変化を追うのは難しいという性質があるため、全社的な課題として扱い施策を検討する必要がありました。
そこでもやはりKaggleです(笑)
同僚の提案をもとに「社内にDS育成の仕組みを作ろう」と企画を立ち上げ、社内で説明を重ね、正式な研修制度として導入してもらえることになりました。同じくKagglerでNotebookマスターの同僚にも運営の主戦力になってもらい、「どうすれば参加者の学びが最大になるか」という視点でコンペの中身を設計しています。
全社的な育成に踏み込めたのは、自分のキャリアにとっても大きな経験でした。この頃から、社内で最も感謝された人に贈られる「Respect Award」をいただく機会が増えていきます。振り返ると、人前に出る機会が増え、自分だけのポジションが確立され始めていたのだと思います。
社内コンペは、ただの勉強会ではない
実はこの話の前段、数年前に業務時間(3か月間程度、稼働の20%)を利用して本家Kaggleのコンペに参加する制度を私が提案し、会社の施策として1度だけ実行したことがあります。周りに気をつかって業務を優先してしまう方が多く、残念ながら制度として失敗に終わりました。この経験を活かし、現在の社内コンペは年2回、2日間で開催しています。
社内のプライベートコンペであるため、自分たちでコンペの設計をする必要があります。そこで運営に慣れないうちはKaggleの過去コンペを題材にしていましたが、ここ1年はテーマ性を持たせるようにしました。これがなかなか面白いのです。
例えば、「Pythonを書けない分析初心者が、ChatGPTを駆使してDSに挑む」というテーマ。DSの誰もが「流石に初心者には負けないだろう」と考えていたのですが、コンペが始まってすぐ余裕が焦りに変わりました。なんと初日はDS側が精度でなかなか勝てず、苦戦するチームが大半だったのです。これは生成AIの凄さと、DSもリスキリング(学び直し)が必要だということを、DS全体に肌で感じてもらう絶好の機会になりました。
別の回では、過去のPoCの精度向上に挑む「リベンジマッチ」をテーマとしてコンペを開催。最新のアルゴリズムや、各参加者が編み出したTipsをぶつけあうことで、業務に直接活かせる知見を共有しあうことができました。さらに、コーディングエージェントの使用を前提にしたことで、「技術の進歩は思っているよりずっと速い」「DSの働き方が変わっていく」ということを、改めてみんなが体感できたと思います。
直近のコンペは「いま話題のAIロボティクス分野の経験を積める場にしたい」という運営からの熱い提案をもとに、ロボットがスタート位置から障害物にぶつからずにゴールに早くたどり着くためのアルゴリズムを作るコンペとなりました。社内でも話題性があり、普段のコンペは全DSの1/3~1/2程度が参加していたのですが、本コンペは2/3が参加し大盛況となりました。新しい分野に対する熱量を社内で育てていく場としてもKaggleを活用できた良い事例だと考えています。
勇気を出した一言が、会社を動かした
もう1つ、忘れられない経験があります。
弊社内の敵的な飲み会の場に、たまたま本社の副社長がいらっしゃるタイミングがありました。そして、何のめぐり合わせか、Respect Awardの受賞者として私が全社員の前でマイクを持って話す場面が回ってきたのです。
ここで私は勇気を振り絞りました。「関西Kaggler会に、弊社から会場を提供したい」——会社にとってのメリットも添えて簡潔にお願いしたところ、その場でOKが出ました(エレベータートークという話は有名ですが、実践したのは初めてだったのでとても緊張しました)。
そこからは上司・先輩だけでなく他部署の方々にもご協力いただき、提供する会場を検討・社内の関係部署からの承認を得ることができました。DSから参加者を募ってノベルティまで一緒に作りました。自社が会場を提供したことで、これまでKaggleに興味がなかったDSも関西Kaggler会に足を運び、最先端の情報に触れる機会を作ることができました。同時に関西Kaggler会への恩返しもできたため、とても幸せな時間でした。
会場を提供することで主催者の太古さんとお話しする機会が自然と増え、太古さんがダイハツ内で取り組んでいらっしゃるAI民主化について個人的にお話を伺い、自身の視座を高め視野を広げることができました。自分の成長だけに留めておくのはもったいないと感じ、太古さんに弊社DSの定例会にてご登壇いただきたいとお願いしたところ、すぐにOKをいただき実現できました。この場をお借りして、改めて太古さんには感謝の気持ちを述べさせていただきます。本当にありがとうございました。
このように、Kaggleの社内コンペが起点となり、日々のPoCだけをこなしているのとは比べものにならないほど、社内外の多くの人と繋がることができました。その後の仕事のやり取りが円滑になり、視座が上がって視野も広がりました。データ分析だけをしていたら、決して得られなかったものです。
そして今、これから
PoCの推進に加え、上記のように全社的な取り組みの経験を積んできたことで、現在はマネジメント寄りの仕事を任せてもらえるようになりました。最近では弊社のDSが身に着けるべきスキルや育成ロードマップの整備を行うワーキンググループのファシリテートを私が務めました。「私が社内コンペでリスキリングの重要性を訴えていたので声をかけた」と上司から伺っており、社内の自分の立ち位置がしっかりと形成されてきていると感じます。
Kaggleは、キャリア形成の役に立つ
私にとってKaggleは、転職のためのものではありませんでした。今いる場所で、キャリアを一段ずつ上げていくにあたってかけがえのない存在です。
もし、かつての私のように「怖くてKaggleを始められない方」がいらっしゃいましたら、まずは関西Kaggler会に参加してください。その一歩が、数年後のあなたのキャリアを広げてくれるかもしれません。
「Kaggleは、あなたのキャリアの役に立つ」
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