モデル利用で「腹割り」型委託を実現

2008年5月22日(木)
正田 塁

「腹巻き型」のオフショア開発委託から出発

 Elapizのプロジェクトでも最初の1年間位は、比較的単純な工程である詳細設計~単体テストのみを委託するというオフショア開発の典型的なスタイルでした。上流の要件定義~基本設計と下流の結合・システムテストは日本側で担当します。オフショア側の担当部分が「腹巻き」のように見えるのでプロジェクト内部では「腹巻き型」委託と名付けています(図2)。

 この場合、日本側は詳細設計のための膨大な資料準備やオフショア側の成果物の綿密なレビューが必要です。加えて、オフショア側からの大量の質問攻勢に対応しなくてはなりませんでした。「腹巻き型」委託においてもモデルを利用することで、コミュニケーションコストを下げることができます。しかし、全般的に日本側の作業負荷を劇的に軽減することは難しく、オフショア開発のコストダウンメリットを十分享受できていませんでした。

 加えて「腹巻き型」委託では、役割分担が固定化しているため発注・受注側という上下関係ができ雰囲気が悪化しがちです。オフショア側のエンジニアにとっては単純作業が多くモチベーションがあがりません。

 一方、日本側のエンジニアにとっても、実装技術の空洞化を起こす危険性があります。一度空洞化が起きてしまうと、「これはできない」とか「これは工数がかかる」などと実質的な主導権がオフショア側へ移ってしまうリスクがあります。

「腹割り型」のオフショア開発委託へ移行

 「腹巻き型」委託の問題点を改善し、オフショア開発のメリットを最大限に引き出すため、委託先の成長に合わせて役割分担を見直すことにしました。ポイントは、コストダウンに加えて人材確保の観点からもオフショア側のエンジニアに上流の基本設計から参画してもらうことです。

 一方で日本側も実装言語・環境や単体テスト技術など下流工程の技術にも関心を持つようにします。こちらの委託スタイルを「腹巻き型」に対し、「腹割り型」委託と呼んでいます(図2)。

 移行(2005年10月より約1年間)には時間も教育コストもかかりましたが、効果は絶大です。オフショア側のエンジニアが開発対象の目的・背景といった全体像を理解しているので、詳細設計以降の設計ミスが減少し、結合テストやシステムテストを担当してもらうことも可能です。

 仕様の理解不足による日本側への質問は激減し、逆に日本側のうっかりミスを指摘したり、仕様の改善案を提案してくれるので大変助かっています。現状では日本側の担当者は当初の1/3にまで減った代わりに中国側の要員が増えていますが、トータルコストは「腹巻き型」委託時よりもダウンしています。

 「腹割り型」委託は共同作業が多く、まさに「腹を割った」仲間という雰囲気が生まれます。難易度の高い作業も分担してもらうため、オフショア側のエンジニアのモチベーションは高まります。結果として生産性・品質への好影響に加えて、中国への委託では大きな問題となる離職率も低下し、安定的にプロジェクトを運営することができています。

 次ページでは、「腹割り型」オフショア開発委託を支えるモデリングの活用方法について具体的にお話しします。

株式会社オージス総研
1992年 株式会社オージス総研入社。入社後は汎用機のプログラマを経て、分散オブジェクトの研究開発、オブジェクト指向関連製品の技術サポート、製品コンサルに従事。最近ではインド、中国でのUML、BPMツールのオフショア開発プロジェクトのPMを経験する。UMLモデリング推進協議会(UMTP)オフショアソフトウェア開発部会メンバー。

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