世界中で愛される書体、ヘルベチカとは

2008年12月15日(月)
米倉 明男

そのほかの人気サン・セリフ書体

ここからは、現在のグラフィック・デザイン/Webデザインで人気の高いサン・セリフ体を紹介していきます(図3)。

「Akzidenz Grotesk(アクチデンツ・グロテスク)」は、1896年ドイツのベルトルド活字鋳造所で制作された活字書体で、設計過程などは詳しくわかっていません。ヘルベチカやユニバースよりも50年以上も前に作られ、それらのサン・セリフ体の元となった書体とも言われています。ヘルベチカやユニバースよりも、直線のラインが多く、武骨さと古さを感じさせる独特な雰囲気がある書体です。

「Gill Sans(ギル・サン)」は、石版彫刻家エリック・ギル(Eric Gill)が1927-30年の間に制作されたサン・セリフ体です。エリック・ギルは石に文字を掘る技術を活用してさまざまな書体を制作していました。そのことからこの書体には彫刻文字の特徴があります。「a」や「g」などの字体には、オールド・ローマンの骨格があります。また、ゆったりとしたストロークには碑文の風格があります。おおらかさと柔らかさを表現できるサン・セリフ体と言えるでしょう。

「Futura(フツーラ)」は、ドイツ人グラフィック・デザイナーのパウル・レンナー(Paul Renner)によって作られたドイツを代表する書体です。レンナーはバウハウスの影響が強く、フツーラの形態は幾何学をベースに設計されています。フツーラはストロークの太さの強弱が極端に少なく、装飾要素が限りなく排除されています。

まだまだある!人気サン・セリフ書体

「Frutiger(フルティガー)」は、ユニバースの制作者アドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)が、フランスのシャルル・ド・ゴール空港用のサイン書体として開発した書体です。サイン書体として、視認性の高さから、世界中の空港・駅などで幅広く使用されています。また、フォントサイズを小さくしても判別しやすいことから、最近では、Webデザインでもよく見かける書体です。ユニバースと同様に、ローマン体の骨格をベースとしていることから、有機的な表情を持つサン・セりフ体と言われています。

「Optima(オプティマ)」は、ドイツ人タイプ・デザイナーのヘルマン・ツァップ(Hermann Zapf)によって制作された書体です。ツァップにはカリグラフィのバックグラウンドがあり、それぞれ設計した書体には、優雅さが備わっています。通常のサン・セリフ体が中性的な用途に向いているのに対して、オプティマは「セリフレス・ローマン」とも呼ばれる程、芸術性の高い書体とも言えます。日本でもグラフィックデザイナーを中心に広く使われている書体です。

「Rotis(ローティス)」は、ルフトハンザ航空のブランディング設計で知られる、ドイツ人グラフィック・デザイナーのオトル・アイヒャー(Otl Aicher)が制作した書体です。アイヒャーはグラフィック・デザイナーとしては、シンボルやサインシステムを中心とした、インフォメーション・グラッフィックスを得意としていたため、彼の制作したローティス・フォントもサインに採用されるケースが多いようです。

また、ローティスは、サン・セリフ体のローティス・サンズと、セリフ体のローティス・セリフ、また中間にあたるローティス・セミサンズがあり、サン・セリフ体とローマン体を同時に使用することを前提とした数少ない書体でもあります。

一見、似通っているサン・セリフ体ですが、それぞれに用途や思想を持って生まれてきた背景があります。デザイナーは、あくまでも書体の背景に捕らわれすぎず、個人のセンスで書体を選んでいけば良いのですが、それぞれの特質や背景を知っておくと、書体を使い分ける楽しみが増えていくのではないでしょうか。

次回は、さらに新しい時代に生まれてきた、自由な風潮を持つデザイナーズ・フォントや、Webデザインでも使用頻度が高いビットマップ・フォントを紹介します。

【参考文献】

  • 組版工学研究会『欧文書体百花事典』朗文堂(発行年:2003)
  • アドリアン・フルティガー『活字の宇宙』朗文堂(発行年:2001)
  • Emil Ruder『Typography : A Manual of Design』Niggli(発行年:1967)
  • ゲイリー・ハストウィット『ヘルベチカ~世界を魅了する書体~』角川エンタテインメント(発行年:2008)

編集部注:一部の表記および誤字を修正しました(2011.04.19)

Webデザイナー。印刷会社、Web制作会社などのデザイナー/ディレクターを経て、2007年からフリーランスとして活動。デジタルハリウッド講師。http://www.morethanwords.jp

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