技法の分類とテンプレート(基本編)

2009年3月9日(月)
森崎 修司

チェックリストリーディング

 インスペクション/レビューを実施する前段階で、チェックリストを用意しておきます。チェックリストは複数の質問で構成されます。質問はYes/Noで答えられるものにします。例えば、詳細設計書のインスペクション/レビューで使うものであれば「基本設計書で定義された機能がすべて詳細設計書にも記載されているか?」コードインスペクション/コードレビューであれば「(ファイル等の)リソースの解放を忘れていないか?」のようなものになるでしょう。過去によく起こっているが、見つけられにくい欠陥を発見できるようにすると効果が期待できます。

 インスペクション/レビュー時にチェックリストに記載された質問を順番に参照しつつ、対象ドキュメントをチェックしていきます。進行役がチェックリストを順に指定し、対象ドキュメントの該当部分はどこかを推定し、チェックリストに記述された問いが満たされているかを調べていきます。

 チェックリストの具体例と指摘事項のテンプレートは図3のとおりです。エクセル形式のテンプレートはここからダウンロードできます(878_2.zip/16.4 KB)。また、筆者の研究グループのWebサイト(http://se.aist-nara.ac.jp/html/review/formats.html)からも入手できます。

 図3-1はC言語のソースコードを対象としたチェックリストの例です。チェックリストは「見逃し欠陥の回帰テスト件数を考慮したコードレビュー手法の研究」(詳細は参考文献)に関連する評価実験のために田村 晃一氏、亀井 靖高氏、上野 秀剛氏が作成したもので、「The art of software testing 2nd edition」(詳細は参考文献)に掲載されているチェックリストを参考に、C言語にあてはまるものを選択、改変したものです。チェックリストの内容は対象ソフトウエア、工程、求められる品質に応じて変更します。

 具体的なチェックリストは情報処理推進機構(IPA)のソフトウェアエンジニアリングセンターが公開しているものや、チェックリストを網羅的にサーベイした文献「Bill Brykczynski『Survey of software inspection checklists』 ACM Software Engineering Notes, Vol.24, No. 1 p.82 (発行年: 1999)」が参考になるでしょう。

 図3-2はチェックリストを用いたインスペクション/レビュー結果の記録テンプレートです。管理情報等はアドホックリーディングのものと、ほぼ同じものです。

 図3-2の「使用チェックリストID」にどのチェックリストを使ったかを記入します。記録していないと後で指摘内容がわからなくなるときがあるので漏れのないよう記入します。指摘項目もアドホックレビューとほぼ同様ですが、指摘の根拠となったチェックリストがどれであるかを示す「リスト項目No」を記入します。例えば図3-1の「添え字の値が限界値内にあるか」という項目をチェック中に、配列の最大長を超えるような値が参照されていれば、「リスト項目No」に「a-1」を記入し、どの部分が問題かを「ファイル名/ページ番号」「項目/行数」に、具体的内容を「指摘事項」に記入します。

チェックリストリーディングの効果と限界

 チェックリストリーディングはインスペクタ/レビューアのスキルに依存せず安定した効果が期待できるため、非常に強力です。また、チェックリストを事前に作成者に渡しておくことで、どのような点がチェックされるかを明らかにしておくことができます。注意すべき項目があらかじめ明示されているので「そんなことまで指摘するのか...」というような不協和も起きにくくなります。また、いったんチェックリストを作成すれば類似のソフトウエアやプロジェクトで再利用できたり、誰もがやってしまう思わぬミスの再発を防いだりすることができます。

 一方で、チェックリストを用いることによる限界もあります。チェックリストに記されていないタイプの欠陥を見つけることは容易ではありません。また、チェックリストに記されていても、記述が抽象的すぎると発見できなくなります。極端な例としては「演算を間違えないこと」のように内容は理解できるものの、対象ドキュメントのどこが該当するかをイメージできない場合があります。

 また、時間がたつにつれチェックリストが長くなり、インスペクション/レビューの時間がかかりすぎるという理由で使われなくなることもあります。定期的な見直しや思い切った削除といったメンテナンスも必要になります。

[参考文献]

田村 晃一, 亀井 靖高, 上野 秀剛, 森崎 修司, 松村 知子, 松本 健一「見逃し欠陥の回帰テスト件数を考慮したコードレビュー手法」『電子情報通信学会技術研究報告, Vol.108, No.173, pp.61-66』(発行年:2008)

Glenford J. Myers, Tom Badgett, Todd M. Thomas and Corey Sandler『The Art of Software Testing 2nd edition』John Wiley and Sons (発行年:2004)

静岡大学

2001年、奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程修了。情報通信企業において、サービス開発やシステムインテグレーションに従事し、企画、設計、実装、開発管理、品質向上を実践する。奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 助教などを経て、2011年4月より現職。不具合情報の分析、ソフトウエアレビュー、ソフトウェア計測、実証的ソフトウエア工学を研究の柱としている。
研究グループのWeb:http://ese.inf.shizuoka.ac.jp

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