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「農業IoT」は農業だけのためにあらず

2016年7月12日(火)
ReadWrite Japan

Arableが作り上げた『PulsePod』は、作物の状態の把握に役立つ世界初のIoTデバイスである。これまでのコネクテッドデバイスにはないレベルで環境について計測を行えるという。

ウルフ氏は、農学修士号を持つ科学者だ。Arableを設立する前、彼は急激な気象の変化の影響を緩和するため、カザフスタン政府と共に世界でも辺鄙で貧しいところで働いていた。そこで彼は、データの活用が飢餓を終わらせるための道であることを確信した。そして、彼はプリンストン大で『PulsePod』を制作し、アメリカ国立科学財団から400万ドルの投資を取り付け、まもなくArbleを設立した。

ウルフ氏:「スタンフォード大学の博士課程で、私は人工衛星データのシミュレーションと作物のモデリングについて研究していたが、そのモデルが間違えた過程の上に成り立っていることに気づき、失望した。しかし、それと同時に、現実世界ではどうなっているのかを知りたくなった。

結論、現実の農業には根本的な限界がある。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、現に我々はトウモロコシがどれほど温度に敏感であるかをわかっていない。この無知は、将来の食糧確保に大変な影響を与えるだろう。将来のトウモロコシの収穫が今と同様なのか、その20%ほどになってしまうのかも我々にはわからない。世界中のほとんどの地域では気象観測所の数が十分ではないため、オペレーションの質を高めたとしても多くの人々にとってその場所で何が起こっているのかを把握するすべがないのが現状だ。

農業をする彼らができることといえば、勘を頼りにするか、車で走り回って現場をチェックすることくらいである。その土地が生み出す物の価値の見込み次第によっては、彼らは多くのリスクにさらされてると言えるだろう。大学に勤めだして30年になるが、今に至るまであまり状況は変わっていない。たとえば、人工衛星の画像は90年代と同じ方法で解析されている。誰もがこれを問題視するが、それを変えようと行動は起こしていないのだ。」

ArableとPulsePodができること

『PulsePod』には6つの帯域に対応した分光計、4方向でデータ集積を行える放射収支計に、音響雨量計が備え付けられており、雨・雹のほかに作物の水需要や環境ストレス、局所的な気象変化や大気汚染など40の事象を計測することができる。デバイスは常に稼働しており、bluetooth、WiFi、セルラー網を使って通信を行っている。軍用レベルのセキュリティを備えている他、既存のプラットフォームにデータを送るためのAPIを持つなど柔軟性にも富み、これらのデータはユーザが自由にシェアすることができる。

Arableの開発には、元ハードウェア畑のスタッフが関わっている。工業デザイナーは過去に『Go Proカメラ』を開発し、機械エンジニアは『Fitbit』のデザインに関わった。また、電子エンジニアは世界初のヘッドセットの開発に携わった人間で、小さく精密な製品を作ることに特化したスタッフが揃っている。

ウルフ氏は、PulsePodにより、その場所で起こっていることがこれまでになく見えるようになると説明する。また、「農家が初めて天候による作物の影響を管理し、収穫量予測を計算できることからマーケティング上の判断が行えるようになる」という。「我々は、小規模農家を対象にリスク保障のための保険に取り組みだしていますが、こういうマーケットはかつて、干ばつの予想や食料の確保、気象の変化が与える森林や作物への影響、地方での水資源の利用などについてのリスク管理ができなかったため手出しができない分野だった」と続けた。

データのほとんどは米国やヨーロッパで生み出されているが、それらが必要とされるのはむしろ発展途上国の地方においてだ。セルラー網を使った環境モニタリングにより、よりきめ細かなデータが遠隔地からリアルタイムで送られ、予想の精度を上げることができる。

発展途上国において、気候と作物の状態の計測は行われていないとウルフ氏は言う。「パラグアイの気象情報サービスと仕事をしたが、今でも彼らは気象観測所を持っておらず、首都のアスンシオンにレーダーシステムがあるだけだ。そのため、洪水が起これば大規模な交通渋滞や住民への問題が発生する。観測によってきめ細かい情報がリアルタイムで入手できれば、彼らは先手を打つことができるようになるだろう。」

そして、ニューヨークにおいてすら、気象の追跡は暴風雨のマネジメントに必要であるとウルフ氏は続けた。「先日、洪水に見舞われる可能性があるとNY市長執務室から連絡があった。舗装された地面というのは複雑なもので、地点Aでの降雨が地点Bの洪水にどう結びつくのか彼らには分からなかったのだ。しかし、この問題もデータ活用によって、それがどこから始まり、暴風雨の排水のどこに着目すべきで、もっとも影響が大きくなるのはどのような場合かということを割り出せるようになった。また、米国においても小麦やベリーの生産に問題はある。そこで、まずは作物の状況を見てから、どうすれば我々がつくるプラットフォームが彼らが抱える問題に最大限応えうるかを考えている。」

また、彼は世界最大のベリーの生産者との経験について次のように語った。

「特殊な作物に関する予想へのニーズは巨大で、それはひとつの分野にすらなっているが、そのためのツールは今までなく長らく問題とされてきたと思う。マーケティング上の判断を行うために、まずはその土地でどれだけのベリーができるかを知る必要がある。そこで、収穫の4週間前になると畑に出てまだ青いベリーを数え、ちょっとした計算を行い、どれだけのベリーを販売するかの概算をしている。

この概算がとても重要であり、ここで収穫量の見込みを誤れば、ある時は良い値段で売れていたのに、別の時には二束三文で売り払うか畑で腐らせるかしかなくなることもある。しかし、特殊な作物を作る彼らにとってはこれが日常なのだ。彼らにはリスクヘッジができず、何か別のものと交換するための機構があるわけでもない。彼らが使えるツールは多くなく、これまで高いリスクにさらされてきたと言える。」

農業は技術のイノベーションの恩恵を大きく受ける分野である。そして、Arableはこれまでよくあることだとされていた問題に対するソリューションを提供している。彼らが世界中の飢饉を終わらせるにはまだ時間がかかるだろうが、確実にその一歩を踏み出していると言えるだろう。同社パートナーには、米国エネルギー省、ジェット推進研究所、米国国際開発庁、Treasure Wine Estatesなどが名を連ねている。ゆっくりでも確実なその歩みに期待したい。

ReadWrite[日本版] 編集部
[原文]

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