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IoT無線規格の動向―周波数帯別の特徴を理解しよう

2016年12月14日(水)
岡田 信孝(おかだ のぶたか)

はじめに

IoT(Internet of Things)を直訳すると「モノのインターネット」となり、あらゆるモノがインターネットに繋がることを表しています。膨大なデバイス(モノ)の情報を集めることによって、全体像を把握するだけではなく個々のデバイスを見ていただけではわからなかった傾向を抽出することも可能になっています。IoTのメリットを生かすためには、とにかくたくさんのデバイスの情報を集める必要があります。そのとき、通信手段として有線ネットワークを使用するとあちこちでワイヤーだらけという状況になってしまいます。これでは使い勝手が悪いので、IoTに向けた通信というと通常は無線通信のことを指します。有線通信であっても無線通信であっても、制御するソフトウェアから見た場合には差はありません。ただ、無線ならではの特徴や各通信規格の違いを知っておくことはIoT向け無線モジュールを制御するITエンジニアにとっても必要です。

電波は目には見えませんが、適切な計測器を使用すればそのふるまいを可視化できます。本連載では、これからIoTデバイスを開発するエンジニアのために無線規格の概要から測定方法にわたって解説する予定です。

IoT向け通信規格の方向性

IoT向けとうたった無線通信規格は数多く存在しますが、それぞれ特徴を持っています。個々の規格を説明する前に、用途ごとの要求事項をまとめてみましょう。以下に4つの主な方向性を記します。

  • 低消費電力用途
  • 高速通信用途
  • 遠距離通信対応
  • 移動通信対応

低消費電力用途

デバイスの消費電力を削減することを第一に規格が作られています。IoTデバイスではボタン電池1個で数ヶ月から数年間動作させたり、エナジーハーベスティングと呼ばれる環境発電での動作を求められることがあります。このような超低消費電力の用途では、無線回路の消費電力も低いことが求められます。IoTデバイスにおいては、搭載されるマイコンなどのデジタル回路の消費電力と比較して無線回路の消費電力がはるかに大きいので、IoTデバイスの消費電力を削減するためには、無線回路の電力消費を抑えることが必要です。低消費電力用途に特化した規格としては、Bluetooth Low EnergyやEnOceanなどがあります。

高速通信用途

カメラで撮影した動画などの大容量のデータを通信する用途では、高速通信が可能な無線LAN規格またはそれに準じた規格が使用されます。LTEなどのセルラー通信も高速通信に対応していますが、常時使用すると通信料金が高額になったり速度制限がかかったりするので、映像伝送用として使われることはあまりありません。最新の無線LAN規格であるIEEE802.11acでは1Gbps以上の高速通信に対応しています。

遠距離通信対応

IoTデバイスで収集したデータをサーバに送るためには無線通信を有線インターネットに変換するアクセスポイントまたはIoTゲートウェイと呼ばれる基地局が必要です。農業向けIoTなど広いエリアをカバーする必要がある場合、IoTデバイスの通信距離が短いと基地局を数多く設置しないといけません。しかし、遠距離通信に対応した無線規格を使用すれば基地局の設置数を減らすことができるので、設置コストが低減できます。遠距離通信向けの規格としてはLoRa(ローラ)、Wi-Fi HaLow(ワイファイ ヘイロー)などがあります。

移動通信対応

デバイスの移動範囲が広い場合や高速で移動する可能性がある場合、セルラーIoTと呼ばれる携帯電話のネットワークを使用した通信が使われることがあります。LTEやその後となる5G通信ではIoT用途に特化した低速度であるが低消費電力な規格が用意されます。これらの規格では低速度の通信を低料金で使用可能な通信規格や料金体系が用意されており、IoT向けの低速度通信に特化したMVNOも登場しています。

使用する周波数による違い

電波の性質として、周波数が高いほど伝搬中の減衰が大きくなるという特徴があります。また、周波数が高いほど直進性が高いので、障害物の陰には電波が届きにくくなります。少し前に携帯電話各社がプラチナバンドの宣伝をしていましたが、プラチナバンド(700〜900MHz帯)は1.5GHz帯や2GHz帯と比較して周波数が低いので障害物の裏側まで電波が届きやすく、圏外になりにくいという特徴があります。一方、周波数が高いということは波長が短いので、フィルタやアンテナ等のRF部品が小型化できるというメリットがあります。また、一般的に周波数が高いほうが広い帯域幅を使用できるので高速通信への対応や多チャンネル化が容易になります。

無線通信で使用される主な周波数帯とその用途

  • 13.56MHz(近距離通信)
    RFID(Suica、Edy、Nanacoなど)、高周波加熱器、非接触電力伝送など
  • 300MHz帯(微弱無線でも使用可能)
    キーレスエントリ、小電力無線など
  • 920MHz(遠距離通信に対応)
    RFID、テレメータなど
  • 2.4GHz帯(高速通信も可能)
    無線LAN、Bluetooth、ラジコン、ZigBee、ワイヤレスマイクなど
  • 5GHz帯(高速通信も可能)
    無線LAN、気象レーダなど
  • 700MHz~3.5GHz帯
    携帯電話及びLTE回線

このように様々な周波数帯がありますが、IoTで使用されるのは主に2.4GHz帯と920MHzのどちらかの周波数帯です(他の周波数を使うこともあります)。

2.4GHz帯と900MHz帯の通信はそれぞれの以下のような特徴を持っています。

2.4GHz帯

  • 各国で共通で使用できる周波数
  • 映像伝送等の大容量伝送にも使用可能
  • 他の通信や電子レンジとの干渉を回避する必要がある
  • 信頼性の高い低速度の無線ネットワークの構築も可能
  • アンテナの小型化が可能

900MHz帯

  • 各国で使用が許可されている周波数が異なる
  • 日本では920MHz帯
  • 遠距離通信にも対応可能
  • 広帯域通信には使用できないため、大容量伝送は不可
  • 2.4GHz帯と比較すると大きなアンテナが必要

このように、使用する周波数によって通信の特性は大きく異なりますので、どの周波数を使用するかの決定は非常に重要です。実際の無線モジュールの性能は使用する周波数帯とともに通信方式にも依存します。各通信方式の違いとモジュールの選択方法については次回ご説明します。

ここで、2.4GHz帯の電波干渉の例をご紹介します。2.4GHz帯は無線通信の他に電子レンジでも使用しており、電子レンジを使用すると2.4GHz帯の無線LANが切れるという話は聞いたことがあると思います。無線LANやBluetoothなどの通信規格ではお互いの干渉を避けるために、他の通信が使用している間は電波を出さない仕様になっているのですが、電子レンジは電波の環境には無関係に作動します。以下は無線LANの通信に電子レンジが干渉している様子を観測したものです。

ここで、右下は周波数vsレベルのスペクトラム表示です。左下はコンスタレーション表示という信号品質を表す表示です。点の大きさが小さいほど送信品質が高いとお考えください。PC→アクセスポイントの信号、アクセスポイント→PCの信号、デジタルコードレス電話の信号が同じ周波数を使っていますが、お互いに干渉しないように制御されています。

電子レンジのスイッチを入れたところの表示です。電子レンジから漏れる電磁波が無線LANに干渉している様子がわかります。左下のコンスタレーション表示の点の大きさが先ほどよりも大きくなっていることから、送信品質に影響が出ていることがわかります。

電波環境が悪化したため、無線LANの通信方式がIEEE802.11gからIEEE802.11bに変更されました。11bは11gよりも通信速度は遅いものの干渉には強くなっています。このように無線LANモジュールは電波環境に応じて自動的に電波干渉に強い通信方式(電速度は遅い)に変更して通信を継続しようとします。

電波干渉の様子をスペクトログラムという、周波数vs時間の表示で見てみました。電子レンジから漏れる電磁波は他の通信のあるなしに関わらず10ms毎に出力されていることがわかります。無線LANの信号送信中に電子レンジからの電波が干渉している様子がわかります。

実際には電子レンジの稼動は数分間から数10分間であり常時稼動している訳ではないので、2.4GHzを使用した無線通信が電子レンジからの干渉で使用できないケースは少ないかもしれません。一方、電子レンジが稼動していない環境であっても、東京ビックサイトや幕張メッセのような展示会場では無線LAN搭載機器が多過ぎることで、電波環境の悪化で通信に支障を来す場合があります。

このように、無線通信は有線通信と異なって他の通信や電波環境によって影響を受けることは避けられません。しかし、それを差し引いてもケーブル接続から開放されるメリットは大きく、今後とも無線通信が使用されるケースはますます増えていくことでしょう。

著者
岡田 信孝(おかだ のぶたか)
テクトロニクス
1992年にソニー・テクトロニクス株式会社(現テクトロニクス社)に入社。信号発生器のマーケティングや営業職を経験したのち、現在はRFアプリケーション・エンジニアとして無線関連の技術サポートを担当。

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