IoT向け無線信号を測定してみよう

2017年7月18日(火)
岡田 信孝(おかだ のぶたか)

無線信号を測定するにはスペクトラム・アナライザという測定器を使用します。スペクトラム・アナライザ(以下スペアナと略します)は周波数ごとの電波の強さを測定します。スペアナにアンテナを接続することにより実際の電波の使用状況がわかります。

これはスペアナを用いて関東地方でFM放送の信号強度を測定した例です。横軸が周波数、縦軸が信号強度です。スペアナを使用することによって各放送局の信号強度の違いを確認することが可能です。

IoT向け無線通信信号はデジタル変調がかかっているので、信号強度の測定だけでなく振幅・周波数・位相が時間によってどのように変化しているかを測定する必要があります。このような信号解析機能を持ったスペアナをシグナル・アナライザと呼ぶこともありますが、今回はシグナル・アナライザを含めてスペアナと表現します。

では、実際のIoT信号の測定例を見てみましょう。

1. Classic Bluetooth

Bluetooth3.0以前のBasic RateのBluetooth信号の測定例です。測定したのは送信品質測定用のテスト信号なので、周波数ホッピングはしていません。

左上:DPXリアルタイム表示(Frequency vs Level)
左下:スペクトラム表示(Frequency vs Level)
右上:時間対振幅表示(Time vs Amplitude)
右下:時間対周波数表示(Time vs Frequency)

Bluetooth信号はFSK(Frequency Shift Keying)信号なので、振幅の変動は無く周波数だけが変化しています。周波数の高低で0と1のデジタルデータを伝送しています。

2. Bluetooth Low Energy(BLE)

左上:DPXリアルタイム表示(Frequency vs Level)
左下:スペクトラム表示(Frequency vs Level)
右上:時間対振幅表示(Time vs Amplitude)
右下:時間対周波数表示(Time vs Frequency)

Bluetooth Low EnergyはClassic Bluetoothと変調方式は同じですが、変調する周波数幅が異なります。右下の時間対周波数表示で、周波数の変動(縦方向の変化)が大きいことがわかります。また、左側の周波数対振幅の表示で、占有する周波数幅(横方向)が広くなっています。Classic Bluetoothのチャンネル間隔は1MHzなので、各チャンネルが占有する帯域幅は1MHz未満に収まっている必要があります。対してBLEは2MHz間隔なので、チャンネルあたりの占有帯域幅は1MHzを超えても2MHz未満であれば問題ありません。

3. LoRa(LPWA)

920MHz帯を使用したLPWA(Low Power Wide Area)のひとつであるLoRa信号の測定例です。LoRaという名前はLong Rangeから来ています。最大で数10kmまでの通信を中継なしで行うことができ、低消費電力という特長があります。

左上:DPXリアルタイム表示(Frequency vs Level)
左下:スペクトラム表示(Frequency vs Level)
右上:時間対振幅表示(Time vs Amplitude)
右下:時間対周波数表示(Time vs Frequency)

LoRaの信号はチャープ・スペクトラム拡散という特殊な方式を採用しています。振幅は一定で周波数を変化させますが、通常のFSKのように周波数の高低で0と1を伝送するのではなく、周波数が連続的に変化する信号(チャープ信号)を使って0と1を伝送します。周波数が上がる信号(アップ・チャープ)と下がる信号(ダウン・チャープ)を組み合わせて信号を伝送しています。

4. IEEE802.15.4(ZigBee、Thread、6LoWPAN)

主に2.4GHz帯を使用するセンサ・ネットワーク向けに使われている通信規格です。ZigBee、Thread、6LoWPANなどは物理レイヤとしてIEEE802.15.4規格を採用しています。物理レイヤは同じでも、各規格に対応するために上位レイヤは異なっています。物理レイヤが同じであればスペアナでの測定結果に違いはありません。

左上:DPXリアルタイム表示(Frequency vs Level)
左下:スペクトラム表示(Frequency vs Level)
右上:時間対振幅表示(Time vs Amplitude)
右下:時間対位相表示(Time vs Phase)

この信号は振幅が一定で、位相が変化しています。このように位相の変化で信号を伝送する方式をPSK(Phase Shift Keying)と呼びます。このままでは信号の様子がわからないので、スペアナのデジタル変調解析機能を使ってコンスタレーション表示を見てみます。

左上:時間対位相表示(Time vs Phase)
左下:時間対周波数表示(Time vs Frequency)
右上:コンスタレーション表示(I軸 vs Q軸)
右下:スペクトラム表示(Frequency vs Level)

コンスタレーション表示は中心からの距離(振幅)と角度(位相)の組み合わせで信号を表現します。コンスタレーションが円になっているということは、振幅が一定であることを示します。4つの位相(0度、90度、180度、270度)で2ビットの信号を表現しています。

この例では、赤く表示されているのがデータのポイントで、黄色い部分はそこに至る軌跡です。IEEE802.15.4ではO-QPSK(オフセットQPSK)という変調方式が使用されています。

今まで例に挙げた変調方式ではいずれも振幅が一定で周波数又は位相で変調しています。振幅が一定だとRFアンプなどのアナログ回路の電力効率を上げることができるので、低消費電力なシステムを構成できます。一方、振幅の変動を使って信号を伝送する例もあります。

5. RFID(非接触ICカード)

交通系ICカード(Suica、PASMO、toica、ICOCAなど)やEdyなどの非接触ICカードの読み取りには13.56MHzの周波数を使用します。変調方式はASK(Amplitude Shift Keying)なので、振幅の高低で0と1のデジタルデータを伝送します。

左上:DPXリアルタイム表示(Frequency vs Level)
左下:スペクトラム表示(Frequency vs Level)
右上:時間対振幅表示(Time vs Amplitude)
右下:時間対周波数表示(Time vs Frequency)

リーダ・ライタからの問い合わせ信号の後にICカードからの返信が返っています。ICカードには電池は入っておらず、リーダ/ライタからの信号をアンテナで受信して電力に変換し、その電力で内部のICチップを動かしてICカード内の情報をリーダ/ライタへ送っています。

6. ラジコンの送信機(2.4GHz帯)

これはIoTではありませんが、IoTと同じ周波数を使用する通信の例として2.4GHz帯を使用するラジコンの通信信号を測定してみます。従来はラジコンといえば27MHzや40MHz等の周波数を使用することが多かったのですが、最近では2.4GHz帯が使用されることも多くなってきました。2.4GHz帯を使用することでRF回路やアンテナの小型化が可能になっています。2.4GHz帯はドローンの遠隔制御や撮影した映像を送るするための映像伝送にも使われます。

左上:DPXリアルタイム表示(Frequency vs Level)
左下:スペクトラム表示(Frequency vs Level)
右上:時間対振幅表示(Time vs Amplitude)
右下:時間対周波数表示(Time vs Frequency)

ラジコンカーのプロポ(送信機)の信号です。RFパルス信号がいくつか送信されているのがわかります。信号に変調はかかっていません。規格化されていないので詳細は不明ですが、RFパルスの数や間隔でアクセル量やハンドルの角度を送信していると思われます。

IoT向け通信信号の測定に必要な機能

一般的なスペアナは掃引型といって、周波数をスイープ(掃引)しながら信号強度を測定します。連続的に電波を送信している通信であれば、掃引型のスペアナでも問題なく測定できますが、IoT向け無線通信信号のように電波の送信時間が短くて休止時間が長い信号の場合、電波の出ているタイミングと測定器の掃引タイミングが合わないと信号が検出できません。一方、リアルタイム・スペクトラム・アナライザ(以下リアルタイム・スペアナと略します)は指定された周波数幅の信号を一度に取り込んで信号の成分を解析するので信号の出力時間が短くても確実に測定することが可能です。

掃引型スペアナ(通常のスペアナ)とリアルタイム・スペアナの違い

このように、通常の掃引型スペアナではIoT向け無線信号の捕捉は難しいですが、リアルタイム・スペアナであれば瞬時に測定が可能です。

従来のリアルタイム・スペアナは大型で高価な機種しか選択肢がなくて専用の測定ベンチが必要でしたが、最近ではUSB接続でPCから操作をするUSBリアルタイム・スペクトラム・アナライザも登場しています。

RSA306B型USBリアルタイム・スペクトラム・アナライザ

テクトロニクス社のRSA306B型は超小型の本体にリアルタイム・スペクトラム解析機能及びシグナル・アナライザの機能を搭載しています。RSA306B型は信号入力部とA/D変換部だけをパッケージングすることにより、従来機種と比較して大幅な小型化と低価格化を実現しています。今回の測定はRSA306B型およびその上位機種であるRSA607型を使用しました。

著者
岡田 信孝(おかだ のぶたか)
テクトロニクス
1992年にソニー・テクトロニクス株式会社(現テクトロニクス社)に入社。信号発生器のマーケティングや営業職を経験したのち、現在はRFアプリケーション・エンジニアとして無線関連の技術サポートを担当。

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