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社内SNS構築事例
Know HowからKnow Whoへ 〜社内SNS構築指南

第5回:社内SNSの弱点を克服する

著者:TIS  倉貫 義人   2007/5/29
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知識創造のサイクルの実現

   バザールという社内の資料や理路整然としたデータを管理する場所を用意したことで、情報流通という観点で、社内SNSと連携ができるようになります。

   社内SNSとバザールの情報の住み分けとしては、前述の通り社内SNSのブログや掲示板で「フロー」の情報を扱い、バザールにて「ストック」の情報を扱うようにします。別の分類で考えると、社内SNSで「暗黙知」を扱い、バザールで「形式知」を扱うといってもよいでしょう。

   暗黙知と形式知の考え方は、野中郁次郎氏の「知識創造企業」に詳しいですが、誤解を恐れずに簡単にいうと、以下のようになります。
暗黙知
個人が経験として持っている直感やノウハウのこと。言語化、数式化できない主観的、身体的な知識。
形式知
他人と共有できる形になったレポートや資料のこと。言葉や数式として形にできる客観的、理性的な知識。

表5:暗黙知と形式知の考え方

   また暗黙知と形式知には有名なSECIモデルという図があります(図7)。

SECIモデル
図7:SECIモデル

   暗黙知だけを重視しても個人が持つだけなので、企業としてのナレッジは蓄積されないし、形式知だけを重視したとしても、それを共有していかないと意味がありません。企業としてナレッジが価値ある状態になるためには、暗黙知と形式知の循環が必要です。

   今回の連載を通じて紹介した「社内SNS」と「バザール」をナレッジの場とすることで、企業における蓄積と活用のナレッジサイクルが実現します。この2つのサービスが、社内のナレッジを流通することを考えた時の両輪になると考えています。

   そして、社内SNSを作る際の重要なポイントであった「社員同士のコミュニケーション」こそが、このサイクルを推進していく際のエンジンになってくるのです。社員同士のコミュニケーションがなければ、ナレッジマネジメントもうまく回らないのです。

知識スパイラルを実現
図8:知識スパイラルを実現


社内SNSの導入のために

   社内ナレッジの流通のためには、社内SNSが重要だと理解できたとしても「導入のための経営層への説明が難しい」「社内に活用する文化がないので難しい」といった話はよく聞きます。また社内SNSを導入する予算を用意するとしても、費用対効果の算出が難しいということもあるでしょう。

   TISの場合、最初はWeb 2.0とSNSの実証実験としてはじめ、ある程度のユーザ数になってから経営層に承認してもらうようにしました。その際、社内SNSだけで費用対効果をだした訳ではありませんでした。つまりバザールをはじめ、他に導入する予定だった社内システムと組み合わせることで導入を認められたのです。

   社内SNSは、ポータルとして他の社内システムへの入り口であったり他の社内システムをまとめて全文検索する場合のインターフェースとしても利用されます。そのように複数のシステムのプラットフォームになるため、SNSだけで導入するよりも他の社内システムと一緒に導入することでさらに効果を発揮するのです。

   また新たに構築する社内システムの利用に関する議論やその効果について話し合う場として社内SNSを使うことができます。このように社内SNSの効果は理解できても、単体での導入の承認が難しいのであれば、他のシステムと一緒に導入することを考えたらいかがでしょうか。

   ほかにも「ブログ」「SNS」というキーワードが、仕事として感じられない、遊びのように聞こえるという話も聞きます。しかし10年前に「eメール」が企業内でも活用されはじめた頃を思い出してください。その頃、仕事には使えないと思っていた人々も、今では仕事に不可欠なツールになっているはずです。つまりブログなどもそうなる可能性があるように、言葉に対する認識は時代によって変化するものです。


最後に

   将来的に、社内SNSというのは企業にとってあって当たり前のシステムになる可能性があると考えています。企業というのは人の集合にすぎませんし、同じ場所で働くことが、同じ会社であるという訳ではありません。

   「お金」という情報の概念がネットワークで確認できる時代ですから、会社が「同じ組織にいる」という概念上の人の集合体にすぎず、会社組織そのものをネットワークに移行することも可能になるかもしれません。どれほど未来かわかりませんが、デバイスが発達してどこでも仕事ができるようになり、ネットが張り巡らされるようになったとき、会社は「SNSそのもの」になる時代がくることでしょう。

   そんな先の話はともかくとして、社内SNSというのは単にシステムを用意してお終いではなく、システムが動きはじめてからが本当の導入がはじまります。試行錯誤しながらでも運営していくことでノウハウは溜まりますので、ぜひはじめてみて欲しいと思います。本連載が少しでもその参考になれば幸いです。

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TIS株式会社 倉貫 義人
著者プロフィール
TIS株式会社  倉貫 義人
基盤技術センター所属。社内の技術支援をするかたわら、社内SNS構築のプロジェクトマネージャ兼メインプログラマとして従事している。一方で、eXtreme Programmingというアジャイル開発の研究・実践を行い、XP日本ユーザグループの代表もつとめている。

情報共有ソーシャルウェア/社内SNS「SKIP」
http://www.skipaas.jp/
XP日本ユーザグループ
http://www.xpjug.org/


INDEX
第5回:社内SNSの弱点を克服する
  社内SNSの価値
  資料を共有する仕組みを作る
知識創造のサイクルの実現