エンジニア成長戦略の羅針盤 9

加速する出社回帰の波、これからのエンジニアのキャリアとは

第9回の今回は、企業で加速する「出社回帰」の背景と実態を踏まえ、エンジニアの働き方やキャリアへの影響、そしてAI時代に生き残るために求められるスキルとキャリア戦略を解説します。

土屋 晴菜子

1月8日 6:30

はじめに

2025年8月に発表したレバテックの調査では、実際に約4人に1人が企業からの要請で、出社頻度を増加させていることが明らかになりました*1。またITエンジニアを採用する企業担当者の約25%が「出社頻度の増加を検討している」と回答している*2ことからも、出社回帰の波は加速することが予想されます。

そこで今回は「出社回帰の現状」とそれに伴うエンジニアの働き方やキャリアへの影響について解説します。

*1: 「2025年8月発表「リモートワークに関する実態調査(前編)」(PRTIMES 2025/08/07)
*2: 「2025年8月発表「リモートワークに関する実態調査(後編)」(PRTIMES 2025/08/19)

出社回帰でエンジニアの4割が転職検討!?企業とのギャップが明らかに

近年、「全国どこからでもフルリモートで働くことが可能」と打ち出していた企業においても、出社回帰の方針に舵を取るケースが見られるようになりました。しかし、エンジニアの間ではリモートワークを望む声が依然として多い状況です。

前掲の調査*1では、「リモートワークが可能であることは、働くうえでの条件として重要か」という問いに対して、約7割が「重要な条件である」と回答しました。また現在リモートワークをしている方に対し、「今後勤務先が出社回帰の方針を打ち出した場合、キャリアプランにどのような影響を与えるか」聞いたところ、「同じ職種での転職を考えるきっかけになる(43.7%)」と回答した方が4割を超えました。

実際にレバテックに登録した方に転職を検討している理由を聞くと「企業から出社を求められるようになり、家庭との両立を考えると難しい」という方もいらっしゃいます。こうした状況から、企業による出社回帰の動きはエンジニアの離職リスクを高める要因となりうることが示唆されます。

では企業はなぜエンジニアの反発を受けながらも、出社回帰を進めているのでしょうか。

出社回帰を進める企業の狙いとは

①コミュニケーション量や生産性の低下に課題感
同調査では約36%の企業で「コロナ禍と比較して出社頻度を増加させた」ということが明らかになっています。出社頻度を増加させた理由は「コミュニケーションが希薄になった(46.6%)」が最も多く、次いで「新人教育がしにくい(34.2%)」「従業員の生産性が全体的に低下した(32.1%)」が続きます。

マネジメントのしやすさや生産性向上のため、出社回帰に踏み切る企業も存在するようです。

しかし、リモートワークの導入によって「生産性は変わらない」または「向上した」と回答したITエンジニアが約8割を超えているという調査*1もあり、企業側の認識と大きなギャップが生じていることが分かります。

これは、ITエンジニアが考える「生産性」(個人のタスク遂行効率など)と、企業の経営層が捉える「生産性」(組織全体の連携、新人育成、イノベーション創出など )との間に、認識のずれがあるためではないでしょうか。会社として、特に新人の育成やチーム間の連携など、部署・企業単位での総合的な生産性を重視した結果、出社回帰という判断に至っていると考えられます。

②生成AI普及によるエンジニア業務の再定義と組織変革

企業が出社回帰を進めるもう一つの理由は、AIの進化による業務効率化と、それに伴う組織構造の変化です。

GitHub Copilotや各種LLM(大規模言語モデル)の進化により、単純なコーディング作業の多くは効率化・自動化が進むことが予想されています。その結果、一部ではエンジニア業務の見直しや求められるスキルの変化が囁かれ始めました。

もちろん業界や業態によるばらつきはあるものの、Web系自社開発企業などでは特に、スピード感のある開発やビジネス視点を持った各部署の連携を求めて積極的に生成AIが活用されるようになっています。

こうした状況下で、実際に採用担当者からは下記のような声が聞かれます。

  • 「出社回帰など勤務形態の変更によって、様々な意見が社内外から上がってくることやそれに伴う退職が生じることは理解しているが、今後の会社の成長を考えるとリスク以上にメリットが大きいため、会社の成長に最善な意思決定をしている。」
  • 「AI活用を進める専任の人材を配置したことで、業務内容がよりブラッシュアップされる可能性が高い。これまで人手が必要だった単純作業がAIに置き換わることにより、多少の離職には耐えられるのではないか」

このように、企業は出社回帰がエンジニアの離職率に影響を与えることを認識しながらも、生産性の向上、人員配置の最適化など複数の要因を総合的に検討したうえで出社回帰を推進していると考えられます。

テキストコミュニケーションに6割が課題感、
エンジニアが感じる出社のメリットとは

一方で、エンジニア自身も出社によるメリットを感じている方は少なくありません。先述した調査では、出社のメリットとして「コミュニケーションが円滑になる(44.8%)」や「情報共有がしやすい(40.8%)」などが上位に挙げられています。

また、リモートワーク中のテキストコミュニケーションについて聞いたところ、現在リモートワークをしているITエンジニアの約6割が「伝えたいことが上手く伝わらない」と感じた経験があると回答しました。リモートワークの継続を希望する人は多い一方で、コミュニケーションの課題も浮き彫りになっています。出社は、これらの課題を解決し、チームの一体感を醸成する上で重要な役割を果たすと考えられます。

企業とエンジニア、それぞれの思惑が交錯する中で、エンジニアはどのように行動すべきなのでしょうか。

エンジニアは出社回帰にどのように向き合うべきか

出社回帰の波の中で、エンジニアは自身のキャリア形成を見据えた戦略的な行動が求められます。以下に、今後のキャリアプランを検討するうえで考慮すべき点を2つ提示します。

①希望条件とキャリア形成のバランスを検討する
前掲の調査*2によれば、自社における ITエンジニアの働き方として「フルリモート」を導入していると回答した企業は全体の1割程度に留まります。そのため、完全リモートにこだわると選択肢が限られ、キャリアの選択肢を結果的に狭める可能性もあります。

実際に弊社のデータにおいても、「原則出社」の求人は2023年6月時点から僅か2年で約3.4倍に増加した一方で、「フルリモート」の求人は、2023年6月のピーク時から29.5%減少しています。

一方で、ハイブリッドワークを許容したことで、自身の目標とするキャリア形成の実現に近づくケースも多く見られます。

【実際の事例】
育児を理由にフルリモート勤務を希望していた都内近郊在住のエンジニアの事例です。これまで主にPM(プロジェクトマネージャー)として業務を担当していましたが、将来的には社会貢献性の高いサービスに携わりながら、プロダクト全体を見渡せるPdM(プロダクトマネージャー)職に挑戦したいという目標をお持ちでした。

しかし、これまでPdMに求められるようなエンジニアリング以外の視点を必要とする経験が乏しく、さらに「フルリモート勤務」という条件を優先することで、選択肢が限られてしまう状況にありました。

そこで、ハイブリッドワークも含めて柔軟に検討した結果、希望していた社会貢献性の高いサービスを運営する企業から、PdM候補として内定を獲得。勤務形態は週数日の出社を含むハイブリッドワークでしたが、

  • 将来目指すキャリアに直結するポジションであること
  • 事業内容に強く共感できること

を重視し、最終的に転職を決意されました。

このように、フルリモート勤務を選ぶかハイブリッド勤務を選ぶかによって選択できる求人の数が大きく変動してしまうからこそ、「”フルリモートで働く”という条件は自身が思い描くキャリアビジョンの実現にあたってどこまで重要か」を検討してみることは重要だと言えるでしょう。

②AIに代替されないスキルが身につく環境を選択する
AIはコーディングやデータ分析などの定型業務には強いものの、課題抽出や顧客折衝、戦略的思考などはまだ精度が低く、現在は人間の業務を代替できるほどの能力はありません。AIの普及によって人員配置の見直しが予測されるなかで、今後より重要視されるのは以下のようなスキルだとされています。

  • 顧客やビジネス部門と連携し、真の課題を見抜く「要件定義力」
  • 複雑なプロジェクトを完遂させる「マネジメントスキル」
  • 経営層やビジネス部門に対して、技術的な知見に基づき事業成長に貢献する具体的な施策を提示するための「ビジネスへの深い理解と提案力」

また、これらのスキルに共通して求められるより高度なコミュニケーション能力と抽象度の高い課題に向き合う思考力は、AIが抽出したデータや情報を、企業の戦略的な意思決定に繋げるために特に重要となるでしょう。これらの能力を高めるほど、長期的に市場で活躍でき、人員配置の見直しが行われたとしても重宝される人材になるのではないでしょうか。

出社回帰の動きは、対面でのコミュニケーション機会が増えるハイブリッドワークや原則出社の環境下で、これらの上流スキルを磨くための追い風となるかもしれません。エンジニアは、働き方の変化に一喜一憂するのではなく、AI時代を見据えて、より付加価値の高い上流スキル、そしてAIを最大限に活用して成果を出すためのスキルを意識的に磨くことが、今後生き残るための鍵となるでしょう。

おわりに

企業が進める出社回帰は、コミュニケーション改善や生産性向上、そして生成AI時代の人員配置の見直しという戦略的判断に基づいています。一方、エンジニアのリモートワーク志向は強く、このギャップは離職リスクを高める要因となっています。

エンジニアがこの変化を生き抜くためには、「フルリモートに固執せずハイブリッドワークなども視野に入れ、キャリア形成とのバランスを取ること」、そして何よりもAIに代替されない「要件定義力」や「マネジメントスキル」といった上流スキルを磨き、自身の市場価値を高めることが重要です。出社回帰の環境を、対面でのコミュニケーションを通じてこれらのスキルを強化する機会と捉えることが、今後のキャリア成功の鍵となるのではないでしょうか。

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