アンケートから見るSOX法の対応状況
運用・継続的業務改善への取り組み
それに比べると、もう1つの課題であった運用、とくに継続的業務改革については危惧される面がいくつかある。
その1つ目の理由は、下記のアンケートの結果からもわかるように、「業界横並び」もしくは「最低限の取組み」という意識が強いことがそのこと端的に 示していると考える。「SOX法の対応リーダー」と「対応姿勢」についてのクロス分析から、経営トップ自らが主体的に取り組もうと考えている企業は、多少 のコストをかけても高いレベルを確保したいと考えている比率が高い。
このことから、「業界横並び」意識は、経営者が主体的に取り組めていないことに起因していると考えられる。実際に企業担当者とディスカッションを行 うと、スタッフの問題意識の高さと比較して、実際に資本市場から内部統制の主体者として指名されている経営者の意識の低さを感じることが多々ある。
過去発生した不祥事の事例分析からも、経営者こそが内部統制に重要な要素であることは、明らかである。経済産業省企業行動の開示・評価に関する研究 会より、「コーポレートガバナンス及びリスク管理・内部統制に関する開示・評価の枠組み」についても指針が提示されている。
このなかで、過去の大きな不祥事24件について、原因分析を行っている。原因は様々あるが、報告書の中では、以下のようにまとめられている。
——コーポレートガバナンスにおける問題および内部環境に関する問題(その中でも特に行動規範に関する問題)において企業に何らかの問題があったことが、多くの不祥事発生および発生後の重大な損害の拡大の重要な原因となったのではないかと考えられた。
経営者が主体となるべき
また日本版SOX法だけでなく、新会社法/金融庁確認書など、内部統制強化についての法律・規制が制定されている。それらに共通するのは、「経営者」を主体者として定めている点である。非常に類似の法律・規制であり、日本においてこそ「経営者」の全体総括的な取り組みが必要とされていると考えるこ とができる。
「経営者」が主体的に内部統制に取り組むべきであると指名しているにもかかわらず、十分に経営者が中心となって取り組めておらず、実質的には「現場を中心とした文書化作業プロジェクト」となってしまっている企業が多いと危惧される。
また日本企業の場合、モニタリングならびに継続的業務改革につなげようとすると、経営者の主体性と同等以上に「内部監査人材の不足」という問題に直面するものと思われる。
日本における会計監査人の数は約1万6000人(JICPA登録数)、一方米国は33万人(AICPA登録数)である。人口規模・経済規模格差が存 在するので一概には比較することは難しいが、米国の約10分の1程度しか会計監査人がいないこととなる。これに伴い外部監査より内部監査が重要な役割を担 う、つまり企業における内部監査人の役割は重要となってくるのだが、この内部監査人の数も会計監査人同様に少ないものといわれている。
野村総合研究所が昨年夏に実施したERM(Enterprise Risk Management)関連のアンケートにおいても、モニタリング・監視機能の未熟さを日本企業の多くは自覚していた。今後、更に労働人口が減少していく ことなどを考えると、今まで以上に内部監査に社内の経営資源(人材)を割り当てることは難しく、人手に代わる仕組みによる支援が必要であると考えられる。
このように、リスクアプローチの採用やパイロットプロジェクトの実施により、作業負荷の軽減はある程度可能となる。しかし、経営者の主体性不足と内部監査人材の不足が、本質的な内部統制レベルの向上を阻害する要因として危惧される。
では、一体どのように企業は取り組むべきなのであろうか。米国のベストプラクティスを踏まえ、次回は取り組み方に説明する。