PMOの「4つのタイプ」と「求められる役割」
はじめに
実は「PMO(ピーエムオー:Project Management Office)」には、大きく分けて「プロジェクト内PMO」「部門PMO」「コーポレートPMO」「第三者評価PMO」の4つのタイプがあります。これらは業務の領域がそれぞれ異なり、求められる役割もまた異なります。
今回は、これら4種類のPMOについて、その特徴と求められる役割、ステップアップの方法などを解説していきたいと思います。
PMOの「4つのタイプ」それぞれの特徴と役割
それでは、PMOの4つのタイプについて、ぞれぞれどのような特徴や役割があるのかを見ていきましょう。
【タイプ1】プロジェクト内PMO
事業部内の1つのプロジェクトを管理するPMOです。日本においてPMOと言えば、多くの場合はこの「プロジェクト内PMO」を指します。
メンバーの作業状況を把握するための情報収集、進捗報告書作成、スケジュール・品質・リスク・コストの管理、ステークホルダーへの対応といった支援を行います。マネジメントの徹底、生産性向上に責任を持つケースが多く、PMのサポート役としてプロジェクトを推進していくのが仕事です。
【タイプ2】部門PMO
事業部長直下に組織され、部内の複数のプロジェクトを管理するPMOです。1プロジェクトにとどまらず、事業部全体のスケジュール調整、売上、原価、サービス提供、品質などのコントロール、他事業部との関係性構築なども担うのが、プロジェクト内PMOとの違いです。
例えば、全国展開する販売店の「新商品発売プロジェクト」の場合で考えてみましょう。事業部内では「新商品の開発」「全国の店舗を改装してオープンする」など、いくつかのプロジェクトが同時に走っています。このとき、それぞれのプロジェクトは「新商品の完成」「店舗の完成」がゴールとなりますが、「店舗のリニューアルオープンに合わせて新商品も発表」とした方が相乗効果で売上拡大が見込めます。
部門PMOは、それらのプロジェクトを横断的に把握し、進行管理や品質管理などを進めていくのです。特に部門横断となれば、関係者も段違いに増えます。関係者が本来業務に集中できるようにする環境づくりも部門PMOの大きな役割です。
【タイプ3】コーポレートPMO
経営層直下に組織され、経営企画部に近い立場でマネジメントを行うPMOです。海外では「エンタープライズPMO」と呼ばれます。
社内で並行して走っている複数のプロジェクトのコントロール、関連事業の状況把握などを担うほか、事業部間でシナジーを起こす施策の検討・実行など、部門内PMOよりも幅広い全社的な領域を担当します。全社横断的に「ガバナンス」「標準化」「教育」「リスクマネジメント」「予算管理」などを行うほか、戦略策定支援や人材育成といった経営企画室の役割を持たせるケースもあります。
私が経験した事例を紹介すると、50ほどのシステム案件が並行稼働する金融系企業(社員数500名規模)で1年間、コーポレートPMOとして情報の一元化や組織運営の効率化、組織の活性化のための提案と推進を行いました。
「マネジメントレポートと案件進捗情報が連動しておらず、タイムリーな報告が経営層に届かないため組織的な判断ができない」「社内OAの効率が悪く、社員の業務効率が低下している」などの課題に対し、役員向けの報告書を自動生成して迅速な経営判断ができる仕組みの構築、社内OA刷新のための状態把握や課題点の整理、構想立案などを手掛けました。
【タイプ4】第三者評価PMO
これまでに説明してきたPMOとは異なり、経営層、事業部、プロジェクトからは切り離され、完全に第三者的な立場で会社運営・プロジェクト運営が適正にされているかを評価するPMOです。外部からスポットとして入ることが多いポジションとなります。
企業の一般的な仕組み、理想の状態、業界のトレンド、法律の動きなど幅広い視野、知識が求められます。金融機関の監査部や品質保証部などに配置される場合は、金融庁との窓口となって社内を第三者的に評価する「内部監査部」「リスク管理部」のような位置付けとなることもあります。
4つのタイプの「違い」と「持つべきスキル」とは
ここまでに紹介した4つのタイプのPMOは「プロジェクトを成功に導く」という仕事自体において、そこまで大きな違いはありません。しかし、担当する業務領域の広さ、仕事量、関わる人数や組織は「プロジェクト内PMO」→「部門PMO」→「コーポレートPMO」→「第三者評価PMO」と、紹介した順に大きくなっていきます。それに伴って、必須とも言うべきスキルが2つあります。
1つは「文章やコミュニケーションの丁寧さ」です。例えば、プロジェクト内PMOとして10人程度の小さなプロジェクトを管理するなら、少々荒い文章でも不都合は感じないかも知れません。個々のコミュニケーションが比較的取りやすいため、書面で伝わらない箇所があれば口頭での補足説明なども可能だからです。
しかし、部門内PMOやコーポーレートPMO、第三者評価PMOとなると話は別です。関わる人数が数百人規模になることもありますし、さまざまな部署や企業との連携が増えるため、個別に会話することが難しくなります。そうなると、情報の伝達手段は「書面がすべて」となり、求められるレベルは当然高くなります。さらに付け加えると、その書面の精度はあなたの評価にも直結するのです。これは文章作成だけにとどまりません。物事を伝えるコミュニケーションにおいても「この表現で全員に伝わるだろうか」「この発言の意図を正しく伝えよう」などを強く意識し、丁寧に行う必要があります。
もう1つは「文章の読解力」です。これはすべてのPMOに求められるポイントです。プロジェクトに関わる際は関連部署、企業の規約やルール、商品やサービスの知識などを知っておかなければなりません。そのため、過去の資料や条文などを読んでしっかり理解するプロセスが欠かせないのです。
プロジェクト内PMOは関わるプロジェクトが限られていますから、理解が必要な情報量もそれほど多くありません。例えば「経理部の業務効率化プロジェクト」なら、経理部やその会社周りのことを知っていれば、プロジェクトを進めることは可能です。
しかし、部門内PMO、コーポーレートPMO、第三者評価PMOと段階が上がれば上がるほど、1つの部署や会社だけでなく「一般的な会社のルールでは……」「この業界では……」「法律的には……」など、理解の必要な範囲はグッと拡大します。ここで「読解力」が必要とされるのです。
ちなみに、PMOはこれまで自分が経験してこなかった業界に配属されることもありますが、まったくわからない業界のPMOになった場合でも、読解力があれば物事を理解して進めていけるため、何にも動じることはありません。
ここまでを読んで「プロジェクト内PMOなら、それほど高いレベルは求められないのだな」と思われるかもしれません。しかし、そもそも1つのプロジェクトという“小さな世界”で「丁寧な書類作成」や「必要な情報の収集、理解」がきちんとできていなければ“大きな世界”を担当するようになったとき、それをできるわけがないのです。
部門内PMOやコーポレートPMOになって初めて「やらねば!」と取り組むのではなく、プロジェクト内PMOでスコープが限定されている状態で管理しているときから、アウトプットやインプットの力をコツコツ磨いておくことが大切です。
「ステップアップの機会が来ない」と感じたら……
4つのタイプのPMOのうち、プロジェクト内PMO、部門PMO、コーポレートPMOは目の前の仕事をきちんと行っていれば、この順番通りにステップアップしていくのが一般的です。
私のPMO歴も、プロジェクト内PMOからスタートしました。1プロジェクトにつき半年〜1年間関わり、プロジェクトの課題を解消し、経験を重ねていく中で変化がありました。それは、プロジェクトの課題ではなく、お客様の企業内の課題まで見えてきたことです。
すると「今回はプロジェクトに対してこのように対処しましたが、この部分は事業部内で根本的に変えるか、仕組み化を進めるべきだと思います」といった提案ができるようになりました。そして「では、次は部門PMOとして横串で仕組み化を手伝ってほしい」とステップアップの機会を得たのです。
部門PMOとして仕事をしていると、次に見えてくるのは会社全体の課題です。特に人材育成や評価制度、各事業部の運営方針のバラつきなどは「すべての事業部を同じ評価軸で見たい」と考えている経営層にとって大きな課題です。ここで問題点を指摘し、標準化や仕組み化など改善策を提案できるとコーポーレートPMOへの道が開くはずです。
私は正直、PMOになるまではPMOに4つのタイプが存在することを知りませんでした。結果的にすべてを経験しましたが、振り返ってみると「提案力」が決め手になったと感じています。
今、プロジェクト内PMOをしていて「プロジェクトを成功させているのに、ステップアップの声がなかなかかからない」という方は、ぜひご自身の提案力を見直してみてください。プロジェクトを成功させて「終わり!」と思っていませんか?
確かにPMOの目指すべきゴールはプロジェクトの成功ですが、その中には1つや2つ「ここをもう少し改善できるとスムーズになるのに……」といった提案につながる気づきがあったはずです。
それらを提案することで、自分の経験値も積み上げることができます。もしステップアップを望むなら、ぜひ臆せずどんどん提案にチャレンジしてみてほしいです。もちろん、今いるポジションを長年務めて極めるという道もありだと思います。
ただし、4タイプのうち、第三者評価PMOだけは、他の3つとは毛色が異なります。PMOと言っても会社全体を外から見る立場でプロジェクトの中身にはほぼ関わらないため、人によっては「面白みがない」と感じるかもしれません。ただ企業からは客観的な意見やアドバイスを求められる高いニーズがあります。
ちなみに、私は第三者評価PMOとしてプロジェクトの健全性を客観的に評価し、見えてきた改善策を提案することにより、その会社のプロジェクト内PMOに配置されたという経験もあります。
「火消し」より「防災」がしたい!
とは言え、私も最初から「提案力」があったわけではないのです。提案力を身に付けることができた背景には「炎上案件の火消しは非常に大変だ」と痛感したことが大きいと思っています。
PMOは「プロジェクト内が混乱しているから、今すぐ何とかしてほしい」といった、いわば「深刻な緊急事態」に陥ってから呼ばれることが多いです。そんなとき、現場はまさに炎が燃え盛る火事のような状態。ひどいときは、プロジェクトに関わる人たちがみんな盆暮正月返上で仕事をしなければならないといったこともありました。
そんな大変な事態を望んでいる人は、私も含め誰1人いません。そんな経験をしたからこそ「最悪の事態を避けるために、今気づいたことは提案しておこう」と行動するようになりました。それを繰り返すことで提案力が身に付いてきたように思います。提案はPMO自身のためでもあり、何よりお客様のためでもあります。PMOが「消防士」役から「防災士」として「同じ失敗を繰り返させない」「そもそも失敗が起きない環境をつくる」ことも大切な仕事の1つだと思っています。
これは、私が前回(連載第4回「PMOに『向いている人』『向いていない人』の特徴」)でも説明した、PMOに向いている人の特徴「プロジェクトを自分事で考えられる」にもつながってくると思います。
おわりに
第5回の今回は、以下のような内容を解説してきました。
- PMOには大きく「プロジェクト内PMO」「部門PMO」「コーポレートPMO」「第三者評価PMO」の4タイプがある
- タイプによって大きく異なるのは担当する業務領域、関わる人数や組織
- ステップアップの鍵は「提案力」
PMOに4つのタイプがあることを知らなかった方も多いのではないかと思います。PMOの業務領域はとても幅広いのです。今回の記事でPMOにより興味をお持ちいただけたらとてもうれしく思います。
次回は、PMOを導入することでプロジェクトが成功した具体的な事例を紹介します。どうぞお楽しみに!